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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

「災害診療記録」、熊本や北海道の大地震等の経験を踏まえて改訂【災害診療記録2018】

2018.11.26.(月)

 大災害時には、多くの傷病患者が発生する一方で、被災地域の医療機関が十分な診療を行えない状況に陥るため、DMAT(災害派遣医療チーム)やJMAT(日本医師会災害医療チーム)などが被災地に入り、診療活動を行います。

 こうしたチームの活動により多くの命が救われますが、チームによって診療記録の様式や在り方が異なるため、「チームが変わった場合などに診療の継続性が十分に担保できない」「傷病の集計・解析等ができず、迅速な対応が取れない」という課題が、東日本大震災(2011年3月11日に発生)における診療活動で浮き彫りになりました。

 そこで、▼日本医師会▼日本災害医学会▼日本病院会▼日本診療情報管理学会▼日本救急医学会▼国際協力機構(JICA)▼日本精神科病院協会(後に参画)—は、災害時の診療において「標準的・統一的な診療記録様式を作成する必要がある」と考え、「災害時の診療録のあり方に関する合同委員会」を組織。さまざまな検討を経て、2015年に『災害診療記録』(日本版SPEED:Surveillance in Post Extreme Emergencies and Disasters、J-SPEEDを包含)が作成されました。

患者の氏名や居所(避難所など)、状態(外傷、精神状態)、禁忌(アレルギーなど)、常用薬などを『災害診療記録』に記載することで、必要な情報が次のチームに引き継がれ、適切かつ安全な医療提供が確保されることはもちろん、「記録内容を当日中に集計することで、災害対策本部等で医療方針を適切に決定する」ことが可能になりました。例えば、集計結果をもとに、「●●地域で下痢の患者が集団発生しているので、衛生器材を送付するなどの管理を徹底する」、「自殺患者が増えており、精神医療のニーズが急速に高まっている。DPAT(災害派遣精神医療チーム)の派遣を要請する」、「被災とは関係の薄い患者が増加している。DMAT等の撤収を検討する時期に来ている」などの判断を迅速に行うことが、熊本地震(2016年4月16日に発生)、北海道胆振東部地震(2018年9月6日に発生)などでかないました。こうした成果を受け、WHO(世界保健機関)では、『災害診療記録』をベースに、災害時の標準的な診療記録(minimum data set:MDS)を作成しました。

厚生労働省も、こうした成果等を重視し「被災者の診療録の様式は『災害診療記録』を参考にする」よう、通知「大規模災害時の保健医療活動に係る体制の整備について」(2017年7月5日付)の中で都道府県知事に要請しています(関連記事はこちら)。

このように、大きな成果をあげている『災害診療記録』ですが、熊本地震などで活用される中では、いくつかの改善ポイントも浮かび上がってきました。例えば、▼一部を抜粋して活用する事例が数多く見られた▼紙媒体であり集計等に一定の労力が必要であった▼メディカルID(いわば患者の識別子)の記載が不十分であった▼日付や担当医師氏名の記載が不十分であった▼災害診療記録を知らないチームも少なからずあった▼J-SPEED(災害時診療概況報告システム、外傷の程度・感染症の有無・入院の必要性などをチェックする)の記載が必ずしも十分ではなかった―などです。

合同委員会では、「作成から短期間での改訂は混乱を招くのではないか」との意見もあったようですが、最終的には、こうした点の放置は「被災者への適切な医療提供」にとって好ましくないと判断し、今般の「改訂」に至ったものです。

改訂ポイントはさまざまありますが、例えば、「精神保健版を作成し、DPATでも活用可能とした」、「災害ではない『大規模イベント版』を作成し、オリンピック会場の救護所等での活用を可能とした」、「記載者の視線・導線を意識し、記載漏れが生じないようなレイアウトに変更した」、「メディカルID記載欄や、医師氏名欄について、記載漏れが生じないような場所に配置しなおした」「J-SPEEDについて記載率向上を目指すレイアウトに変更するとともに、(上記)MDSと項目を揃えた」「電子版を作成した」ことなどがあげられます。

 
11月20日に記者会見(日本病院会の相澤孝夫会長会見の中で発表)を行った、合同委員会の小井戸雄一委員長(日本救急医学会災害医療検討委員会・前委員長、国立病院機構災害医療センター臨床研究部長・救命救急センター長)は、「旧版(2015年版)と改訂版(2018年版、今般の見直し版)とが混在しては、災害医療時に大きな混乱を招いてしまう。改訂の検討には、厚生労働省医政局地域医療計画課の担当者もオブザーバー参加してもらい、改訂版の周知などにも協力をお願いしている」とコメントしました。近く、厚労省から新たな通知が発出されるものと考えられます。

11月20日に、「災害診療記録2018」について記者会見を行った「災害時の診療録のあり方に関する合同委員会」の小井戸雄一委員長(日本救急医学会災害医療検討委員会・前委員長、国立病院機構災害医療センター臨床研究部長・救命救急センター長)

11月20日に、「災害診療記録2018」について記者会見を行った「災害時の診療録のあり方に関する合同委員会」の小井戸雄一委員長(日本救急医学会災害医療検討委員会・前委員長、国立病院機構災害医療センター臨床研究部長・救命救急センター長)

 
 
 
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