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【短期滞在手術等基本料3】、下肢静脈瘤手術などは外来実施が相当数を占める―入院医療分科会(4)

2019.9.24.(火)

 1泊2日の【短期滞在手術等基本料2】について、2018年5月診療分の算定実績はわずか79件にとどまっている。これは、医療現場における資源投入量・在院日数と制度設計との間に大きなミスマッチがあることが原因と考えられる。

 また4泊5日の【短期滞在手術等基本料3】について、一部の術式では相当程度「外来」で実施されている。こうした点を2020年度の次期診療報酬に向けてどう考えていくべきか―。

 9月19日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、入院医療分科会)で、こういった議論も行われています(関連記事はこちらとこちら)。

9月19日に開催された、「令和元年度 第7回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」

 

「短期滞在手術等基本料2の想定」<「医療現場の実態」をどう考えるべきか

 A400【短期滞在手術等基本料】には、(1)日帰り手術の【短期滞在手術等基本料1】(2)1泊2日の【短期滞在手術等基本料2】(3)4泊5日までの【短期滞在手術等基本料3】―の3種類があります。

 このうち(1)の【短期滞在手術等基本料1】(日帰り)と(2)の【短期滞在手術等基本料2】(1泊2日)については、米国等でデイサージャリーが広く行われている点を踏まえ、我が国でも「医療の質向上」「医療の効率化」を目指すべきとの考えの下に、2000年度の診療報酬改定で導入された包括評価項目です。対象手術は診療報酬点数表で決まっており、医療機関が【短期滞在手術等基本料】とするか(つまり包括評価とするか)、出来高算定とするかを選択できます。


 
この点、導入から20年近くが経過し、どのような状況になっているのかを厚生労働省が調査・分析したところ、次のような状況が浮かび上がってきました。

【短期滞在手術等基本料1】(日帰り)
▽対象手術のうち【短期滞在手術等基本料1】算定の割合は1.4%(82万948件中1万1335件)だが算定回数は増加傾向にある

▽2014年以降を見ると、対象手術の多くで外来での実施率が上昇している

 
【短期滞在手術等基本料2】(1泊2日)
▽対象手術の実施回数は増加しているにもかかわらず【短期滞在手術等基本料2】での実施は減少し、2018年5月診療分の算定回数はわずか79回

▽すべての対象手術において、平均在院日数は「2日」(1泊2日)を大きく上回っている

 
 入院医療分科会で特に注目されたのは【短期滞在手術等基本料2】(1泊2日)の算定回数の少なさ(1か月に79回)です。医療の実態と点数等設定との間に大きな乖離があることがその理由と考えられます。2000年度の【短期滞在手術等基本料2】導入時には、「当該手術については1泊2日で行えるのではないか」との想定のもとに、実際の入院期間や資源投入量などを十分に勘案せずに点数・入院期間が設定されました。しかし、医療現場ではそれをはるかに超える資源投入をしなければならず、「【短期滞在手術等基本料2】を選択するメリットがほとんどない」と考えていると見られるのです(たまたま1泊2日で収まり、出来高よりも包括点数のほうが高いケースでのみ算定していると考えられる)。

このため委員からは「少なくとも【短期滞在手術等基本料2】は、その役割を終えたと考えられる」(井原裕宣委員:社会保険診療報酬支払基金医科専門役)、「対象手術の見直しなど、現実に沿った設計へと見直すべき」(牧野憲一委員:日本病院会常任理事・旭川赤十字病院院長)などの意見が出ています。

また【短期滞在手術等基本料1】について、山本修一分科会長代理(千葉大学医学部附属病院長)は「外来実施が進んできているが、総収入で見ると、外来よりも入院のほうが高く、外来移行へのインセンティブが十分でない。医師としての感覚では、日帰りをさらに増やせると感じる」とコメントしています。

下肢静脈瘤手術などは7割程度が外来実施、患者の状態などを詳しく見る必要あり

 一方、【短期滞在手術等基本料3】は、標準的な治療方法が確立され入院期間・費用に大きなバラつきのない術式を対象に(つまり医療現場の実態を踏まえて)、4泊5日までの入院医療を包括評価するもので、2014年度の診療報酬で「全包括」(すべての診療報酬を包括評価する)の点数となりました。その後、包括評価の一部見直し(人工透析患者については当該部分を別途請求することを認めるなど)、対象術式の見直しなどが行われています。医療機関が「出来高と選択する」ことはできず、4泊5日までの症例は【短期滞在手術等基本料3】を選択しなければなりません。もっとも、DPC病院においては【短期滞在手術等基本料3】が適用されず、DPC制度の中で報酬算定を行います。

この点について厚労省の分析では、次のような状況が分かってきました。

▽平均在院日数が5日を大きく超えるもの(終夜睡眠ポリグラフィー)もあれば、5日程度のもの(ガンマナイフによる定位放射線治療など)、2日程度のもの(腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術など)もある

 
▽【短期滞在手術等基本料3】の対象手術の中には、入院外で実施される割合が高いものがある(下肢静脈瘤手術、経皮的シャント拡張術・血栓除去術、小児科食物アレルギー負荷検査など)。また外来での実施率が高くない手術についても、外来で実施することができる症例が存在している可能性がある

 
 包括点数ゆえ、経営的には「在院日数を極力短くする。さらに言えば外来で対応する」ことで利益を確保することが可能とることから、一部手術については「外来」対応が進んでいると考えられます。この状況からは「例えば下肢静脈瘤手術など、外来での実施が多いものは、例えば【短期滞在手術等基本料1】へ移行する」ことなどが考えられそうです。

ただし牧野委員や山本分科会長代理、石川広己委員(日本医師会常任理事)らは、「外来症例の多くは診療所(クリニック)で実施されていると考えられる、診療所で対応できない合併症のある患者や高齢患者などが病院に紹介され、病院では比較的、長期間の入院となる。そういたバイアスを考慮する必要がある」と指摘し、より詳しいデータに基づいた慎重な検討が必要であるとの考えを示しています。

 もっとも、「外来実施を進め【短期滞在手術等基本料3】から【短期滞在手術等基本料1】へ移行してしまうのであれば、外来実施はほどほどにしておこう」と医療現場が考えることも予想されます。患者のQOLや生活を考慮すれば、在院日数は短いに越したことはなく(極論すれば外来で済ませてほしい)、外来化にストップがかかることは好ましいとは言えません。

またグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの湯原淳平シニアマネジャーは、「現在の【短期滞在手術等基本料3】の設計では、よほど稼働率が高く、かつ手術待ち患者が多い病院でない限り外来での手術実施では利益が少なくなってしまい、本来は外来で実施できるところ、あえて1泊させている疾患もある。むしろ、【短期滞在手術等基本料3】があるがために、手術の入院から外来への移行が阻害されている部分もある」と指摘。さらに「入院と外来で別個に評価する手法には限界がある。例えば【短期滞在手術等基本料1】をさらに進め、外来も含めて包括評価すような診療報酬の仕組みを考えるべきではないか」との考えを示しています。

上述した【短期滞在手術等基本料1】の外来化の動きも十分に踏まえた検討を行う必要があるでしょう。
 
  
今後もさらなるデータ分析を行い、2020年度の次期診療報酬改定では【短期滞在手術等基本料】について大きな見直しを検討する可能性があります。

解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちらこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。

 
 
 

 

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