がん医療充実に向け、支持療法の均てん化、希少がん対策全国ネットワーク構築、小児がん治療薬開発などが重要—がん対策推進協議会
2022.9.21.(水)
次期の「第4期がん対策推進基本計画」においては、「がん医療の充実」に向けて、支持療法の均てん化、希少がん対策全国ネットワークの構築、小児がん治療薬の開発促進、高齢者がん治療ガイドラインの普及などが重要になってくる—。
がん予防に関しては、検診から「零れ落ちてしまう人」をなくすために、組織型検診体制を構築していくことが最も重要と考えられる—。
9月20日に開催されたがん対策推進協議会で、こういった議論が行われました。
支持療法の均てん化、希少がん対策ネットワークの構築などを進めよ
第4期がん対策基本計画の策定論議がついに本格スタートしました(関連記事はこちら)。我が国のがん対策のベースとなる極めて重要な計画ですが、「年内に協議会意見を取りまとめる」という非常にタイトな日程の中で審議が進められます。
9月20日の会合では、「がんの予防」と「がん医療の充実」を議題としました。
後者の「がん医療の充実」に関しては、▼支持療法▼希少がん、難治性がん対策▼小児がん、AYA世代のがん対策▼高齢者のがん対策—について、各分野を専門とする協議会委員および参考人から意見発表が行われました。
「支持療法」は、がん治療で発生する副作用に対し予防・症状軽減を目的として行う治療を意味し、第3期がん対策推進基本計画から盛り込まれています。薬物療法において支持療法のニーズが最も高いと考えられますが、「手術後のリンパ浮腫」や「放射線治療に伴う消化管障害、晩期合併症」など、薬物療法以外での副作用に対する支持療法も重要性を増しています。
第4期計画に向けて、全田貞幹参考人(国立がん研究センター東病院支持緩和研究開発支援室長)は、例えば▼レジメンの更新(支持療法に用いる制吐剤のアップデート)▼疲労・倦怠感などの「主観的で、定量評価しにくい副作用」の実態把握▼新規薬剤における未知の後遺症の把握▼CIPN(手足のしびれ・痛み)への対応▼脱毛への対応—などとともに、「支持療法の均てん化」(すべてのがん診療連携拠点病院でチームによる質の高い支持療法の実施)が重要テーマになると訴えました。なお、均てん化に向けて全田参考人は「支持療法の保険適用と点数の充実が重要になってくる」との見解も示しています(例えばリンパ浮腫指導管理料が2016年度診療報酬改定で保険適用された)。
この点、患者代表として参画する前田留里委員(京都ワーキング・サバイバー理事長、全国がん患者団体連合会理事)は「目に見えない倦怠感などの副作用に対する支持療法の研究などを進めてほしい。ケモブレイン(抗がん剤治療期間中や終了後に、頭がモヤモヤするなどの症状が現れることが少ないない)など、患者の訴えを十分に斟酌し、支持療法を推進してほしい」と要望しています。
また「希少がん、難治性がん対策」に関しては、▼適正な診断・治療に「繋がれ」ない▼がん診療連携拠点病院においても、病理診断の「不精確」という問題がある▼治療開発の「遅れ」がある▼医療関係者・患者の双方で「必要な情報の不足」がある—という大きな共通した課題があります。
第4期計画に向けて川井章参考人(国立がん研究センター希少がんセンター長)は、こうした課題を解消するために、中央機関(国立がん研究センター)・中核拠点センター(仮称)を中心とした全国ネットワークを構築して、(1)全国どこでも適切な「診断」を可能にする(地域のがん専門医療機関への支援の強化)(2)新たな「治療」をできるだけ早くすべての患者に届ける(ネットワークを通じた診療支援と研究開発促進)(3)患者に寄り添った「相談」「情報提供」を充実させる—ことが重要であると訴えました。
この点について石岡千加史委員(東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長、日本臨床腫瘍学会理事長)は「限られたリソース(医師、看護師など)を、どう有効に、効率的に活用するかが極めて重要である。希少がん対策に限らないが、第1期・第2期で指摘された課題が解決されず、第4期を迎えようとしており、がん診療連携拠点病院間の格差が広がる一方だ。施設の集約化なども含めて考えていく必要がある」とコメントしており、極めて重要な指摘として受け止める必要があります。います。
他方、「小児がん、AYA世代のがん対策」に関しては、例えば▼治療体制に地域間偏在が大きい▼ドラッグ・ラグ(先進諸外国で承認されている小児がん治療薬が、我が国で承認されていない)▼長期フォロー—といった点で大きな課題があることが、大賀正一委員(九州大学大学院医学研究院成長発達医学分野教授、日本小児・血液がん学会理事長)から報告されました。
小児がん治療薬について米国では、成人で開発する薬の小児での開発を義務化するRACE法(Research to Accelerate Cure and Equity for Children Act)が制定・施行されています。希少がんである小児がんでは患者数が限られていることから、「治療薬の開発が難しい」「メーカーサイドが開発に消極的である」(採算が合わない)という問題があります。米国のような「制度的対応」を我が国でも検討していく必要があるかもしれません。
この点、中釜斉会長代理(国立がん研究センター理事長)は「小児がんについても、成人希少がん対策で提唱されている『全国ネットワーク』を活用し、諸課題を解決していくことが重要ではないか」と提案。大賀委員も「成人-小児・AYAの双方向の情報連携が極めて重要である」と中釜会長代理の提案に賛意を示しています。
一方、「高齢者のがん対策」に関しては、佐伯俊昭参考人(埼玉医科大学国際医療センター病院長)と石黒洋参考人(同院乳腺腫瘍科副診療部長、教授)から、高齢のがん患者が増加しているにもかかわらず、▼多くのがん診療連携拠点病院において、「CGA(高齢者総合機能評価)を知らない、知っていても活用していない」状況にある▼がん診療連携拠点病院で「老年腫瘍科」の設置はゼロ件である—などの課題があることが報告されました。高齢がん患者では、「他の疾患を併発している」「要介護状態である」などさまざまな背景があり、まさに「多職種チーム」による介入が必要不可欠となります。
こうした課題を解消するために佐伯参考人らは「高齢者がん診療ガイドライン」の作成を進めており、年度内に固められる見込みです。ただし、一口に「高齢者」と言っても状況はさまざまです(前期高齢者と後期高齢者では状況が大きく異なり、要介護度によっても状況が異なる)。また高齢者自身からは「成り行きに任せたい」「治療継続は周囲に気兼ねする」などの声も聴かれます。このため、佐伯参考人らは「今後、高齢がん患者に適したエンドポイントを確立することが極めて重要である」と訴えています。
高齢化が進む我が国では、がんに限らず、他の疾患でも「高齢者の疾患対策」を考えていく必要があります。このため木澤義之委員(筑波大学医学医療系緩和医療学教授、日本緩和医療学会理事長)は▼高齢者の状態に関する情報(入退院時、要介護認定時などに把握)の集約化を進める▼すべての医療従事者がCGAを理解し、身に着けることを求める—といった施策を強力に推進すべきと訴えており、土岐祐一郎会長(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授、日本癌治療学会理事長)も「CGAの重要性を身をもって感じている」とコメントしています。
こうした意見を踏まえて次回会合に「がん医療の充実」に向けた検討の視点(意見取りまとめに向けえた骨格に当たると言える)が厚労省から提示され、それを踏まえてさらに議論を深めていくことになります。
がん検診から「零れ落ちてしまう人」を出さないよう、組織型検診の体制整備が最重要
また、「がん予防」に関しては、「検診の充実」が重要なテーマとなります。この点、下部組織である「がん検診のあり方に関する検討会」の意見を踏まえ、厚労省は例えば次のような検討の視点を提示しています。
▽がん検診受診率の目標値を60%以上に引き上げる
▽職域検診について、受診率の継続的な把握・適切な実施に向けた課題の整理のための検討を進める
▽検診受診率向上に向けて「科学的かつ効率的な受診勧奨策」を推進し、新しい技術の取り扱いに係る検討も進める
▽新型コロナウイルス感染症の拡大時など「がん検診の提供体制を一時的に縮小せざるを得ない場合」でも、状況に応じて速やかに提供体制・受診行動を回復させられる仕組みを研究していく
▽がん検診の精度管理について、レセプトやがん登録情報の活用に係る技術的支援等を進める
▽市町村におけるがん検診(地域検診)の精度管理をより適切に実施する観点から、都道府県による指導・助言等の取組を促す
▽精密検査受診率の目標値は引き続き90%とし、精検受診率の低い市町村の実態把握を進める
▽職域検診の精度管理を推進する観点から、保険者に対する技術的支援等を含めた検討を進める
▽精検受診率を更に向上させる観点から、要精検とされた受診者への「医療機関リスト提供」など、かりやすい情報提供を推進する
▽組織型検診の構築に向けて、課題の整理・対応に係る検討を進める
▽定期的に諸外国における検診体制・取組との比較を行う
▽指針に基づかないがん検診に係る効果検証について検討を進めるとともに、指針に基づかないがん検診の効果検証を希望する研究者や企業と市町村とをマッチングする仕組みを検討する
▽科学的根拠に基づいた検診の効果検証を進めるとともに、対策型検診の項目変更に係るプロセスの明確化等の検討を進める
こうした検討の視点に対し異論は出ていませんが、委員からは「検診から零れ落ちてしまう人」(例えば非正規雇用の女性、シングルマザー、専業主婦、障害者など)への対策を重視すべきとの声が出ています。このような「検診から零れ落ちてしまう人」が少なくない背景には、「我が国では、誰が何時がん検診を受けたかを把握できる『組織型検診』体制が整っていないことが根本にある」旨を松田一夫委員(福井県健康管理協会副理事長、日本消化器がん検診学会監事)は強調します。
我が国では、がん検診の受診率向上に向けた様々な取り組みが行われていますが、「誰が何時検診を受けたかが正確に把握できていない」→「がん検診から零れ落ちてしまう人を把握できない」→「がん発見時には相当進行している」→「がん死亡率が下がらない」という事態に陥ってると松田委員は指摘。「組織型検診に向けた検討」が今後のがん予防において重要ポイントの1つになるでしょう。
もっとも、「組織型検診の体制構築」には一定の時間がかかるため、「今できること」として受診促進策の充実が求められます。この点、中釜会長代理は「どういった促進策が効果を生んでいるのかを分析する必要がある」と指摘している点が重要です。闇雲に対策をうつのではなく、「効果がある」対策に重点的に力をいれていくべきでしょう。この点も、厚労省の「検討の視点」に盛り込まれています。
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