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第4期がん対策推進基本計画の素案示される!がんと診断されたときからの手厚い緩和ケア提供を目指せ!—がん対策推進協議会

2022.11.15.(火)

11月11日に開催されたがん対策推進協議会(以下、協議会)で、「第4期がん対策推進基本計画」(案)が厚生労働省から提示されました。

9月初旬より精力的に行われてきた「予防」「医療」「共生」「基盤整備」などに関する議論をふまえたものです。

審議時間が限られていることもあり、「第3期計画」をベースに、「緩和ケアに関する記述を『医療』と『共生』の双方に書き込む」「『基盤整備』の部分に、『患者・市民参画の推進』や「デジタル化の推進」の項目を新設する」などの見直しが行われる形で第4期計画案が作成されています。

過去の経緯や現状を踏まえ「第3期計画をベースにすることに理解を示す」委員がいる一方で、「第3期計画と第4期計画とは『同じようなもの』と思われてしまうのではないか」と心配する委員もいます。議論の時間が限られている(来年(2023年)3月に新計画を閣議決定しなければならないが、コロナ対策のために議論のスタートが遅くならざるを得なかった)ことが悔やまれますが、年末にかけて調整論議が進められます。

「がん研究」の項目を、「がん予防・医療・がんとの共生」と同格の柱に据えるべきか

我が国のがん対策は、6年を1期とする「がん対策推進基本計画」をベースに進められます。2024年度から、新たな「第4期がん対策基本計画」がスタートするため、協議会は「年内(2022年12月まで)の意見とりまとめ」に向けて、非常にタイトな日程の中で精力的な議論を進めています。

【これまでの協議会論議に関する記事】
がんと診断されたときから手厚い緩和ケアを提供!ネット情報の中には「不正確で有害ながん情報」も少なくない!—がん対策推進協議会
がん診療や相談支援に携わる人材の不足・偏在の解消が急務、D to P with D等も含めた総合的対策が必要不可欠—がん対策推進協議会(2)
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がん医療充実に向け、支持療法の均てん化、希少がん対策全国ネットワーク構築、小児がん治療薬開発などが重要—がん対策推進協議会
がん医療の地域・病院間格差是正などを進めていくが、「適切な目標・評価指標設定」のための時間はわずか4か月—がん対策推進協議会



11月11日の協議会には、厚生労働省から、これまでの議論を踏まえた「第4期がん対策推進基本計画」(案)が提示されました。

●「第4期がん対策推進基本計画」(案)はこちら



冒頭に述べたとおり、「予防」「医療」「共生」「基盤整備」という第3期計画の基本構成を維持し、▼緩和ケアに関する記述を「医療」と「共生」の双方に書き込む▼「基盤整備」の部分に、「患者・市民参画の推進」や「デジタル化の推進」の項目を新設する▼計画・取り組みの効果を評価する指標に「ロジックモデル」の考え方を盛り込み、「目標達成のために、何から取り組めばよいか」をより分かりやすく示す―などの見直しが行われています。

第4期がん対策推進基本計画の構成案(がん対策推進協議会1 221111)

第4期がん対策推進基本計画の骨子案(がん対策推進協議会3 221111)

目標・評価指標にロジックモデルの考え方を導入する(がん対策推進協議会2 221111)



この点について石岡千加史委員(東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長、日本臨床腫瘍学会理事長)は、「第3期計画と第4期計画とは『同じようなもの』と思われてしまうのはいかがか」とし、「例えば、第3期計画では『がん研究』が『基盤整備』の中に組み込まれた。しかし、がん対策基本法の『基本理念』では『がん研究』を最上位に据えており、これはがん患者の強い意向を踏まえたものだ。第4期計画では『がん研究』を基盤整備から切り出し、『予防』『医療』『共生』と同格の柱に据えてはどうか」と提案しました。大井賢一委員(がんサポートコミュニティ事務局長)も「研究を柱として据えることで、国民への大きなメッセージになる」と石岡委員の提案に賛意を示しています。

●がん対策基本法(抜粋し、Gem Med編集部で一部改変)
(基本理念)
第2条 がん対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
1 がんの克服を目指し、がんに関する専門的、学際的又は総合的な研究を推進するとともに、がんの予防、診断、治療等に係る技術の向上その他の研究等の成果を普及し、活用し、及び発展させる
2 がん患者がその居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにする
3 がん患者の置かれている状況に応じ、本人の意向を十分尊重してがんの治療方法等が選択されるようがん医療を提供する体制を整備する
4 がん患者が尊厳を保持しつつ安心して暮らすことのできる社会の構築を目指し、がん患者が、その置かれている状況に応じ、適切ながん医療のみならず、福祉的支援、教育的支援その他の必要な支援を受けることができるようにするとともに、がん患者に関する国民の理解が深められ、がん患者が円滑な社会生活を営むことができる社会環境の整備を図る
5 それぞれのがんの特性に配慮したものとなるようにする
6 保健、福祉、雇用、教育その他の関連施策との有機的な連携に配慮しつつ、総合的に実施する
7 国、地方公共団体、第五条に規定する医療保険者、医師、事業主、学校、がん対策に係る活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に実施する
8 がん患者の個人情報(個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものの保護について適正な配慮がなされるようにする



この提案に頷ける部分がありますが、中釜斉委員(国立がん研究センター理事長)は「がん研究は、予防(遺伝子レベルでの予防技術も近く実用化される)・医療・共生のすべての分野に関連する事項である。現在の『基盤整備』の中に記載することで良いとも考える」とコメントしました。今後の調整が待たれます。

また中釜委員は「『がん医療』の中に創薬関連の事項が盛り込まれているが、『基盤整備』の中に『新規技術の早期臨床実装』という項目を立て、そこに移す方が妥当かもしれない」との考えも示しています。関連して大井委員は「昨今、新たな形のドラッグ・ラグが発生していると指摘される(関連記事はこちらこちら)。こうした点への対策も基本計画の中に盛り込んではどうか」と提案しています。

確実な「がん予防」に向け、科学的根拠に基づく「組織型検診」の実現を目指す

「がん予防」のうち、検診(2次予防)に関しては「がん検診受診率をより正確かつ精緻に、また、個人単位で把握する」仕組み(科学的根拠に基づく組織型検診)を検討する方針が打ち出されています(関連記事はこちら)。松田一夫委員(福井県健康管理協会副理事長、日本消化器がん検診学会監事)や阿久津友紀委員(北海道テレビ放送株式会社東京編成業務部長、SODANE編集長)、谷島雄一郎委員(ダカラコソクリエイト発起人・世話人、カラクリLab.代表)らは「がん対策において『誰もとりこぼさない』ことが重要であり、がん検診においてもこの視点を強調すべき」と述べ、「科学的根拠に基づく組織型検診」の実現を強く求めています。

また1次予防(生活習慣の改善など)に関しては「喫煙率の低下目標」をどう設定すべきかが議論になっています。「喫煙は、がんだけでなく、循環器病疾患などの広範なリスク要因となるために、より広範な視点で『低下目標』を立て、がん対策推進基本計画でもそれに沿う」考えが厚労省から示されましたが、石岡委員は「がん対策の中で、独自に『より厳しい喫煙率の低下目標』を打ち出すべき」と提案しています。目標値が異なれば、都道府県が「がん対策」や「循環器病対策」などの計画を立てる際に混乱してしまう側面もあり、今後、調整論議が行われる見込みです。

「がん医療」分野にも「緩和ケア」の考え方を盛り込み、診断時からの緩和ケア実施目指す

一方、「がん医療」に関しては、上述した「緩和ケア」(診断時からの緩和ケアを、すべてのがん患者に実現する)の記述を盛り込むほか、従前に続き▼がん医療提供体制等(医療提供体制の均てん化・集約化、手術・化学療法・放射線治療・支持療法の充実など)▼希少がん・難治性がん対策▼小児がん・AYA世代のがん対策▼高齢者のがん対策—を充実・推進する方向がさらに明確に示されています。

こうした方向に異論は出ていませんが、▼基本的ながん医療について「地域格差が拡大」している部分がある。今一度「基本的ながん医療」の実態を把握し、日本全国のどこに居住していても「優れた基本的ながん医療を受けられる」体制構築方針を確認すべき(石岡委員、阿久津委員)▼格差の是正方策について、都道府県だけでなく、国が主導して解消に努めていく方向を明示すべき(土岐祐一郎会長:大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授、日本癌治療学会理事長、樋口麻衣子委員:富山 AYA 世代がん患者会Colors代表)▼希少がん・難治がんの診断・治療にかかる「アクセス」の改善方針を明確にしてほしい。「がんゲノム医療」の項目を明示してほしい(谷島委員)▼緩和ケアに関し「治療と緩和ケアの融合」「人生の最終段階における緩和ケアの実施」「在宅医療における緩和ケアの実施」を「がん医療」の部分に明示すべき(木澤義之委員:筑波大学医学医療系緩和医療学教授、日本緩和医療学会理事長、鶴岡優子委員:つるかめ診療所所長、日本在宅医療連合学会理事)▼「患者本位の医療」を心がけているが、いまだに「セカンドオピニオンを受けて良いでしょうか」などの相談を患者が恐る恐るするケースもある。「患者本位の医療」という視点は今後も重要である(中釜委員)—など多くの提案が出ています。いずれも重要な提案ですが、「あまりにボリュームが大きくなれば、読み手に伝わりにくくなってしまう」点にも配慮し、今後、調整論議が進められていきます。

「がんとの共生」、企業における「就労支援」状況の把握なども重要検討課題

また、「がんとの共生」に関しては、第3期計画に盛り込まれた▼相談支援・情報提供▼社会連携に基づくがん対策▼サバイバーシップ支援(就労支援やアピアランスケア、がん診断後の自殺対策など)▼ライフステージに応じたがん対策—をさらに推進する方針が強調されています。

就労支援に関して阿久津委員は「企業サイドの現状や意識について調査を行い、対策を打ち出す必要があるのではないか。とくに中小企業では『従業員の健康確保』という意識醸成が遅れがちである」と提案。企業代表の1人として参画する齋藤朋子委員(松下産業ヒューマンリソースセンター長)も、この提案に賛同しています。

さらに患者代表の1人である前田留里委員(京都ワーキング・サバイバー理事長、全国がん患者団体連合会理事)は「がんと診断された時からの緩和ケア提供(とりわけ心理的サポート)」や「経済的不安への支援」「取り組みの成果を評価する指標のベースとなる『患者体験調査』の設定そのものへの患者参画」などを訴えています。

また「取り組みの成果を評価する指標」について、久村和穂委員(金沢医科大学医学部公衆衛生学非常勤講師、石川県がん安心生活サポートハウスソーシャルワーカー、日本サイコオンコロジー学会代議員)や谷島委員は「患者本位、患者目線での指標、例えば『適切なケアを受けられた患者の割合』『適切な社会的支援を受けられた患者の割合』などを盛り込むべきではないか」と提案。大きく頷ける提案ですが、指標には「数値として比較的勘弁に把握できなければならない」という制約があります。「適切なケアを受けられた患者の割合」「適切な社会的支援を受けられた患者の割合」などを、どのように定義し、どのような手法で数値化するか(かつ、それが多くの人に納得されなければならない)などの問題も同時に解決しなければならない点に留意が必要です。

予防・医療・共生を支える「基盤整備」、デジタル化の推進、患者参画の考え方を盛り込む

他方、「基盤の整備」(予防・医療・共生を支える人材育成や研究など)に関しては、▼がん研究の推進▼人材育成の強化▼がん教育・がんに関する知識の普及啓発▼がん登録の利活用の推進▼患者・市民参画の推進▼デジタル化の推進—という方向が打ち出されました。

中釜委員は「迅速に、がん医療の現状が把握できる体制が今後、極めて重要になる」とし、デジタル化の推進に大きな期待を寄せています。医療全般について「患者の過去の診療情報等を、オンライン資格確認等システムを活用して、全国の医療機関で共有・確認可能とする仕組み」が動き始めています(関連記事はこちらこちらこちら)。がん医療においても、この仕組みを活用され、さらに電子カルテ情報などが加わることで「大きな成果」が生まれると期待が集まります。



協議会では、「委員の意見・提案を踏まえて、基本計画案を修文していく」作業を今後も繰り返し、年内(2022年12月中)に第4期がん対策推進基本計画」を取りまとめる予定です。



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