第4期がん計画に向け「診断時からの緩和ケア」「多様で複雑ながん患者の相談への重層的対応」など進めよ―がんとの共生検討会
2022.10.12.(水)
2024年度からの第4期がん対策推進基本計画においては、「診断時からの継続した緩和ケア」「多様で複雑ながん患者の相談ニーズに対応するための、相談員、がんナビゲーター、ピア・サポーターによる重層的な支援」などを推進する必要がある—。
また、がん診療連携拠点病院「以外」の病院でがん診断を受け、がん治療を行う患者も少なくないことから、「拠点病院以外での緩和ケア」体制構築なども進める必要がある—。
10月11日に開催された「がんとの共生のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった提言内容が大筋で固められました。構成員から出された意見・要望などを踏まえて、西田俊朗座長(大阪病院院長、国立がん研究センター理事長特任補佐)と厚生労働省で調整を行い、近く「がん対策推進協議会」に報告されます。
がんの告知を受ける際の患者の衝撃を、相談支援センターなどでなんとか緩和できないか
第4期がん対策基本計画の策定論議がついに本格スタートしています(関連記事はこちらとこちら)。年末(2022年末)の意見取りまとめに向けて、タイトな日程の中で精力的に議論が進められます。
がん対策基本計画策定論議の中心は「がん対策推進協議会」で進められますが、▼がん検診▼がん診療提供体制(医療機関の整備)▼がんとの共生―といった専門的な分野については、下部組織である検討会の意見を踏まえて、最終とりまとめを行っていきます。
10月11日には「がんとの共生のあり方に関する検討会」において、第4期計画に向けた提言内容が概ね固められました。(1)がんと診断された時からの緩和ケアの推進(2)相談支援および情報提供(3)社会連携に基づくがん対策・がん患者支援(4)がん患者等の就労を含めた社会的な問題(サバイバーシップ支援)(5)ライフステージに応じたがん対策―の5つの柱が立てられ、それぞれに具体的な提言を行っています。
まず(1)の緩和ケアに関しては、次のような提言案が厚労省から提示されました。
(a)国は、「拠点病院等において、全てのがん患者に対し入院、外来を問わず身体的・精神心理的苦痛、社会的問題等を把握し、適切な対応を診断時から一貫して経時的に行われる」よう必要な支援体制の整備を行う
(b)国は患者体験調査等を引き続き行い、緩和ケアの実態について把握を行う。また診断時から適切な緩和ケアが提供されるような方策を検討する
(c)国は、「がんに携わる全ての医療従事者が基本的な緩和ケアを実施でき、その知識や技能を維持・向上できる」よう、緩和ケア研修会の学習内容やあり方の見直しを検討する
(d)国や都道府県がん診療連携協議会は、「緩和ケア研修を受講した者が、フォローアップ研修等により知識や技術を維持・向上できる」よう、拠点病院等の整備指針見直しなど、必要な施策を実施する
このうち(a)について木澤義之構成員(筑波大学医学医療系緩和医療学教授、日本緩和医療学会理事長、「がん緩和ケアに係る部会」座長)や鈴木美穂構成員(マギーズ東京共同代表理事)らは「とりわけ診断時(患者にとっては「告知」段階)の衝撃を和らげるような工夫を検討してほしい」旨を訴えました。
がん患者の多くは「がんと診断された日に、どのように病院を出て、どのように家に帰ってきたか覚えていない」ほどの衝撃を受けます。この点、がん診療連携拠点病院の新整備基準(指定要件)には、新たに「患者が、少なくとも1度は相談支援センターを訪れる体制の整備」が義務化されました。例えば主治医から、告知と合わせて「当院には相談支援センターが設けられ、様々な相談に対応しています。話をするだけでも良いので、このあとセンターに寄ってみてください」と働きかけがあり、実際に相談支援センターを訪れることが一般的になれば、患者の心理的な負担はいくらかでも軽減されると期待されます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
ただし、拠点病院等以外でがんの診断を受け、治療を受ける患者のも少なくありません。このため木澤構成員は「拠点病院『以外』の病院等における緩和ケアの質を地域で担保する仕組み」の検討が必要と訴えています。
なお、西田座長は(d)の「研修による知識・技術の維持・向上」について「全く正しい方向である」としたうえで、「拠点病院ではまだよいが、一般病院では困難であろう。実効可能となる仕掛けを工夫する必要がある」と付言しています。がん対策推進基本計画は「作成して終わり」ではなく、「実現する」ことが重要である(絵に描いた餅に終わってはいけない)点を再確認したコメントと言えるでしょう。
がん患者の相談に「相談員」「がんナビゲーター」「ピア・サポーター」が重層的対応を
また、(2)の相談支援・情報提供に関しては次のような提言案が示されました。
(a)国は、多様化・複雑化する相談支援ニーズに対応できるよう、「がん相談支援センターの質の確保」「持続可能な相談支援体制のあり方」等について検討を行い、効率的・効果的な体制を構築する
(b)国は、がん診療連携拠点病院等と民間団体による相談機関やピア・サポーター等の連携体制を構築する。また相談支援の質の確保およびオンラインなどを活用した体制整備の方策について検討を行う
(c)「活動の公益性が高い」と認められる患者団体等について「公式サポーターとして認定する仕組み」などを検討する
(d)国は、「情報の均てん化」に向けて、患者・家族等が必要な時に正しい情報を入手し、適切な医療・生活等に関する選択ができるよう、ニーズや課題を把握し、適切な情報提供を検討する
(e) 国・国立がん研究センターは、関連学会等と協力し「障害等によりコミュニケーションに配慮が必要な者」「日本語を母国語としていない者」の情報や医療へのアクセスを確保するために、実態や課題を把握し、提供体制や普及啓発に努める
(f)国は、患者・家族等が簡便で効果的に医療や社会保障制度等の情報が得られるよう、デジタルコンテンツ等を活用した情報提供等の方法について検討し、普及を図る
相談支援センターの重要性は(1)の緩和ケアで述べたとおりで、すべての拠点病院に設置されています。しかし▼拠点病院「以外」の、相談支援センターが設置されていない病院でがん診断・治療を受ける患者も少なくない▼相談支援センターで、すべての相談ニーズに十分に対応できるわけではない—という課題もあります。この点、藤也寸志参考人(九州がんセンター院長、「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」座長)は「日本癌治療学会が認定する『がんナビゲーター』制度などを活用し、拠点病院と地域医療関係者などが広く連携して、がん患者を支援する仕組み」を日本全国で構築することを提案しています。がんナビゲーターは、例えば医療関係者やe-ラーニング研修を受けて認定され、▼「がん患者」と「相談支援センターの相談員」とをつなぐ▼拠点病院から発信された「正しい情報」を拡散する—などの役割を担います。日本全国で、すでに700名超が認定され、その多くは薬剤師が担っています。
西田座長は「がんナビゲーター」「ピア・サポーター」「相談支援センターの相談員」が連携し、それぞれの役割(三者の役割・機能は一部重複するが、異なっている)の中でがん患者を支援していくことが重要と指摘しています。
また、この相談支援では(b)にあるように、「民間の相談支援団体」も大きな役割を果たします。しかし、質にバラつきが多い(中には「気弱になっているがん患者に怪しげな商品等を斡旋する」ような団体もあるという)ことから、(c)のように「公益性が高い団体を、国などが認定する」仕組みが検討されます。言わば「優良団体を認定する」仕組みであり、民間支援団体の長を務める鈴木構成員はこれを歓迎。今後、「既存団体の評価を十分に行う」(岸田徹構成員:がんノート代表理事)ところから始めることになるでしょう。
なお、情報提供に関しては「インターネットで検索しても、怪しげな広告が多く、本当に必要な情報にたどり着くことが難しい」(鈴木構成員)、「多すぎる情報は、情報がないことと同じである。検索せずとも、適切な情報にたどり着くような仕掛けを検討する時期に来ているのではないか」(西田座長)などの声が出ています。
このほか、(3)の社会連携では▼セカンドオピニオンに関する適切な情報提供を行う▼都道府県がん診療連携協議会は、都道府県全体のセカンドオピニオンを受けられる医療機関や、緩和ケア、在宅医療等へのアクセスに関する情報提供のあり方を検討する▼拠点病院等は、地域の関係機関で顔の見える関係の構築や困難事例等への対応について協議を行い、患者 支援の充実を図る—などの提言案が示されました。
さらに(5)のライフステージに応じたがん対策としては、▼国は、小児・AYA世代の「晩期合併症などの長期フォローアップや移行期支援など」を支援する▼拠点病院等は、高齢がん患者を支援するために、地域の医療機関や在宅療養支援診療所等の医療・介護を担う機関、関係団体、自治体等と連携し、患者、家族等の療養生活を支えるための体制を整備する—などの方向を示しました。
後者の「高齢者のがん医療」に関しては、藤参考人らが「高齢者の状態は非常に多岐にわたっている。まず拠点病院等において高齢者総合機能評価(CGA)の活用を進めるべき」と提案。前者のAYA世代がん患者については「40歳未満のがん患者では、41歳以上であれば利用できる介護保険サービスを利用できない。40歳未満のがん患者でも同様な介護サービスを利用できるような工夫をしてほしい」と木澤構成員・岸構成員が要望しています。介護保険制度は40歳以上が保険料を負担しているため、40歳未満の人は「介護保険サービスを利用する」ことはできません。ただし、必要な予算を確保し、自治体等に「同様の介護サービス」を別の制度の中で提供するよう求めることなどは考えられそうです。今後のがん対策推進協議会論議に注目が集まります。
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