がん医療の地域・病院間格差是正などを進めていくが、「適切な目標・評価指標設定」のための時間はわずか4か月—がん対策推進協議会
2022.9.13.(火)
次期の「第4期がん対策推進基本計画」においては、「がん医療の地域格差、医療機関間格差の是正」や「医療の高度化を踏まえた集約化や連携の強化」などを進めていく必要がある。その際、適切な目標を設定するとともに、その目標の達成度合いを評価する「評価指標」を適切に設定することが極めて重要である—。
9月5日に開催されたがん対策推進協議会で、こういった議論が始まりました。
本年(2022年)中に意見を取りまとめる必要があり、「僅か4か月間」しか審議時間がありません。非常にタイトな日程の中で「今後6年間のがん対策の基礎」を固める必要があり、審議の工夫が求められます。
目次
がん医療の地域格差・医療機関間格差の解消などが重要課題
我が国のがん対策は、おおむね6年間を計画期間とする「がん対策推進基本計画」に沿って進められています。現在の第3期基本計画の中間評価結果を踏まえて(計画終了を待ってから評価を行い、そこから次期計画を立てたのでは間隙が生じてしまうため)、次期基本計画(第4期がん対策推進基本鋭角)を策定していくことになります。
9月5日の会合には厚生労働省から、▼第4期計画の方向性▼全体目標の方向性—案が示されました。
「第4期計画の方向性」の中で、「がん医療の充実」に関しては、▼地域間・医療機関間における格差の是正・解消を目指す▼がん医療の高度化を踏まえ、拠点病院を中心とした集約化、医療機関同士の連携の強化を進める▼評価指標として、第3期計画で採用した「5年生存率」や「患者体験調査」のほか、「拠点病院から収集する現況報告書の体制」項目も盛り込—という考え方が示されました。
第4期計画では、「がん医療等の充実」などはもちろんのこと、「目標の適切な設定、評価指標の適切な設定」が重要ポイントになりそうです。
がん対策は、「計画を策定する」→「計画を実行する」→「施策が計画通りに進んでいるか中間評価を行う」→「評価結果を踏まえて次期計画を策定する」→「次期計画を実行する」→「施策が計画通りに進んでいるか中間評価を行う」→評価結果を踏まえて次々期計画を策定する」・・・という形で進んでいきます。しかし第3期計画の中間評価においては「目標の設定が曖昧であった」部分があり、このために「その目標の達成度合いを評価する評価指標が適切にされなかった」嫌いがあります(例えば「難治がん対策」など)。第3期計画作成論議の舵取りを行った山口建前会長(静岡がんセンター総長)は、こうした点を踏まえて土岐祐一郎新会長(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授、日本癌治療学会理事長)をはじめとする新協議会メンバーに宛てて「基本計画策定時に、項目評価を意識して記載し、それに応じた評価項目を明確にしておくことが望ましい」とのメッセージを発しています。
目標を設定し、達成のためにどのような行動をとるかのブレイクダウンが重要
ところで、「適切な評価指標」設定に関して「ロジックモデルの考え方」を踏まえていく方向が示されています。
ロジックモデルとは、「施策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示したもの」と言えます。循環器対策の中では、この考え方が取り入れられ、例えば「脳卒中患者の減少」というアウトカムを実現するために、「脳血管疾患の危険因子を改善する必要がある」→「そのためには、特定健診の受診を高めていく必要がある」→「まず特定健診受診率を基礎指標の1つに置こう」などという具合に、「目標を達成するための施策」へのブレイクダウンが行われています。
がん対策でも、こうした考え方が今後重視され、例えば「がんによる死亡率を下げる」という目標(アウトカム)を達成するために、「●●が必要」→「そのためには○○が重要」→「まず◆◆に着手しよう」というブレイクダウンが行われてきます。
この点、厚労省は第4期計画の目標(全体目標)について次のような大きな論点を示しています。
【横断的事項】
▽第3期基本計画では分かりやすい全体のコンセプト(例えば「がんの克服を目指す」など)を設定した一方で、全体に係る数値目標(死亡率の●%減少など)を設定しなかったが、第4期基本計画ではどのように考えるか
▽各施策の進捗を評価し改善することでより効果的なアクションにつなげるため、研究成果等から数値目標を掲げられる分野については「積極的に数値 目標を設定」する方向で検討してはどうか
【がん予防】
▽1次予防について、引き続き「健康日本21で設定される目標」などと連携してはどうか
▽がん検診の充実に向けて、実施体制の見直しや実態把握の加速について盛り込んではどうか
▽早期発見・早期治療等に向けた施策の効果を測定するため、「年齢調整死亡率」「年齢調整罹患率」を、評価指標として継続使用してはどうか(他の項目も検討していく)
【がん医療の充実】
▽地域間・医療機関間における差をどのように考えていくか
▽診療提供体制の整備について、がん医療の高度化を踏まえ、拠点病院を中心とした集約化、医療機関同士の連携の強化について盛り込んではどうか
▽第3期で採用した「5年生存率」や「患者体験調査」のほか、「拠点病院より収集する現況報告書の体制」項目も評価指標に盛り込んではどうか
【がんとの共生】
▽相談支援・情報提供についてはデジタル化の流れを考慮し「より効果的な手法」を検討してはどうか
▽地域や社会との連携体制、医療・介護・福祉・産業保健等の各分野の連携強化、世代特有の課題については引き続き盛り込んではどうか
▽質的な評価も重要であることを踏まえ、引き続き「患者体験調査」を評価に用いてはどうか
こうした方向性に委員から異論は出ておらず、今後、上記の方向に沿って、ロジックモデルの考え方も踏まえて「目標と、達成度合いを評価する具体的な指標項目」を検討していくことになります。
審議できる時間は、わずか4か月、「議論の進め方の工夫」などが求められる
ただし、冒頭に述べたように「年内に意見取りまとめを行う」(意見を踏まえて本年度内(2022年度内)に第4期計画を策定し、閣議決定する予定)ことになります。
つまり、上述のような「適切な目標設定」「適切な評価指標設定」などを、わずか4か月の間に行わなければならないのです(第3期計画については、第2期計画の中間評価後、1年半ほどかけて議論を行った)。石岡千加史委員(東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長、日本臨床腫瘍学会理事長)や山口前会長は「十分な議論を行えないままに、第4期基本計画を作成せざるを得なくなる」点を強く危惧し、「運営上の工夫」(メールでの質疑応答など)を十分に行ってほしいと厚労省に要望しています。今後の議論の進め方に注目が集まります。
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