2023年度の薬価中間改定、対象を2021年度改定並みとすれば、薬剤費が4900億円程度減少—中医協・薬価専門部会
2022.12.9.(金)
2023年度に予定されている薬価の中間年改定であるが、2021年度の前回中間年改定と同様に「平均乖離率の0.625倍を超える医薬品を対象」にした場合には、実勢価格を踏まえた薬価の引き下げのみで「全体で4900億円程度の薬剤費縮減効果」が出る—。
12月9日に開催された中央社会保険医療協議会・薬価専門部会では、こういったデータが示され、引き続き中間年改定論議が行われました。
安定供給確保は2023年度薬価改定の外で行うべきとの声が増えてきた
来年度(2023年度)の中間年薬価改定に向けた議論が中医協で続けられています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
まず12月9日の会合には、薬価調査結果を踏まえた「改定対象品目の範囲を仮置きした場合の、品目数と影響額」の試算結果が、厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官から下表のように報告されました。例えば、2021年度の前回中間年改定と同じ考え(平均乖離率の0.625倍超の品目を薬価改定の対象とする)に立つと、対象品目は1万3400品目(新薬1500品目、長期収載品1560品目、後発品8650品目、その他(1967年以前の収載品目)1710品目)、薬価改定(=薬価引き下げ)の影響額(薬剤費の減少額)は4900億円(新薬1590億円、長期収載品1330億円、後発品1810品目、その他140億円)となります。なお、影響額は「実勢価格を踏まえた薬価引き下げ」分のみが考慮され、最低薬価の維持、新薬爽秋等加算付与などの影響はここに含まれていません。
また、新薬のうち「新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目」(約600品目)について見ると、対象品目は▼乖離率2倍超を対象とする場合:ゼロ品目(つまり1品目も薬価引き下げが行われない)▼同1倍超:50品目(加算品目の9%)▼同0.75倍超:160品目(同27%)▼同0.625倍超:240品目(同41%)▼同0.5倍超:310品目(同53%)—、影響額は▼乖離率2倍超を対象とする場合:ゼロ円(薬価引き下げ対象が1品目もないため)▼同1倍超:190億円▼同0.75倍超:460億円▼同0.625倍超:640億円▼同0.5倍超:700億円—となることも紹介されています。
平均乖離率よりも大きな品目のみ(例えば上表の2倍など)を薬価改定の対象に据えれば「改定対象が絞られ、影響額も小さく」なり、逆に平均乖離率よりも小さな品目(例えば上表の0.625倍、0.5倍など)も薬価改定の対象に加えていけば「改定対象は広がり、影響額も大きく」なる形です。
影響額とは、上述のとおり「薬剤費の減少額」を意味します。その4分の1程度が国費であり、薬価改定により「国費の支出も減る」ことになります。この「減った分の国費」は他の社会保障施策等に充当されることが多く(通常の診療報酬改定時には薬価引き下げ分で浮いた国費を、診療報酬本体の引き上げに充当する)、その内容・規模は12月中旬から下旬にかけて行われる政府の予算案編成論議の中で決定されます(2022年度予算案編成における調整に関する記事はこちら)。
したがって、薬価改定の対象範囲をどう考えるか、適用ルールをどう考えるかは、「国費をどの程度浮かせ、他の社会保障施策にどの程度充当させられるか」と極めて密接に関連することから、中医協で決定することはできず、今後の予算案編成過程を注視する必要がある点に留意が必要です。
もっとも、中医協論議が、予算案編成過程の中で「改定の対象範囲をどう考えるか」「適用ルールをどう考えるか」を決める際のベースにもなることから、議論が精力的に続けられています。12月9日の会合では、次のような意見が出されました。依然として意見がかけ離れている部分もある一方で、例えば「安定供給確保への対応」「特別の配慮」などについては「意見集約に向かいつつある」状況も見て取れます。
【改定対象範囲】
▽医療現場では日常に使う医薬品が不足するなど、患者に多大な迷惑がかかっている。2021年度の前回中間年改定並みとした場合(平均乖離率の0.625倍超の品目について薬価を引き下げる)でも、相当の経済的影響が出る(全体で4900億円、薬剤費の減少は製薬メーカーの収益減につながる)。「国民の負担軽減」(この観点からは対象範囲を広げることになる)と「国民の生命・健康を守るための医薬品の安定確保」(この観点からは、メーカーの体力を温存するために対象範囲を限定することになる)の双方に配慮して判断すべき(診療側の長島公之委員:日本医師会常任理事)
▽2017年末の4大臣合意に基づくべきで、2021年度の前回中間年改定を超える範囲を改定対象とすることは認められない(診療側の有澤賢二委員:日本薬剤師会常務理事)
▽通常改定と同様に扱うべき(対象は広めに設定すべき)である。薬価調査結果等を踏まえれば、2021年度の前回中間年改定から狭める理由は見当たらない。また「乖離率の0.5倍まで対象範囲を広げる→0.625倍に比べ100億円の財源を確保できる(この4分の1程度が国費、上表参照)→この財源を安定供給確保に充当する」ことなども考えられる(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)
【適用ルール】
▽中間年改定は通常改定(2年に1度の診療報酬改定と同時に行われる薬価改定)と異なり「薬価と実勢価格との乖離が大きな品目の薬価を下げる」ことが目的であり、実勢価格と連動しないルールの適用など「目的を逸脱する」ことは慎重に検討すべき。仮に目的の範囲を超えるルールを検討するのであれば、その根拠となる事情を厳密に判断し、緊急特例を行うべきか否かを検討する必要がある(長島委員)
▽中間年改定の趣旨に則り、実勢価格連動ルールに限定すべき(有澤委員)
▽新薬創出等加算にかかる累積控除と、長期収載品から後発品への置き換えにかかるG1・G2は実勢価格に連動するものであり、2023年度改定でも適用すべき(松本委員、関連記事はこちら)
【医薬品の安定確保に向けた対応を薬価改定の中で行うべきか否か】
▽医薬品全体の28.2%、後発品に限れば41%で出荷調整が行われるなど、医薬品供給が厳しい現状がある。しかし、そのほとんどは「企業のGMP違反に端を発する」ものであり、薬価での対応で解決するとは考えにくい。産業構造・ビジネスモデル全体の見直し状況を見て検討すべき(長島委員)
▽今以上に安定供給に支障が出る状況は避けるべきであり、不採算品目については柔軟な対応を図るべき(有澤委員)
▽業界ヒアリングや各種データを踏まえれば、安定供給確保と薬価改定とは別の検討テーマであることがわかる。ただし特例的に不採算品目については、改定対象に含めたうえで特別の配慮を行うことも考えられる(支払側の安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)
【ドラッグ・ラグ再燃などが指摘される中、日本市場の魅力向上に向けた対応を薬価改定の中で行うべきか否か】
▽中間年改定の目的(乖離率の大きな品目の薬価引き下げ)に照らせば、業界団体の主張する「特許期間中の品目」すべてを除外する対応は2017年末の4大臣合意を超える。イノベーション評価は非常に重要だが、例えば「原価率の開示状況が低いまま推移している」などの問題もある。2021年度の前回中間年改定を超える対応は慎重に検討すべき(長島委員)
▽必要性を2024年度改定以降に、慎重に検討していくべき。まず「原価の開示」促進から進める必要がある(松本委員)
【安定供給などに対応するとして、医薬品全体に一律の対応を行うべきか、影響の大きなカテゴリー(例えば不採算品目)に限定した対応を行うべきか】
▽どの品目について安定供給に支障が出ているかはある程度整理されている(関連記事はこちら。医薬品全体への一律対応の必要性は認められず、影響が大きなカテゴリーに限定し、産業構造・ビジネスモデル全体の見直し状況をも踏まえて対応すべき(長島委員)
▽イノベーションの推進、安定供給確保のためには、一律の対応ではなく、影響の大きなカテゴリーに限定した対応が好ましい(有澤委員)
▽不採算費目を個別に精査するべきで、「一律対応」や「特定の分野を改定対象から除外するような対応」は不適切である(松本委員)
ただし、製薬メーカー代表である赤名正臣専門委員(エーザイ株式会社常務執行役)は「物価高騰、円安などでコストが急騰している状況、頻回な薬価制度改革が続き日本の医薬品市場の魅力が低下している状況に鑑み、2023年度の中間年改定は見送る、仮に実施するにしても『特許期間中の品目は除外する』などの対応をはかるべき」と従来からの考えを改めて述べ、医薬品卸代表である村井泰介専門委員(バイタルケーエスケー・ホールディングス代表取締役社長)は「乖離率が0.1%圧縮されれば、大きな財政効果が出る」として、コロナ禍でも現場が努力している点を強調しています。
これに対し、支払側の松本委員は「業界ヒアリングでも一般論しか述べられず、「昨今の状況が厳しい旨、にもかかわらず例年十同様の乖離率(=値引き)が生じている状況」について踏み込んだ説明はなかった。重大な変化が生じているわけではないと考えられる(供給不安のほとんどはGMP違反に端を発している)。2023年度改定を見送る判断はありえず、特段の配慮についても合理性が乏しい」旨の感想を述べています。
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