排卵誘発剤等による「卵巣過剰刺激症候群」が散発、下腹部痛・急激な体重増・卵巣腫大などに留意!—PMDA
2022.4.28.(木)
不妊治療における排卵誘発や調節卵巣刺激のための医薬品で「卵巣過剰刺激症候群」(OHSS)が散発しており、中には「中等症のOHSSが認められたにもかかわらず不妊治療を続け、重症化してしまう」事例も少なくない—。
OHSSの症状(腹部痛・急激な体重増・卵巣腫大など)を患者に伝え、疑われる場合には薬剤投与中止などの適切な対応をとってほしい—。
PMDAは4月26日に、医薬品適正使用の一環として「不妊治療に用いられる医薬品による卵巣過剰刺激症候群について」を公表しました(PMDAのサイトはこちら)。
中等症のOHSS認めるも治療を続け「重症化」する事例も少なくない
Gem Medでも報じているとおり、この4月(2022年4月)から不妊治療の保険適用が始まりました。「不妊症」と判断されたカップルに対する▼一般不妊治療(タイミング法や人工授精)▼生殖補助医療(採卵→受精→培養→移植など)—のうち、関係学会が安全性・有効性を確認した技術(推奨度A(強く推奨される)・B(推奨される))について保険適用を行うものです。「推奨度C」(考慮される)の技術についても、一定の安全性・有効性を確認したうえで先進医療として「保険診療との併用」が認められるケースもあります(関連記事はこちら(答申内容)とこちら(疑義解釈)。
【日本産科婦人科学会による「不妊症」の定義】
▼生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある期間(一般的に1年)避妊すること無く性交渉を行っているにもかかわらず、妊娠の成立を見ない場合を不妊と言い、妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合
▼明らかな不妊原因が存在する場合は不妊の期間にかかわらず不妊症として差し支えない
ところで、不妊治療において排卵誘発や調節卵巣刺激のために医薬品を用いることがありますが、副作用として「卵巣過剰刺激症候群」(OHSS)が知られています。
OHSSは、通常「親指大」(3-4cm)卵巣が薬剤の刺激を受けて膨れ上がり、お腹や胸に水がたまるなどの症状を引き起こすものです。重症例では腎不全や血栓症などの合併症を引き起こすこともあります(厚労省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」)。
PMDAには、こうしたOHSS症例が年間60-80件程度報告され、昨年度(2021年度)には▼hMG▼hCG▼コリオゴナドトロピンアルファ(遺伝子組換え)▼ホリトロピンアルファ(遺伝子組換え)▼uFSH—によるOHSSが多く報告されています。副作用事例の一部について副作用被害救済の対象とすることが決定しています(医薬品の副作用により入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が生じた場合に、医療費や年金などの給付を行う公的な制度)。
さらに、以下のように「中等症のOHSSが想定されるにもかかわらず、不妊治療を続けたため重症化した」事例もあります。
▽ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)を用いた調節卵巣刺激を行った症例
→多数の発育卵胞により卵巣がかなり腫大、血清エストラジオール(E2) 値が2万pg/mLを超え中等症のOHSSを発症していると考えられたが、同日にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を投与した。40個以上採卵した当日にOHSSが重症化し、入院加療となった
▽hMGを用いた調節卵巣刺激を行った多嚢胞性卵巣症候群の症例
→hMG投与中に血清E2値が1万pg/mL以上、卵巣最大径は8cmを超え、腹水を認め、中等症のOHSSを発症していると考えられたが、同日hMGとhCGを投与した。採卵直後にOHSSが重症化し、入院のうえ集中治療が必要になった
▽hMGおよび精製下垂体性性腺刺激ホルモン(uFSH)を用いた調節卵巣刺激を行った症例
→採卵前の血清E2値が1万pg/mL以上、卵巣最大径は8cmを超え、腹 水を認め、中等症のOHSSを発症していると考えられたが、同日hCGを投与した。60個以上採卵した直後にOHSSが重症化し、入院加療となった
事態を重く見てPMDAでは、次のような点に留意するよう医療現場等に強く要請しています。
▽排卵誘発や調節卵巣刺激のために医薬品使用にあたっては、「添付文書」や「追記される予定の効能・効果、用法・用量、注意喚起」(公知申請に関する事前評価を受けた医薬品の適用外使用に係る通知に記載)を熟読し、OHSSの早期発見、適切な処置ができるように十分に注意する
▽患者さんにOHSS(卵巣過剰刺激症候群)について説明する(排卵誘発剤使用などでOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を発症する可能性があること、注意すべき症状、異常が認められた場合には直ちに医師等に相談すること)
▽以下の点に留意し、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行う
▼患者の自覚症状(重度の骨盤痛、下腹部痛、下腹部緊迫感、腰痛、悪心・嘔吐等)
▼急激な体重増加
▼卵巣腫大(内診、超音波検査、血清エストラジオール値検査等に留意すること)
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