地域の医師偏在により、現場には「医師不足」感、地域枠の継続などが必要―日病・堺会長
2016.4.25.(月)
日本全体(マクロ)では近い将来、医師の供給過剰になると試算されているが、ミクロで見ると地域間・診療科間での偏在は解消されていない。現場では「医学部の定員増」「計画的な医師の配置」「地域医療計画の再構築」「へき地勤務の義務化」「医療法制の整備」「自治体病院の統合・再編」などが必要と考える―。
日本病院会の堺常雄会長は、25日に開いた定例記者会見で、このような調査結果概要を発表しました。
また、厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」での議論に向けて、「地域枠の確保」や「区域ごとの医師の必要数」などを検討すべきと提言していく考えも示しています。
15年に医師需給に関する調査、現場は「医学部定員増」や「計画的医師配置」など希望
医師偏在の是正に向けた議論が活発になっています。例えば、前述の「医療従事者の需給に関する検討会」の下に設置された医師需給分科会では、将来の医師需給(患者数などの医療ニーズから、医師の必要数を逆算)を検討する前提として、「偏在」の是正が極めて重要であるという認識で一致しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また新専門医制度については、「医師の地域偏在を助長する可能性がある」との指摘を受け、さまざまな対策が検討されています(関連記事はこちらとこちら)。
こうした状況も見据えて、日本病院会では昨年(2015年)10-11月に「地域医療再生に関するアンケート調査」を実施。25日の定例記者会見では、堺会長から結果の一部が報告されました(詳細な結果は、別途公表されます)。
それによると、現場では「医師不足」感が極めて強いことが浮き彫りとなると同時に、医師不足解消に向けて次のような方策をとるべきと考えていることが明らかになりました(重複回答)。
(1)医学部の定員増
(2)医師の計画的配置
(3)地域医療計画の再構築
(4)「へき地勤務」の義務化
(5)医療法制の整備
(6)自治体病院の統合・再編
(7)保険医登録制を活用した医師の計画的配置
このうち(1)は、前述の「医療従事者の需給に関する検討会」や「医師需給分科会」とも関連します。分科会では、一定の前提を置いた上で「近い将来、医師の需給は均衡し、早ければ2024年、遅くとも2033年以降は医師供給が過剰になる」との試算結果を公表。その上で、現在行われている臨時の医学部定員増のうち「医師不足が深刻な地域」に着目した増員は当面継続し、その他の部分は慎重に吟味するとの方針案が厚労省から示されました(関連記事はこちらとこちら)。
堺会長は、この方針案に対し賛否は明確にしませんでしたが、医学部の恒久定員(図の青色の部分)の中で「地域枠は残すべきではないか」との見解を明らかにしています。
ただし、あまりにも地域枠が強大になれば、別の部分で支障が生じる可能性もあるため、具体的な制度設計においては慎重な議論が必要との考えも付言しています(関連記事はこちら)。
このほか、▽地域医療構想(将来のニーズをベースに、機能ごとに必要となるベッド数を試算している)のように、医師の必要数も構想区域ごとに明示する▽新専門医についても必要数や専攻医の定員枠について検討する▽個々の医師について免許取得時から現在までの動向を「見える化」する―といった点について、今後、提言などを行っていく考えも明確にしています。
なお、アンケート結果の中には「医師の計画的配置」や「自治体病院の統合・再編」という回答もありますが、具体的な内容は今後の精査を待つ必要があります。
災害時などに備え、緊急に地域の病院情報などのデータベース化が必要
25日の定例記者会見では、今般の熊本地震(平成28年熊本地震)に対する日本病院会の対応についても報告が行われました。
その中で堺会長は、「大病院については比較的状況把握が可能であったが、中小規模病院の被災状況などの把握が難しい」点を指摘。今後、「会員外も含めて中小病院の情報を把握してデータベースなどを構築」し、災害時などいざというとき活用できる体制を緊急に整備する考えも打ち出しています。
東日本大震災の折には、被災直前に福島県内の病院に関するメーリングリストが整備され、大いに役立ったといいます。こうした体制を整備することが「喫緊の課題」であると堺会長は強調しました。
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