がん診断時からの緩和ケアに向けた緩和ケア研修会の充実、相談支援センター・ピアサポートの充実など進めよ―がんとの共生検討会
2024.5.8.(水)
がんと診断された時からの心理的・身体的な緩和ケアが十分に実施されるよう、緩和ケア研修会の内容充実を図る—。
患者を対象にしたがん医療の調査(患者体験調査)結果速報を見ると、「相談支援センターやピアサポートの充実」「こころの辛さを相談できる体制の充実」が重要課題であることが再確認できる—。
アピアランスケアは、単なる「外見の補正」にとどまらず、「外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」であることを認識し、患者に「ここで相談できますよ」と折に触れて正しく情報提供できる体制を各医療機関で整備していくことが重要である—。
4月26日に開催された「がんとの共生のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。
目次
緩和ケア研修会を充実し、がん診断時からの緩和ケア実施体制を目指す
我が国のがん対策は「がん対策推進基本計画」に沿って進められ、今年(2023年)3月28日に新たな「第4期がん対策推進基本計画」が閣議決定されました。
●第4期がん対策推進基本計画はこちら
第4期計画では、「誰1人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」ことを全体目標として掲げ、▼がん検診受診率の向上(目標値を50%→60%に引き上げ)によるがん予防の推進▼がんと診断されたときからの「緩和ケア」実施や、新規医療技術の速やかな臨床実装などによるがん医療の向上・充実▼アピアランスケア(外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア)にも配慮したがんとの共生の充実▼これらを支える研究や人材育成、教育などの基盤強化—が進められます(関連記事はこちらとこちら)。
この点、がん対策推進基本計画は「策定して完了」ではありません。計画に沿って各種の施策を実行・推進するとともに、その成果を踏まえた「評価」を行い、その評価結果を次の計画に反映させていくことが重要です。第4期計画については「2026年度に中間評価」を行い、その後、2028年度からの第5期計画に向けた議論が進められます。
こうしたスケジュールを踏まえて検討会では、(1)緩和ケア研修会の見直し(2)患者体験調査(3)アピアランスケア—の3点について議論を行いました。
まず(1)の緩和ケアは、がんと診断された時からの心理的・身体的なケア実施の重要性がかねてから認識されており、第4期計画では医療・共生の双方にまたがる重要論点であることが確認されました。
こうした「がんと診断された時からの心理的・身体的なケア実施」体制の構築に向けて、厚労省は「緩和ケア研修等事業」(日本緩和医療学会への委託事業)を実施しています。緩和ケアの知識を習得する「e-Learning」と、グループ演習・ロールプレイ演習を盛り込んだ「集合研修」との2過程で構成されています。
今般、検討会の下部組織である「がんの緩和ケアに係る部会」において、より充実した緩和ケア体制の構築を目指し、▼医師、歯科医師には(1)がん以外に対する緩和ケア(2)疼痛、呼吸困難、消化器症状以外の身体的苦痛に対する緩和ケア(3)不安、抑うつ、せん妄以外の精神心理的苦痛に対する緩和ケア(4)緩和的放射線治療や神経ブロック等による症状緩和(5)社会的苦痛に対する緩和ケア—の5つの科目を必修とし、それ以外の職種は「(1)から(5)のうち2科目を選択」する▼「苦痛のスクリーニングと、その結果に応じた症状緩和及び専門的な緩和ケアへのつなぎ方」の項目で「緩和的放射線治療や神経ブロック等」について内容を充実する▼集合研修のグループワークの実施に当たっては「多職種によるグループ」が編成されるよう配慮する—といった見直し方向が固められました。
4月26日の検討会でも、この見直し内容を了承していますが、構成員の間では、▼知識のアップデートが重要なため「研修受講の義務化」を求める意見(岸田徹構成員:がんノート代表理事)があるが、「研修の質を確保するために、やる気のある人のみの能動参加を維持すべき」との声(木澤義之構成員:筑波大学医学医療系緩和医療学教授、日本緩和医療学会理事長)も強い▼「多職種にも研修を広げるべき」との声(坂本はと恵構成員:国立がん研究センター 東病院サポーティブケアセンター副サポーティブケアセンター長、日本医療ソーシャルワーカー協会理事)もあるが、「そもそも医師向けの研修であり、職種が広がりすぎると内容が薄まってしまう」ことを懸念する声(木澤構成員)もある—などの議論が行われました。
今般の見直しで「完了」ではなく、研修のさらなる充実にむけた議論が継続されます。
がんの告知を受ける際の患者の衝撃を、相談支援センターなどでなんとか緩和できないか
がん医療の評価にあたっては「患者の視点」が強く意識され、「患者体験調査」が実施されています。例えば、「初めての受診から、診断、治療開始までの時間がどうであったか」「治療開始までに十分な情報を得られたか」「医師・スタッフから必要事項の説明があったか」「経済的な負担の程度はどの程度であるのか」「治療の見通しが持てたか」「就労継続への相談・サポートがあったのか」「相談支援センター、ピアサポートの利用状況、認知状況をどうか」などを調べ、その結果をがん対策推進基本計画に反映していきます。これにより「患者本位のがん治療」が実現されると期待されます。
今般、第3回目の患者体験調査が実施され、その速報値が中澤葉宇子参考人(国立がん研究センターがん対策研究所がん政策評価研究部研究院)から報告されました。例えば次のような点が明らかになっています。
▽希少がん、若年のがんにおいて「病院探し」に困難を感じることが比較的多い
▽6割の患者が「身体が辛いときにすぐ医療者に相談できた」が、「心の辛さ」に関する相談は45%程度にとどまっている
▽がん相談支援センター/ピアサポートの認知度は低い(53.6%、14.6%)
▽2割程度の患者が、がんと診断されたときに退職している
▽治療前の「就労継続への説明」が医療者から行われた割合は4割未満にとどまっている
▽妊孕性温存に関する医師からの説明は、56.1%にとどまっている
▽アピアランスケア(後述)に関する相談をできた患者が2割程度にとどまっている
中沢参考人・構成員による議論では、▼コロナ感染症の影響で相談支援センターが十分に活用されていない▼医療機関への「こころの専門家」配置が弱く、「こころの辛さ」に関する相談が十分に行えていない▼ピアサポート(がん患者同士による支えあい)が非常に重要であり、今後、さらに推進していく必要がある—などの点が目立ちました。
今後、患者体験調査についてさらに詳しい分析・解析が行われます。
がんの告知を受ける際の患者の衝撃を、相談支援センターなどでなんとか緩和できないか
がん治療では外見の変化(例えば抗がん剤治療では「髪の脱毛」など)が生じることが多く、社会的孤立や治療への躊躇を招く大きな要因の1つにもなっており、「アピアランスケア」の充実も第4期がん対策推進基本計画に盛り込まれています。
これを受け厚生労働省は、アピアランス支援モデル事業を実施、2023年度にはがん研究会有明病院や神奈川県立がんセンターなど10病院、24年度には京都府立医科大学附属病院や兵庫医科大学病院など同じく10病院において、医療現場における適切なアピアランスケア体制の構築と、効果的な支援体制について検証を行っています。
このモデル事業結果も踏まえて藤間勝子参考人(国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター長)は、▼「アピアランスケア」は、単なる「外見の補正」にとどまらず「外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」であることを重視する必要がある▼アピアランスケアを医療機関に実装するには、(1)ケアチームを立ち上げる(2)従前のケア内容の検証・見直しを行う(3)外見について相談できることを患者に明示し、その必要性を病院全体・医療者に伝える(4)院内での定期的な情報交換を行う(5)患者や職員から定期的に評価を得る仕組みを作る—といった段階を踏んでいく必要がある—などの提言を行いました。
構成員からは、▼身内ががんに罹患すると、アピアランスケアの重要性を実感する。正しい知識の普及・啓発が非常に重要で、パンフレット1つを渡すだけでも患者の不安が相当取り除かれる(西田俊朗座長:大阪病院院長、国立がん研究センター理事長特任補佐)▼ウィッグなど、どこに相談すればよいのかわからない患者も少なくない。院内で情報提供フローを作成し、医療者が折にふれて「ここに相談できます」と伝えることができるとよい(鈴木美穂構成員:マギーズ東京共同代表理事)▼医療者へのアピアランスケアに関する教育が重要である(森内みね子構成員:日本看護協会常任理事)▼外見の変化から就労が困難になることもある、職場の理解も促していく必要がある(近藤明美構成員:近藤社会保険労務士事務所代表、特定社会保険労務士)—といった意見が出されています。
モデル事業の結果も踏まえ、近い将来「より多くのがん診療連携拠点病院等において、アピアランスケアの実施体制を構築していく」取り組みが進むことに期待が集まります。
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