患者・国民が「かかりつけ医」選択のための情報が不足している、終末期に受けたい・受けたくない医療の意思表示者は少数派—日医総研
2024.2.7.(水)
医療への満足度は向上しているが、「待ち時間」に関する不満足がやや増加している—。
「かかりつけ医」について、患者が選択するための情報が不足している—。
終末期に受けたい医療・受けたくない医療の意思表示を行っている人は15%にとどまっており、意思表示していない理由としては「今はまだその必要がない」「どのようにすればよいのか分からない」などが多い—。
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が1月31日に公表したワーキングペーパー「第8回 日本の医療に関する意識調査」から、こうした状況が浮かび上がってきました(日医総研のサイトはこちら)。
医療への満足度は向上しているが、「待ち時間」でやや不満足が多い
この調査では、全国の20歳以上の男女1162名を対象に(1)医療への満足度と期待(2)かかりつけ医(3)新型コロナウイルス感染症(4)医療の平等性、重点課題、医療情報(5)自分自身の健康管理と新しい時代の医療(6)終末期医療—について、面接員が個別面接形式で聞き取っています。
まず(1)の医療への満足度を見ると、自分自身の受けた医療については91.1%が、日本の医療全般については79.4%が「満足」している状況が分かりました。満足度は2002年に行った第1回から徐々に「向上」しています。
満足度の低い項目としては「待ち時間」(36.8%が不満足)があげられ、最近の調査結果に比べて満足度が下がっていることも伺えます。予約診療等が進展していますが、新型コロナ感染症が落ち着く中で「患者数」「受診頻度」が従前に戻る中で待ち時間が伸びているのではないかと日医総研は分析しています。
一方、医療への期待に関しては、次のようなことが分かりました。
▽今後重点を置くべき医療提供体制としては、▼救急医療体制の充実:49.7%▼介護施設や高齢者入院施設の充実:41.7%▼医療従事者の確保:28.7%▼感染症・災害への対応充実:24.7%▼医療従事者の資質向上:22.9%▼地域の病診連携:22.7%▼相談などを含む身近な医療機関の充実:21.5%—などを重視している
「かかりつけ医」選択の情報が不足している
次に(2)の「かかりつけ医」に関する調査結果を見ると、次のような状況が浮かび上がってきました。ここでの「かかりつけ医」とは、「何でも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医を紹介でき、身近で頼りになる総合的な能力を有する医師」と定義されています。
▽かかりつけ医を持っている人は56.9%で、過去の調査結果と比べて徐々に増加してきている
▽かかりつけ医を持っている人の割合は、高齢者で多く、若者で低い
▽かかりつけ医を持っている人の割合は、男性よりも女性で高い
▽かかりつけ医の人数は、1人:70.7%、2人:22.7%、3人以上:6.5%で、診療科としては「内科」が多いがさまざまである
▽かかりつけ医の所属する医療機関は、クリニックや中小病院が多いが、大病院との回答も1割弱ある
▽「その医師をかかりつけ医としている理由」としては、▼近所にある:53.4%▼現在の病気の主治医:49.6%▼身近で何でも相談できる:36.8%▼自分や家族の病歴などを知っている:18.3%▼必要な時に専門医等を紹介してくれる:18.2%▼総合的な診療を行ってくれる:13.2%—などが多いが、年齢層により若干の差がある
▽かかりつけ医の探し方については、▼医師から紹介してもらい自分で選ぶ:51.1%▼自分で探す:47.8%▼医師に紹介してもらう:21.8%—などが多い
▽76.7%の人が「状況に応じて、かかりつけ医を選んだり変えたりできることが必要」と考えている
▽かかりつけ医がいない理由としては、▼病気をあまりしないので必要なし:69.7%▼受診の都度に医療機関を選ぶ:26.2%▼どのような医師がよいのか分からない:22.0%▼選択のための情報がない:13.8%▼探す方法が分からない:12.4%▼適切な医師が見つからない:11.8%—などが多い
▽かかりつけ医を探す際に必要な情報としては、▼得意とする治療分野▼連携医療機関▼診療実績▼かかりつけ医としてのキャリアや教育—などを重視している
▽かかりつけ医への期待としては、▼まずはどんな病気でも相談できる:75.0%▼健康管理のための継続的な助言・指導:48.1%▼専門医等への紹介:46.6%▼過去の病歴等の把握:35.4%▼親身な対応:34.7%—などを重視している
こうした状況を踏まえて日医総研では「かかりつけ医を必要としていない人でも、感染症発生時や、いざという時に受診できるかかりつけ医を見つけられることが重要であり、情報や体制のさらなる充実が求められている」と提言しています。
なお、医療機関選択のために国・都道府県が実施している「医療機能情報提供制度」(医療情報ネット)については認知度(20.3%)が依然として低い状況です。
かかりつけ医機能の発揮に向けては、厚生労働省で「かかりつけ医機能報告制度」の詳細(どのような事項を医療機関に報告してもらい、どのような情報を患者・国民に提供するかなど)を詰める検討会が発足しており、今夏(2024年夏)に報告書をまとめる予定です(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また(5)から「医療技術」に関連する調査結果を拾ってみると、次のような点が明らかになりました。
▽53.9%が「自身の健康管理のため、スマートフォンやパソコンを用いて受診履歴や健診結果の確認をしたい」を考えている(若者ほど要望が強い)
▽64.3%が「人工知能(AI)による画像診断など、AIを駆使した医療」を求めている(若者ほど要望が強い)
▽77.6%が「血圧などを日常的に測るツールを活用して自身で健康管理ができる医療」を求めている(若者ほど要望が強い)
多くの国民が「新たな医療技術」開発に期待を寄せていることが伺えます。
終末期に受けたい医療・受けたくない医療の意思表示を行っている者は15%にとどまる
さらに(6)の終末期医療に関する意識を見ると、次のような点が明らかになりました。
▽「治る見込みがない場合に最期まで過ごしたい療養生活の場」としては、▼自宅療養し、必要に応じて「それまでの」医療機関:34.4%▼自宅療養し、必要に応じて「緩和ケア」施設:23.4%▼自宅療養:10.8%▼緩和ケア施設:7.9%—などが多い
▽「施設等での療養」希望者では、その理由として「家族に迷惑をかけたくない」が多い
▽終末期における治療についての意思表示については、▼すでにした:15.1%▼まだしていない:78.3%—という状況である
▽終末期における治療の意思表示をしていない理由としては、▼まだその必要なし:70.3%▼どのように行えばよいのか分からない:14.2%▼意思表示するつもりはない:4.9%—という状況である
厚生労働省は、「終末期・人生の最終段階において、自分自身がどのような医療・ケアを受けたいか、逆に受けたくないか」を家族などの親しい人や、医療・介護関係者と「繰り返し」話し合い、できればそれを形にして見えるようにしておくことを推奨しています。
例えば、「自分は延命治療をしてほしくない、チューブなどでつながれたくない」との意思を持っていても、それが救急隊や医療者、家族などに伝わっていなければ、医療者等は「命を救う」ために、そういった処置を行うことでしょう。しかし、それは本人の意思と大きくズレており、関係者全員にとって「不幸なこと」と言わざるを得ません。
こうした事態を防ぐために「自分自身がどのような医療・ケアを受けたいか、逆に受けたくないか」の意思表示が重要なのです。
もっとも、「そんなことは考えたくない」という考えも重視されなければならないことは述べるまでもありません。
こうした点を総合的に踏まえ、2024年度診療報酬改定では「入院医療全般」において「患者の受けいたい医療・受けたくない医療に関する意思決定・意思表示」の支援を求めることを予定しています(関連記事はこちら)。
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