「複数の都道府県がん拠点病院」指定ルール、空白医療圏解消に向けた特例ルールなども今後の重要検討課題―がん拠点病院指定検討会(2)
2023.1.24.(火)
Gem Medで報じているとおり、1月19日に開催された「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」(以下、指定検討会)で、この4月(2023年4月)からの新たな「がん診療連携拠点病院」等の指定内容が固められました(関連記事はこちら)。
昨年(2022年)8月の新たながん診療連携拠点病院等の整備指針(指定要件)に基づき「要件をクリアしているか否か」をチェックし、指定の可否を決定しています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
「要件をすべてクリア」していれば、問題なくがん診療連携拠点病院等に指定され、その有効期間は「4年間」に設定されます。
一方、要件の一部に未充足がある場合には、例えば「新規申請の場合には指定は見送る」「既存の拠点病院等による更新申請の場合には、指定期間を1年としたうえで特例型などでの指定を行う」など、複雑な判断が行われました(関連記事はこちら)。
本稿では、複雑な判断が行われ事例について、検討会での議論の状況をいくつか紹介します。
目次
がん拠点病院等の指定では「空白医療圏の発生を防止する、解消する」視点も重要に
まず、福井県の市立敦賀病院と、福島県の会津中央病院について見てみましょう。
市立敦賀病院は▼緩和ケア研修会の開催▼専従常勤の放射線治療医配置▼専従常勤の病理診断医配置—という要件が充足できておらず、会津中央病院は▼放射線治療に係る診療実績▼がん患者の自殺リスクに対する院内フロー整備▼緩和ケア研修会の開催—という要件が充足できていませんでした。
しかし、前者(市立敦賀病院)は地域がん診療連携拠点に指定され、後者(会津中央病院)は指定見送りという、異なる結果になりました(新規申請病院は、「すべての要件を満たしている」ことが原則となりますが、▼従前の必須要件は推薦時点で充足している▼新規の必須要件は「検討会時点で充足している」もしくは「本年(2023年)9月1日までに充足する見込みが立っている」—場合には「個別に指定の可否を検討する」との救済措置がある)。
この異なる結果の背景には、次のような違いがあります。
▽市立敦賀病院のある嶺南医療圏には敦賀医療センターという拠点病院があるが、本年(2023年)4月以降、指定更新がなされない
▽市立敦賀病院では、近く(4月1日までに)未充足要件をクリアできる見通しがたっている
▽会津中央病院のあるる会津・南会津医療圏には竹田綜合病院という拠点病院があり、本年(2023年)4月以降も、指定更新申請がなされている
▽会津中央病院では、未充足要件をクリアできる見通しが立っていない
検討会で重視されたのは「新規申請を認めなかった場合に、当該医療圏が『がん診療連携拠点病院などのない空白医療圏』になってしまうか否か」という点です。市立敦賀病院を「要件が整っていないので、拠点病院としての指定は見送る」と判断した場合、既存の敦賀医療センターが拠点病院から外れるため「空白医療圏」になってしまうのです。一方、会津中央病院を「要件が整っていないので、拠点病院としての指定は見送る」と判断したとしても、既存の竹田綜合病院が拠点病院として継続存続するため「空白医療圏」にはなりません。
こうした点を踏まえて検討会では「市立敦賀病院は拠点病院に指定するが、会津中央病院は指定を見送る」と判断されたものです。
空白医療圏には「当該地域の住民が、優れたがん医療を受ける機会が阻害されてしまう」(遠方の拠点病院などに足を運ばなければならないが、こうした地域では交通の便が良くない)という問題があり、「空白医療圏が新たに生じることは避けたい」と検討会構成員が考えていることが分かります。
「隣接する地域の地域がん診療病院」を活用して、空白医療圏解消を目指す
次に、鹿児島県の霧島市立医師会医療センター(地域がん診療病院への新規申請)について見てみましょう。
同院は、すべての要件をクリアしていますが、同院が位置する姶良・伊佐医療圏には、すでに「地域がん診療病院」として南九州病院が指定されているため、「同じ医療圏に複数の地域がん診療病院を指定すべいか否か」が問題となりました。地域がん診療連携拠点病院については「相乗効果が認められる場合に、複数の拠点病院指定を認める」とのルールが設けられていますが、地域がん診療病院には、こうしたルールが存在しないのです。
この点について、検討会では「空白医療圏におけるがん患者の診療体制を確保するために、隣接するがん医療圏に所在する病院を、当該空白医療圏の地域がん診療病院として指定することを認める」とのルールを設定しました。
これまでに、空白医療圏を解消するために「拠点病院の要件を緩和した地域がん診療病院を指定し、隣接する拠点病院と連携する」仕組みが設けられましたが、「地域がん診療病院の要件クリアも難しい地域」を救済するための特例的な新ルールと言えます。
本件については、このルールに沿って、姶良・伊佐医療圏に▼南九州病院▼霧島市立医師会医療センター—の2つの地域がん診療病院を設定するが、「南九州病院は姶良・伊佐医療圏をカバーする」「霧島市立医師会医療センターは隣接する空白医療圏である曽於医療圏をカバーする」ことになりました。
ここでも「空白医療圏を解消し、がん医療の均てん化(どの地域に住んでいても、優れたがん医療を受けられる環境を整備する)を目指す」という検討会構成員の考えを伺うことができます。
複数の都道府県拠点病院を設定する基準・ルールを検討へ
さらに、福井県の福井大学医学部附属病院について見てみましょう。
本件は「複数の都道府県がん診療連携拠点病院をどのように指定するか」という問題です。
福井県には、すでに福井県立中央病院が「都道府県がん診療連携拠点病院」として指定されています。福井県は「さらに、がんゲノム医療・希少がん対策などに力を入れている福井大病院を都道府県拠点とすることで、相乗効果が得られるのではないか」と考えたようです。
これまでにも「複数の都道府県拠点が申請され、認められたケース、認められなかったケース」があります。複数都道府県拠点が認められたのは、▼東京都(都立駒込病院、がん研有明病院)▼宮城県(宮城県立がんセンター・東北大病院)▼福岡県(九大病院、九州がんセンター)▼京都府(京都医大病院、京大病院)—の4ケースで、「両病院ともに指定要件をすべてクリアしている」「相乗効果が認められる」「年間の新規がん患者数が十分である」ことが勘案されました。
一方、▼岩手県▼山形県▼滋賀県—からも複数都道府県拠点の申請が過去になされましたが、「要件未充足がある」「年間の新規がん患者数が十分でない(2000名程度)」ことを理由に指定は見送られています。
今般の福井県については「両病院ともに指定要件をすべてクリアしている」ものの、▼「年間の新規がん患者数が、これまでに認められたケースに比べて少ない」こと▼「愛知県や大阪府など、大都市を抱える府県でも、複数の都道府県拠点申請がなされていない」こと—などを勘案し、「指定は見送り」となりました。安易に複数の都道府県拠点を認めれば「他県からも複数の都道府県拠点申請がなされ、混乱する可能性がある」と伊藤伸一構成員(日本医療法人協会会長代行)はコメントしたうえで、「複数の都道府県拠点を認める場合の要件・ルールを整理する必要がある」とも提案。他の構成員や藤也寸志座長(九州がんセンター院長)もこの提案に賛同しています。
また複数の都道府県拠点を認めない場合に、「都道府県拠点病院を、既存の福井県立中央病院とすべきか、新規の福井大病院とすべきか」という問題も発生します。この点、「都道府県の意向に沿う」のが大原則ですが、福井県からは2病院について優先・劣後の考えが示されていませんでした。このため「これまで福井県立中央病院が、都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会を開催し、県内のがん対策の牽引役を担っており、その機能が継続されることが望ましい」との視点から「既存の福井県立中央病院を都道府県拠点として継続指定する」ことになっています。
がんゲノム医療など「高度な医療技術」が開発される中で、「県立中央病院」と「大学病院本院」との役割・機能が分化していく可能性があります(大学病院で高度な先端的医療を進め、一般的ながん医療を県立病院で広くカバーするなど)。そうした中で「都道府県拠点をどの病院が担うべきか」という議論が各地で進む可能性があり、今後の動きに注目が集まります。
このほか、1月19日の検討会では「特例型病院(一部要件をクリアできていないイエローカード病院)が要件をクリアしたが、別の要件をクリアできなくなった場合に、どういった指定を行うか」という論点も浮上しました。
がん専門人材の確保が難しい中では「要件クリアが難しい病院」が各地で出てくることでしょう。いったん要件をクリアしても、例えば専門人材の退職(他院がヘッドハンティングをすることもある)リスクは常にあり、いずれの病院も「要件未充足の特例病院になる」「特例型から復帰できず、指定見送りになる」可能性があります。
がん診療連携拠点病院等に限る話ではありませんが、「スタッフがこの病院で働き続けたい」と思うような環境整備を進めることが非常に重要でしょう。
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