病院経営が安定しなければ「DX対応」など新たな対応が困難、かかりつけ医機能の考え方は日病内部でも非常に多様—日病・相澤会長
2023.10.31.(火)
病院には「新興感染症対応」や「医療DXの対応」などが様々求められているが、病院経営は非常に厳しく、そうした対応に力を注げる体力がない。まず病院経営を安定させるために「入院基本料の大幅引き上げ」が必要である—。
「かかりつけ医機能報告」制度論議が進められており、日本病院会でも「かかりつけ医機能とは何か、どういった項目が該当するのか」を議論しているが、考え方が幹部の間でも極めて多様である。年内にも「日病の考え方」を取りまとめたいが、非常に難しい議論となりそうだ—。
日本病院会の相澤孝夫会長が10月31日に定例記者会見を開き、こうした考えを示しました。
病院の経営安定が最優先課題であり、そのためには大幅な入院基本料の引き上げが必須
医療を取り巻く環境が大きく変化する中、冒頭にも述べたとおり、地域医療の砦となる「病院」には、例えば「新興感染症対応(重篤な患者の入院対応など)」や「医療DXの対応(過去の診療記録を踏まえた質の高い、効率的な医療提供、サイバーセキュリティ対策など)」のさまざまな「新たな取り組み」が求められています。
しかし相澤会長は「病院経営は非常に厳しい。2021・22年度よりも今年度(23年度)歯より厳しくなっているとの声も会員から数多く上がってきている。そうした中では、病院には『新たな取り組み』に力を注ぐだけの体力がない。まず病院経営を安定させることが最優先であり、そのためには『入院基本料の大幅引き上げ』が必須である」と改めて強調しました。
今後も国に対し、様々な形でこの「最優先事項である病院経営安定のために、入院基本料の大幅引き上げが必要である」との考えをぶつけていくことになります。
「かかりつけ医機能とは何か」の提言を再度日病で行うが、幹部間でも考え方は多様
2025年度から「かかりつけ医機能報告制度」がスタートします(関連記事はこちらとこちら)。
「慢性疾患を有する高齢者」「その他の継続的に医療を必要とする者」を地域で支えるために必要なかかりつけ医機能(日常的な診療の総合的・継続的実施、在宅医療の提供、介護サービス等との連携など)について、新たに一般クリニックを含めた全国の医療機関から都道府県知事への報告を求めるものです(病床機能報告、外来機能報告に次ぐ第3の報告制度)。
各道府県知事は、報告をした医療機関が「かかりつけ医機能の確保に係る体制を有する」ことを確認し、外来医療に関する地域の関係者との協議の場に報告するとともに、その状況を詳しく公表。さらに、協議の場で「必要な機能を確保する具体的方策」を検討・公表していき、地域ごとに「かかりつけ医機能の中で、どのような項目が充足されているのか、どのような項目が不足しているのか」を明らかにし、不足する項目の充足を図っていくこととされています。
すでに、「どういった項目が『かかりつけ医機能に該当する』ものとして、報告対象とするのか」などの議論が厚労省検討会で始まっており、日病でも意見具申のために「かかりつけ医機能とは何か、どういった項目が該当するのか」という整理の議論を改めて行っています(関連記事はこちら、なお、すでに昨年(2022年)11月に当時の加藤勝信厚生労働大臣に宛てて「かかりつけ医機能」に関する提言を行っている)。
しかし相澤会長は「日病幹部(会長、副会長、常任理事)で議論を行っているが、考え方が極めて多様であることを改めて感じている。年内にも意見集約をはかって提言等を行いたいが、非常に困難な作業になろう」と見通しています。このため「かかりつけ医機能として報告すべき項目は〇〇と●●とすべき」といった具体的提言ではなく、「概念的な提言」になる可能性もありそうです。
なお、相澤会長はじめ日病幹部が重視しているのは「日本の医療提供体制を瓦解させてはならない」「国民にとってわかりやすく、より医療機関にかかりやすい仕組みでなければならない」という点です。
この視点は、厚労省検討会(「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会」、およびその下部に設けられる分科会)でも極めて重要となることは述べるまでもありません。
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