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GemMed塾 看護モニタリング

ゲノム情報に基づき最適な抗がん剤選択する専門家会議(エキスパートパネル)、一部の連携病院で実施可能に―がんゲノム拠点病院指定要件WG

2023.12.6.(水)

がん患者の遺伝子変異情報を踏まえて最適な抗がん剤を選択するゲノム医療が推進している。最適な抗がん剤選択は専門家の会議(エキスパートパネル)で行われるが、このメンバー構成を、現場負担を考慮して柔軟化してはどうか—。

また、症例が集積される中で、エキスパートパネルのリアルタイム開催までは必要ないケースについては「持ち回り開催」を可能としているが、持ち回りで可とするか、リアルタイム開催を求めるかの判断基準をより明確化してはどうか—。

エキスパートパネルは中核拠点病院・拠点病院で開催しているが、知識・スキル・体制が整えられた連携病院でもエキスパートパネル開催を認めてはどうか—。

12月1日に開催された「がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こういった内容が概ね固められました。細部について中釜斉座長(国立がん研究センター理事長)と厚生労働省とで調整を行い、親会議「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」に報告。そこでも議論を行い、年度内(2023年度内)に厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」の見直しが行われる見込みです。

エキスパートパネルの構成メンバー要件を一部緩和・柔軟化

ゲノム(遺伝情報)解析技術が進み、▼Aという遺伝子変異の生じたがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である▼Bという遺伝子変異のある患者にはβ抗がん剤とγ抗がん剤との併用投与が効果的である―などの知見が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいて最適な治療法(抗がん剤)の選択が可能になれば、がん患者1人1人に対し「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。

我が国でも、多くの遺伝子変異を一括確認できる「遺伝子パネル検査」の保険適用が進み(関連記事はこちらこちら)、▼患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する → ▼C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する → ▼がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する―という【がんゲノム医療】の実施が始まり、充実・拡大が図られています。
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキンググループ1 190527

がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308



こうしたがんゲノム医療は、▼「がん遺伝子パネル検査の医学的解釈」を自施設で完結できる体制を整備した「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」(中核拠点病院は人材育成・他院の診療支援・治験や先進医療の主導・研究開発の機能も求められる)▼中核拠点・拠点病院と連携してパネル検査解釈を行う「がんゲノム医療連携病院」—で主に実施されます。

がんゲノム医療中核拠点病院などの概要(がんゲノム拠点病院指定要件WG1 231201)



がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件(整備指針)は昨年(2022年)8月に見直され(関連記事はこちら)、この新指定要件(新整備指針)に基づいて、本年(2023年)11月1日時点では▼中核拠点病院:13施設▼拠点病院:32施設▼連携病院:211施設—が指定されています(関連記事はこちらこちら、連携病院は中核拠点・拠点病院が指定する)。

がんゲノム医療中核拠点病院などの指定状況(がんゲノム拠点病院指定要件WG3 231201)

がんゲノム医療中核拠点病院などの指定要件見直しポイント(がんゲノム拠点病院指定要件WG2 231201)



上述のように2019年6月に遺伝子パネル検査の保険適用が行われ、2021年8月にはリキッドバイオプシー(血液を検体としてがん患者の複数の遺伝子変異を一括して検出する「遺伝子パネル検査」)の保険適用も行われました(関連記事はこちらこちら)。現在、遺伝子パネル検査は月間1600-1800件程度実施され、本年(2023年)10月末までに6万4047名分の遺伝子情報がC-CATに蓄積されています。

遺伝子パネル検査の実施状況(がんゲノム拠点病院指定要件WG4 231201)



このように、我が国におけるがんゲノム医療は成長を続けていますが、そうした中で「エキスパートパネル設置の基準(専門家配置)が厳しすぎるのではないか」「エキスパートパネルの持ち回り開催基準をより明確化すべきではないか」「連携病院でも自前でエキスパートパネル開催を行える施設が登場しているのではないか」といった課題が浮上してきています。12月1日のワーキングでは、こうした課題への改善策が議論されました。

まず、「エキスパートパネル設置の基準(専門家配置)が厳しすぎるのではないか」という課題については、次のような「専門家配置の緩和策」が厚労省から提示されました。厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」を見直す提案内容です。2019年からのエキスパートパネル開催実績・経験を踏まえて「専門家配置をここまで緩和しても、業務の質が低下しない」と判断されたもので、この緩和により、限られた専門家がより多くの施設で活躍し、がんゲノム医療がより広範に実施されると期待されます。

▽「病理学に関する専門的な知識・技能を有する常勤の医師」について、現行基準の「複数名」から「1名以上」とする

▽「主治医・当該主治医に代わる医師」について、議論に必要な「治療歴や家族歴に関する診療情報を提供する」場合にはエキスパートパネルに参加したとみなせる

前者は、限られた病理医の有効活用を狙うもので、病理学の専門家である金井弥栄構成員(慶應義塾大学医学部病理学教室教授、日本病理学会拡大常任理事会理事)も了承。あわせて金井構成員は「厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」では『病理学に関する専門的な知識・技能を有する常勤の医師』と規定されているが、整備指針の『がん遺伝子パネル検査に関連する病理学に関する専門的な知識・技能を有する常勤の医師』と修正してはどうか。学会では、がん遺伝子パネル検査に関連する病理学に関する専門的な知識・技能を有する分子病理医の育成を進め、本年末には800名規模に到達する」と提案しています。

後者は、「多忙な主治医がエキスパートパネルに参加できず、開催が延期となるケースもある」(土原一哉構成員:国立がん研究センター先端医療開発センター副センター長)といった事態の解消を目指すもので、中島貴子構成員(京都大学大学院医学研究科早期医療開発学教授、日本臨床腫瘍学会理事)も賛同しています。

今後、出席に代わる「治療歴や家族歴に関する診療情報」の目安・基準を詰めていきますが、中島構成員は「治療歴はそれほど詳細なものは不要で、前治療が標準治療に合致しているかなどが確認できれば良いと思う。一方、家族歴は非常に重要で詳細な内容が求められる」と、土原構成員は「C-CTAに格納される情報で相当程度カバーできるのではないか」とコメントしています。

エキスパートパネルの持ち回り開催基準をより明確化

次に「エキスパートパネルの持ち回り開催基準をより明確化すべきではないか」という課題を見てみましょう。がんゲノム医療の実施当初は「すべての症例について対面でのエキスパートパネルでの検討」がなされていました。しかし、がんゲノム医療・エキスパートパネルで経験を積む中で、「対面での協議を行い、じっくりと検討すべき」症例と、「エキスパートパネル前の協議で最適な抗がん剤選択にかかる結論を出せる」症例とに大きく区分けできることが明らかとなり、厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」では次のように「持ち回り開催」が認められました。

▼「対象症例において遺伝子異常が検出されていない場合」、「検出された全ての遺伝子異常について治療方法の選択に関するエビデンスが既に確立されていると考えられるなど、当該対象症例に対する全ての出席者の見解が一致した場合」には、出席者がリアルタイムで協議可能な方法でのエキスパートパネルの開催は必要せず、この場合にも「エキスパートパネルは開催したもの」とできる

▼持ち回り協議の全ての出席者の見解が一致しない場合は、リアルタイムで協議可能な方法でのエキスパートパネルを開催する必要がある



さらに今般、「持ち回り開催」が可能なケースをより明確化することが必要との現場要請を受け、厚労省は次のような見直し案を提示しました。

▽用語の定義を明確にする観点で、現行の「遺伝子異常」を「病的バリアント」へと統一する

▽ 持ち回り協議のみ行い、リアルタイムでのエキスパートパネルを必要としない対象を次のように明確化する
▼ ⼆次的所見が見つかった場合、または疑われた場合
→リアルタイムでのエキスパートパネルの開催を必要とし、持ち回り協議の対象から除外する
→持ち回り協議では「遺伝医学に関する専門的な知識・技能を有する医師」が含まれているため、⼆次的所見が疑われた場合の患者・家族への対応に当たる「遺伝医学に関する専門的な遺伝カウンセリング技術を有する者」は、持ち回り協議においては参加を必須としない

▼病的バリアントが検出された場合
→「推奨する薬剤、治験等が無い」かつ「⼆次的所見が見つからない、または疑われない」場合に、持ち回り協議を可とする

▼エビデンスレベルB・Cの病的バリアント
→中核拠点病院・拠点病院と連携病院の間で推奨される薬剤、または推奨されない薬剤のコンセンサスが得られているものは、持ち回り協議を可とする

持ち回り開催の要件明確化(がんゲノム拠点病院指定要件WG5 231201)

遺伝子パネル検査におけるエビデンスレベル(がんゲノム拠点病院指定要件WG6 231201)



この提案内容に対しては概ねの賛同が得られ、委員からは「中核拠点病院・拠点病院と連携病院の間で推奨される薬剤、または推奨されない薬剤について、施設間で大きな格差が出ないように一定のリスト化が必要ではないか」(織田克利構成員:東京大学大学院統合ゲノム学教授、中島構成員)、「実運用に合わせ、持ち回りかリアルタイム開催からの選択判断を整理すると良い」(平沢晃構成員:岡山大学学術研究院医歯薬学域臨床遺伝子医療学分野教授、土原構成員)、「持ち回り開催では、リアルタイム開催に比べ1週間程度早く解析結果が患者・家族に届くようだ。その1週間は進行がん患者では非常に大きい。持ち回り開催の明確化などは重要である」(若尾直子構成員:がんフォーラム山梨理事長)などの注文・意見が出ています。

今後、詳細を厚労省で詰めていくことになりますが、「持ち回り開催の明確化により、持ち回りで済む症例が増加し、その分、リアルタイム開催が必要な症例に注力できる」こととなり、よりがんゲノム医療の恩恵を受けられる(最適な抗がん剤が選択され、効果的・効率的な治療を受けられる)患者が増加すると期待されます。

知識・スキル・体制の整う連携病院で、自前のエキスパートパネル開催を認める

さらに、「連携病院でも自前でエキスパートパネル開催を行える施設が登場しているのではないか」といった課題を見てみましょう。

現在、連携病院は「中核拠点病院・拠点病院の開催するエキスパートパネルに参加」して患者に最適な抗がん剤を選択することになっています。

しかし、がんゲノム医療を進める中で、▼連携病院の知識・スキル・体制も向上し、自前でエキスパートパネルを開催できる施設も現れている▼従前、拠点病院として自前でエキスパートパネルを開催していた連携病院もある—ことから、一定の要件をクリアした連携病院では「自前でエキスパートパネルを開催する」ことを認めてはどうかとの考えが浮上していきます。連携病院が自前でエキスパートパネルを開催できれば▼がんゲノム医療の間口がより広がる▼連携拠点病院の患者に、より早く解析結果・最適な抗がん剤候補の提示が行える(より早期の治療が可能になる)▼中核拠点・拠点病院の負担も軽減される—というメリットが期待されます。

厚労省は、「自前でエキスパートパネルを開催できる」連携病院の要件として、次のような点を提案しました。

厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」に示すエキスパートパネル実施要件を満たす

▽次の実績を有する
▼がん遺伝子パネル検査の出検数が年間50件以上ある
▼中核拠点病院・拠点病院にエキスパートパネルを依頼する前に、「厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」で定めるエキスパートパネルの全出席者により事前に検討し、その結果を中核拠点病院・拠点病院に報告」した実績を有する
→前年度まで拠点病院であった場合は「前年度のエキスパートパネルでの検討実績」が50例以上である
▼エキスパートパネルで推奨された治療を実施した症例が年間3例以上である
▼遺伝性腫瘍に関する遺伝カウンセリング数が年間20例以上である

▽自施設で判断に迷う場合は、連携する中核拠点病院・点病院にエキスパートパネルを依頼できる体制を有する

▽自施設の症例のみをエキスパートパネルの対象とし、「他の連携病院の症例」を検討することは求めない



中核拠点病院・拠点病院が、こうした要件をクリアする連携病院を選定(あわせて厚労省に報告)し「自前でエキスパートパネル」を開催。さらに毎年度「当該連携病院がエキスパートパネルが適切に実施できているかを確認し、評価を行う」という運用方針案も示されました。評価の結果「不十分」となれば、「自前でエキスパートパネルを開催」は認められなくなります。



また、「自前でエキスパートパネルを開催」後も中核拠点病院・拠点病院による一定のサポートが必要と考えられ、厚労省は「引き続きのサポート」(適切なエキスパートパネル開催の実施サポート、事例の把握・確認、人材育成など)を中核拠点病院・拠点病院に求めていく考えです。

上記要件のうち「実績要件」を満たすと考えられる連携は病院は40-50施設あり、その中から、厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」に示すエキスパートパネル実施要件を満たす施設などを選別していくことになります。

実績要件をクリアする連携病院の状況1(がんゲノム拠点病院指定要件WG7 231201)

実績要件をクリアする連携病院の状況2(がんゲノム拠点病院指定要件WG8 231201)

実績要件をクリアする連携病院の状況3(がんゲノム拠点病院指定要件WG9 231201)



この提案内容にも大きな異論はでていませんが、「連携病院はエキスパートパネル開催を行う中核拠点病院・拠点病院に相当な費用を支払っており、自前開催でその支出を削減できる。またエキスパートパネル開催による診療報酬(がんゲノムプロファイリング評価提供料:1万2000点など)が算定可能となる。将来的には補助金充実も考慮してほしい」といった注文もついています。

また、「自前でエキスパートパネルを開催する連携病院」と「自前でエキスパートパネルを開催しない連携病院」の2タイプができることになり、前者は「拠点病院」との違いが不明確にもなってきます。指定要件(整備指針)の見直しも今後必要になってくるでしょう。

なお、拠点病院から連携病院に指定類型が変更された場合(実際に本年(2023年)4月に7病院が変更)には、補助金も変更(停止あるいは減額)となり、「エキスパートパネルのメンバーの安定雇用」に支障も出てきます。ワーキング構成員からは、こうした点への配慮もしてほしいとの声が出ています。


今後、中釜座長と厚労省で構成員意見も踏まえて、上記3点(エキスパートパネルのメンバー構成、エキスパートパネルの持ち回り開催明確化、連携病院でのエキスパートパネル開催)の見直し内容を固め、親会議(「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」に報告。そこでも議論を行い、年度内(2023年度内)に厚労省通知「エキスパートパネルの実施要件について」の見直しが行われます。



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