第4期がん対策推進基本計画の中間評価を2026年度に実施、メリハリをつけ、全体像を把握する―がん対策推進協議会(1)
2024.8.6.(火)
第4期のがん対策推進基本計画がスタートしており、次期計画(第5期計画)につなげるために、効果・課題などを把握し、中間評価を2026年度に行う—。
全体像をわかりやすくするために、中間評価においては、詳しく分析する「コア指標」と、「その他指標」を設け、メリハリのついた分析・評価を行う—。
8月5日に開催されたがん対策推進協議会で、こういった方針が固められました。なお、同日には「都道府県がん対策推進計画」の策定状況報告も行われており、別稿で報じます。
2026年度に「第4期がん対策推進基本計画」の中間評価、コア指標を設定へ
我が国のがん対策は、「がん対策推進基本計画」に則って実施されます。現在、第4期計画(2023年3月に閣議決定)が稼働しています。
この第4期計画を進める中で「得られた効果・成果」「浮上した課題」などを踏まえて、次の第5期計画につなげることになりますが、第4期の計画終了を待って効果等を評価をしたのでは、第4期計画と第5期計画との間に隙間が生じてしまいます。
そこで、第4期計画では中間年の2026年度に「中間評価」を行い、その結果を踏まえて第5期計画を策定することになります(医療計画の中間見直しとも歩調を合わせることになる)。
中間評価においては、どの点を評価するのかを定め(評価指標)、それが「起点(ベースライン)」から「評価時点」にかけて、どのように変化しているのかを見ます。
この評価指標について、第4期計画では「ロジックモデル」という考え方が全面的に組み込まれました。
例えば、「がん予防」のうち「科学的根拠に基づく子宮頸がん対策」に関しては、▼HPVワクチン定期予防接種実施率がどう変化したか(アウトプット指標)→▼子宮頸部がんの罹患率がどう変化したか(分野別アウトカム)→▼がんの年齢調整死亡率がどう変化したか(最終アウトカム)—を各種統計データ(地域保健・健康増進事業報告、全国がん登録、人口動態統計)から把握し、効果を評価します。
また、「がん医療」のうち「医療提供体制全般」に関しては、▼治療前にセカンドオピニオンを受けたがん患者の割合がどう変化したか(アウトプット指標)→▼担当医が「がんについて十分な知識や経験を持っていた」と思う患者の割合がどう変化したか(中間アウトカム指標)→▼患者による「がんの診断・治療全体の総合評価」(平均点)がどう変化したか(分野別アウトカム)→▼がんの年齢調整死亡率がどう変化したか(最終アウトカム)—を患者体験調査や人口動態統計から把握し、効果を評価します。
ところで、第4期計画では「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」との全体目標が掲げられていることから、上述の「ロジックモデル」を全面導入し、取りこぼしがないように「がん対策の効果評価」(中間評価)を行います。このため、評価項目は極めて膨大なものとなっています(厚労省サイトはこちら(評価指標一覧)とこちら(ベースライン一覧))。
ただし、評価項目がきめ細かく設定されることで「精緻な評価」を行えるというメリットがありますが、「全体像が見えにくくなる」という懸念もあります。
そこで厚労省は、中間評価にあたって「全ての指標を漫然と分析・評価するのではなく、重要な指標に絞ってメリハリをつけて分かりやすい分析・評価を行ってはどうか。具体的には『コア指標』を予め選定して詳しく分析する、『その他指標』は測定結果のみを提示し進捗を把握してはどうか」との考えを提示しました。
コア指標の選定論議は来春(2025年春)に行われますが、厚労省は例えば「指標としての質が高く、アウトカムへの影響も大きい指標」(例えば、年齢調整死亡率/罹患率、がん種別の早期がん割合、検診受診率など)が考えられるとしています。
この考え方は概ね了承されましたが、「コア指標に集中し、その他指標が軽んじられることのないように留意してほしい。『誰一人取り残さない』という点を忘れてはならない」旨の注文が患者代表の1人として参画する谷島雄一郎委員(ダカラコソクリエイト発起人・世話人/カラクリLab.代表、大阪ガスネットワーク株式会社)から出されています。
あわせて厚労省は、「都道府県ごとのがん対策の進捗状況を評価するため、『都道府県ごとのコア指標』を可能な限り測定・公表する。都道府県のがん対策を見える化しながら、地域の実情に応じたより良い取り組みが横展開しやすくなるように取り組みを進める」考えも示し、了承されています。
なお、同日の協議会には「都道府県がん対策推進計画」の策定状況(本年(2024年)7月時点)が報告されており、別稿で報じます。
「がん対策、健康の格差」解消が、第5期がん対策推進基本計画の重要視点に
前述のとおり、第4期計画では「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」との全体目標が掲げられました。例えば「経済的な状況」「性別」「居住地」などによらず、質の高いがん医療等を受けられるようにすることを目指すもので、土岐祐一郎会長(日本癌治療学会前理事長、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授)は「これまでの計画(第1-3期)に比べ、よりメッセージ性の強い全体目標を示すことができた」とコメントしています。
こうした全体目標を踏まえ「がん対策や健康の格差」に関する研究に注目が集まっています。諸外国の先行研究も参考に、▼個人別(性別、年齢、職業など)/世帯別(収入など)▼地域別—に、どのような「健康格差」があるのか、「予防、医療、共生などのどの段階で格差が生じてしまうのか」を調べるものです。この研究成果を踏まえて「●●地域でがん検診に力を入れる必要がある」などの施策につなげられると期待されます。
協議会委員もこの研究に注目しており、「将来的な健康格差の解消により、国全体の健康水準向上→医療費の適正化などにつながることが期待できるのではないか」(谷島委員)、「健康格差の解消は、行政における医療・健康部門だけでなく、経済・生活支援等部門との連携が非常に重要となる」(伊藤ゆり参考人:大阪医科薬科大学総合医学研究センター医療統計室室長・准教授)などのコメントが出ています。第5期計画に向けて「健康格差」解消が重要視点の1つになってきそうです。
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