医療機器の償還価格下支え、技術料で評価する機器のチャレンジ申請、プログラム機器の評価など進めよ―中医協・材料専門部会
2021.8.27.(金)
医療機器についても、医薬品と同様に「安定供給」が重要かつ継続した課題となる。償還価格の下支えや、外国価格調整の見直しなどを検討してほしい―。
技術料の中で評価される医療機器や臨床検査についても「保険適用後、症例が増え、一定期間経過後に真の有用性が明らかになる」ものが少なくない。有用性を踏まえて再評価(価格引き上げ)を申請できる「チャレンジ申請」を認めてほしい。
AI等を活用したプログラム医療機器については、活用場面や有用性によって分類し、「加算」や「新点数」での評価などを行ってほしい―。
8月25日に開催された中央社会保険医療協議会の保険医療材料専門部会(以下、専門部会)で、業界団体(医療機器メーカー等)からこうした意見が出されました。これらの意見も踏まえながら、2022年度の材料価格制度改善案を詰めていきます。
目次
医療機器の安定供給のため、償還価格を下支えする仕組みなど検討してほしい
2022年度の次期材料改革制度改革に向けて、8月4日の専門部会では保険医療材料専門組織(材料価格算定ルールに基づいて、個別医療機器の価格設定などを行う中医協の下部組織)から次のような改革案が提示されました。専門部会では、この提案をベースに改革内容を練っていく方針を確認しています。
(1)チャレンジ申請について次の見直しを行う
(i)データ収集・評価計画について、具体的に提示する項目を定型的に整理する
(ii)「技術料に一体として包括して評価される医療機器等」についても対象を広げる
(2)プログラム医療機器について「評価ポイントの明確化」などを検討する
(3)改定薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で「先駆け審査指定制度」が法制化されたことを踏まえ、現行の補正加算等との整合性を踏まえつつ、さらなる評価について検討する
(4)改正薬機法で「特定用途医療機器」が法制化されたことを踏まえ、現行の補正加算等との整合性を踏まえつつ、さらなる評価について検討する
(5)内外価格差のさらなる是正に向けて、次の点を検討する
(i)新規収載品では「外国平均価格の1.25倍を上回る場合は、1.25倍の価格とする」ルールがあるが、比較水準の引き下げや外国平均価格の算出方法の見直しを検討する
(ii)既収載品では「外国平均価格の1.3倍を上回る場合は、1.3倍の価格とする」ルールがあるが、比較水準の引き下げや外国平均価格の算出方法の見直しを検討する
(6)機能区分の細分化、不採算、合理化および定義の見直し等を進める
(7)A3(既存技術・変更あり)区分、B2(既存機能区分・変更あり)区分となった医療機器についても、E2(既存項目・変更あり)区分とされた体外診断用医薬品と土曜に「決定された月の翌月1日から保険適用する」取り扱いとする(現在は、各月10日までに決定されたものを、原則として翌月1日から保険適用している)
8月25日の専門部会では、この提案内容を含めた材料価格改革に向けて業界団体(医療機器メーカーなど)から意見聴取を行いました。業界団体の意見は多岐にわたりますが、(I)医療機器等の安定供給(II)イノベーション評価(III)プログラム医療機器の評価―の3点がポイントになると言えそうです(検査については後述します)。
まず(I)の安定供給に向けては、専門組織が指摘する「外国価格調整」(上記(5))も含めて、▼償還価格制度(公定価格)の下支えを行う▼外国価格調整は保険適用時の1回を原則として、再算定の調整は例外として1回のみとする▼保険適用時に外国価格の0.75倍を下回る場合には、引き上げ調整を行う▼C区分の機器は、一定期間を経るまでは業界の要望以外の理由で区分見直しは行わない―ことなどを求めました。
医薬品では、「医療上の位置付けが確立し、広く臨床現場で使用されている」医薬品の製造・販売を継続するために、償還価格(薬価)を下支えする仕組み(例えば、改定前の価格を維持するなど)が設けられています。メーカーサイドは「医療上必要な医療機器についても、安定供給の要請は医薬品と変わらない」とし、医薬品を参考にした「償還価格制度の下支え」を求めています。
これに対し、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「医薬品と医療機器とどでは、価格設定のルールが異なる(例えば医薬品では銘柄別だが、医療機器では機能区分別)。そうした中で、部分部分だけ医薬品と医療機器とで仕組みを揃えることに、どれほどの意味があるのか」と疑問を投げかけています。
また、安定供給の確保は「価格設定」だけでは限界があるため、メーカーサイドは▼国内生産への支援▼サプライチェーンの強化-など総合的な支援も行ってほしいと求めています。
技術料で評価される医療機器についてもチャレンジ申請を認めてほしい
(II)のイノベーションの評価では、専門組織の提案する(1)「チャレンジ申請の拡大」をメーカーサイドも求めています。
チャレンジ申請とは、「保険適用後に、長期間の使用実績を踏まえなければ真の有用性確認が難しい」製品について、保険適用後のデータに沿って新たな機能区分を申請できる(つまり高価格を設定することが可能になる)仕組みです。
専門組織では、▼手続きの簡略化▼「技術料に一体として包括して評価される医療機器等」への対象拡大―を提案しており、メーカーも同じ見解であることが示されました。
後者についてメーカーサイドは、「機器加算や、当該機器による患者への臨床的効果等が示される診療報酬項目で使用される技術料包括の医療機器」、例えば▼人工関節手術を支援するロボット(Makoシステム:手術部位と手術器具の位置関係をリアルタイムで立体的に表示し手術を支援するロボットで、術後疼痛・再手術が軽減される。K939【画像等手術支援加算】の「1 ナビゲーションによるもの」(2000点)として評価▼経皮的冠動脈形成術(PCI)の遠隔治療支援ロボット(CorPath GRXシステム:遠隔支援となるので術者の医療被曝を95%軽減でき、高精度の手術が可能。メーカーは今後のチャレンジ申請に期待を寄せている)―などの技術が対象に拡大してはどうかと提案しました。
医療機器では、「臨床試験が限定されており、有用性が保険適用時点で明確にならないケースもある」「マイナーチェンジを繰り返し、一定期間経過後に有用性が発揮されるケースもある」などの特性があることから、チャレンジ申請が2018年度改定で新設され、2020年度改定で拡大されています。
償還価格が設定されず、技術料の中で評価される機器についても同じ特性があることから、チャレンジ申請拡大の素地は十分にあると考えられます。ただし、幸野委員は「診療報酬点数の中で、機器部分の評価と、技術部分の評価を明確に切り分けることができるのか」と、法技術的な困難さを指摘しています。どういった手法が考えられるのか、今後の厚労省提案を待つ必要があるでしょう。
プログラム医療機器、場面や特性に応じて「加算」や「新点数」での評価を提案
また(III)は、専門組織も注目する「プログラム医療機器」(アプリケーションや人工知能(AI)を活用した「疾病の診断・治療」を目的とする機器)の評価を求めるものです。昨年(2020年)11月には「禁煙治療を補助するアプリケーション」(禁煙治療中の患者に対し、▼在宅での毎日の禁煙状況を「アプリとCOチェッカー」を用いて医療機関が把握する(COチェッカーにより「紙巻きたばこを喫煙した場合に発生する一酸化炭素の発生」をチェック(禁煙が実施できているかの確認)し、それをアプリを通じて医療機関に配信する)▼医師が必要な指導をアプリを通じて患者に行う—)の保険適用が認められており(12月1日から保険適用)います。
厚労省保険局医療課医療技術評価推進室の中田勝己室長は、「プログラム医療機器には、アプリから画像診断補助装置など、さまざまなものがある。海外事例も含めて、まず実態調査を行い、全体像を整理したい」との考えを示しており、メーカーサイドは▼機器活用の場面(予防、検査・診断、治療、予後)▼ターゲット(患者等、医療機関)―というマトリックスで分類する考えを提案。あわせて、評価軸として▼有効性・安全性▼社会的必要性▼経済性・効率性―の3項目を例示。
さらに、一歩進めて、▼技術料包括で評価されている医療機器において、プログラム搭載/併用で有用性等が向上した場合や、診断・治療に資するプログラム医療機器等を使用した場合には「加算」で評価する▼既に技術料で評価されている医療機器にプログラムを搭載することなどで有用性等が向上した場合には「異なる点数」で評価する▼医療の質向上に資する場合には「施設基準の緩和」を行う―という踏み込んだ提案も行いました。
例えば、内視鏡とAIを組み合わせ、腫瘍の「良性・悪性」の鑑別補助を行うようなケースは「加算」で評価を行い、スマートフォンとインスリン自動制御システムを連動させインスリンコントロール精度を高めるようなケースでは「新点数」で評価する、といった例示を行っています。
もちろん、メーカー提案であり、今後、中医協で検討していくことになります。今後の厚労省による分類に当たっても、重要な参考資料となるでしょう。
悪性腫瘍関連遺伝子検査、きめ細かな評価をしてほしい
なお、臨床検査に関しては、▼医療機器と同様のチャレンジ申請を制度化してほしい▼複数の悪性腫瘍関連遺伝子検査を同時に行った場合の評価を見直してほしい(逆ザヤが生じるケースも少なくない)▼在宅医療において「POCT検査」(Point of Care Testing:臨床現場即時検査、例えば、在宅で心エコー・心電図検査、検体検査を行うなど)を行った場合の評価を行ってほしい▼緊急検査(例えば、急性冠症候群では迅速にトロポニン測定を行い、治療方針に活かすことが有用である)の評価を十分に行ってほしい―との要望が出されています。
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