救命救急センターの充実段階評価、「救急外来への専従看護師配置、専門性の高い看護師配置」等の新項目加えるべきか—救急・災害ワーキング
2024.8.8.(木)
救命救急センターは、毎年、診療体制等に関する「充実段階評価」が行われ、診療報酬や補助金のベースにもなっている。この「充実段階評価」について、例えば「救急外来への専従看護師配置、専門性の高い看護師配置」などの新項目を導入すべきか—。
8月8日開催された「救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ」(第8次医療計画等に関する検討会の下部組織、以下「救急・災害ワーキング」)で、こうした議論が始まりました。年内(2024年内)に「充実段階評価」の見直し内容を固め、2025年に見直し内容による試行評価を行い、その結果も踏まえて、2026年度から新たな「充実段階評価」が適用される見込みです。
目次
2026年度から「新たな充実段階評価」を適用予定
救急・災害ワーキングでは、医療計画に記載する「救急医療の体制」「災害医療の体制」に関する事項を検討する専門会議体です。医療計画に関しては、今年度(2024年度)から第8次計画が各都道府県でスタートしており、2026年度に中間見直しが行われる見込みです。
中間見直し論議は、主に「第8次医療計画等に関する検討会」で行われる見込みですが、救急・災害ワーキングでは、この中間見直し論議に先立って(1)「救命救急センターの充実段階評価」の見直し(2)「災害薬事コーディネーター」の運用—の2点を議論することになりました。
このうち(1)の「救命救急センターの充実段階評価」の見直しの検討が8月8日の会合で始まりました。
救急医療の最後の砦となる「救命救急センター」に対しては、毎年「充実段階評価」が行われ、この結果は診療報酬(A300【救命救急入院料】の「救急体制充実加算」)や各種の補助金に結びつきます(S評価:【救急体制充実加算1】(1500点)の取得・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額100%交付、A評価:【救急体制充実加算2】(1000点)の取得・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額100%交付、B評価:【救急体制充実加算3】(500点)の取得・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額90%交付、C評価:【救急体制充実加算】の取得不可・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額80%交付など)。
充実段階は、具体的には、(α)救命救急医療を行う体制が整っており、かつ重篤な救急搬送患者受け入れの実績が十分に上がっているか(β)是正すべき点はないか―という2軸で評価が行われます。
(α)の「体制・実績」については、例えば「救急科専門医数」に関して、救命救急センター(高度救命救急センターを含む)では▼5人以上であれば1点▼7人以上であれば2点―を、地域救命救急センターでは▼2人以上であれば1点▼4人以上であれば2点―を獲得。ほかにも、「休日・夜間帯における救急専従医師数」「救急外来のトリアージ機能」「疾患(内因性疾患、外因性疾患、精神科、小児、産科)への診療体制」「年間受入救急車搬送人員」など合計42項目について「点数と獲得基準」が定められ、その積み上げ(合計点数)が、それぞれの救命救急センターの「評価点」となります。
(β)の「是正を要する」項目とは、「救命救急センターとしては不十分な体制・実績である」と評価されてしまう項目です。例えば「救急科専門医数」に関しては、救命救急センター(高度救命救急センターを含む)では「2人以下」の場合に「是正を要する」、地域救命救急センターでは「1人以下」の場合に「是正を要する」と判断されます。ほかにも、「転院・転棟の調整を行う者の配置がない」「疾患(内因性疾患、外因性疾患、精神科、小児、産科)への診療体制が必要な基準を満たさない」など合計20の「是正を要する」項目が定められており、それにいくつ該当するかが、それぞれの救命救急センターについて計算されます。
この「体制・実績の評価点」と「是正を要する項目の該当数」の2つをもとに、各救命救急センターを次表のように「S」「A」「B」「C」の4段階に評価します。
充実段階評価は1999年に導入され、「より適切な評価となる」よう、逐次項目等の見直し等が行われてきています。
しかし、現在の評価結果を見ると、「秀でている」とされるS評価が32.2%、「適切に行われている」とされるA評価が65.8%を占め、評価の低いB評価(一定の水準に達している、1.9%)、診療報酬の救急体制充実加算が取得できないC評価(一定の水準に達していない)は存在しないことから、「評価に偏りがある。さらに適切な評価となるように、評価項目等の見直しを行うべきではないか」との指摘があります。
そこで厚生労働省の研究班では、2022年度に全国の救命救急センターから「評価項目の追加意見」を募集し、「救命救急センターに求められている機能」などの整理も行ったうえで、次の5項目の「評価項目見直し案」を整理。8月8日の会合に、研究責任者である坂本哲也参考人(日本救急医学会代表理事、帝京大学医学部救急医学講座教授)から報告が行われました。今後、この5案を軸に議論を行い、年内(2024年)に見直し内容を固めます。
(1)【新規】救急外来における専従看護師の配置に対する評価
(2)【新規】ピアレビュー実施の評価
(3)【新規】重症外傷に対する診療体制整備に関する評価
(4)【変更】第三者による医療機能の評価
(5)【変更】診療データ登録制度への参加と自己評価
各項目について見直しの方向と、救急・災害ワーキングでの議論を眺めてみましょう。
「救急外来への看護師配置」評価を行うべきか?
まず(1)では、新たに「救急外来における専従看護師の配置に対する評価」を行う、具体的には▼「救急外来に常に専従の看護師を配置している」場合に1点▼「前記+救急医療に関する専門性が高い看護師を配置している」場合に2点—を獲得できる案が提示されました。
救急外来においては、患者の命を救うために「一刻を争う」状況があり、「専従の看護師の配置」や「専門性の高い看護師(救急看護認定看護師、集中ケア認定看護師、クリティカルケア認定看護師、急性・重症患者看護専門看護師など)の配置」を行う施設では、「診療の質が高まる」「医師の負担軽減が図られる」などの効果につながっていると考えられ、経済的な評価(診療報酬や補助金)に結びつく「充実段階評価」で高い評価を行ってはどうかという提案内容ですが、賛否両論が出ています。
まず、反対意見・慎重意見としては、「専門性の高い看護師は限られている。救命救急センターが304施設もあり(人口10万人当たり1施設と考えれば、3倍近い施設数)、集約化が求められている。これらの状況を放置して『救急外来での看護師配置』評価を行えば、2次救急での看護師確保がさらに困難を極める(看護師の奪い合いがさらに激化する)。時期尚早である」(加納繁照構成員:日本医療法人協会会長)、「救急医療全体を見て人的資源配分を考える必要がある。2次救急病院では看護し不足で病棟を稼働させられない施設も少なくない。救命救急センターだけを見て看護師配置を強化すれば、2次救急にしわ寄せがきてしまう」(猪口正孝構成員:全日本病院協会常任理事、横堀將司構成員:日本救急医学会理事)などが目立ちます。
一方、賛成意見としては「専門性の高い看護師は全国で延べ3000人程度養成されている。すでに救急外来に看護師を専従配置している救命救急センターも少なくない。救命救急センターの質向上に向け、救急外来への看護師配置を充実段階評価の中で見ていくことを積極的に検討すべき」(井本寛子構成員:日本看護協会常任理事)、「看護師が安定確保できるまで経済的な評価を行わない、となければ、救急外来への看護師配置はいつまでたっても進まない。評価を先行させることも検討すべきであろう。薬剤師配置や臨床工学技士配置は充実段階評価の項目になっており、『なぜ看護師配置は評価しないのか?』という疑問もわきかねない」(大友康裕座長:日本救急医学会代表理事、日本災害医学会理事)、「救命救急センターであっても、必ずしも「救急に力を入れている」施設ばかりではなく、救急外来への院内資源配分が後手になっているところもあろう。そうした施設において『充実段階評価の項目となったので、看護師配置を救急外来に優先考慮してほしい』と働きかける要素にもなりうるのではないか」(織田順構成員:日本救急医学会理事)などが注目されます。
慎重意見・賛成意見のいずれについても頷ける部分が多く、今後、さらに議論を深めていく必要があるでしょう。その際、「専従要件をどう考えるか」(1人の看護師が業務の8割以上を救急外来で行うことを求めるべきか、別の「専従」の考え方を導入すべきか)、「専門性の高い看護師の範囲をどう考えるか」(養成数、今後の養成見込みなども含めて)なども併せて議論していく必要があるでしょう。
なお、加納構成員の指摘する「3次救急の集約化」は非常に重要な論点ですが、救急医療体制全体に議論が広がってしまう可能性が高いことから、「充実段階評価、医療計画の中間見直しでどこまで議論するのか?第9次医療計画論議の中で議論していくのか?」などをまず整理する必要がありそうです。なお、この点について大友座長は「各都道府県において救急医療提供体制整備を行う際、2次救急よりも3次救急(救命救急センターを含む)のほうが補助や診療報酬での評価が高くなるため、過剰に3次救急をしている点もあると聞く。2次救急の評価充実も今後検討していく必要があろう」とコメントしています。
「外部者によるピアレビューを受けていること」を評価すべきか
また(2)の「ピアレビュー実施の評価」とは、充実段階評価結果に客観性を持たせるものです(現在は自前評価にとどまっている)。具体的には、「自施設の充実段階評価の妥当性について第三者によるピアレビューを受けている」場合に2点を獲得できることとするもので、ピアレビューは「▼自施設以外の救命救急センター職員▼当該施設が所在する地域の消防機関の職員▼各都道府県の職員—が一堂に会する場で行う」考えが研究班の坂本参考人から示されています。
この方向に異論・反論は出ておらず、今後、詳細な評価内容を詰めていくことになりますが、「ある評価者では厳しい評価となり、別の評価者では甘い評価となる、ようなことがあってはいけない。評価の標準化を考えていく必要がある」、「まず試行を行い、その結果を見ながら具体的なピアレビュー評価項目を詰めてはどうか」などの注文・提案がついています。
研究班の坂本参考人は「レビュアー(評価者)が他施設で見たことを、自院に持ち帰り、自院の改善につながることも重要である」と述べ、こうした効果にもつながるような「ピアレビュー評価項目」が、今後詰められていくと期待されます。
救命救急センターの本来業務である「重症外傷への診療体制」を評価すべきか
一方、(3)の「重症外傷に対する診療体制整備に関する評価」は、救命救急センターの本来業務である「重篤な患者の救命」という点を正面から評価するものと言えます。具体的には、▼「大量輸血プロトコル(Massive Transfusion Protocol)を整備している」場合に1点▼「前期+施設内に外傷外科医等養成研修等の受講者がいる」場合に2点—を獲得できることとしてはどうかとの提案が行われました。
この方向にも異論・反論は出ていませんが、「大量輸血プロトコル(Massive Transfusion Protocol)整備は、重症外傷への診療体制の1要素に過ぎない。他の要素も勘案し「重症外傷への診療体制」をより適切に見られる指標を検討してはどうか(例えば、日本外傷学会の機能評価など)」、「外傷外科医等養成研修は、受け入れ体制が必ずしも十分ではない。他の研修なども検討すべきではないか」などの注文・提案が溝端康光構成員(日本臨床救急医学会代表理事)や大友座長らから出されています。具体的な評価内容については、「総合的な評価」という側面とともに、「客観的な評価」という側面も重視した検討が進められます。
他方(4)の「第三者による医療機能の評価」については、現在「日本医療機能評価機構・ISOによる医療機能評価において認定を受けている」場合に2点の評価がなされていますが、ここに「「JCI(Joint Commission International)による認定」も含めてはどうかという提案が行われました。
また(5)の「診療データ登録制度への参加と自己評価」については、現在「救命救急医療に関わる疾病別の診療データの登録制度へ参加し、自己評価を行っている」場合に2点の評価がなされているところ、▼「救命救急センターで診療を行ったAIS3以上の外傷症例をすべて日本外傷データバンクに登録する」場合に1点▼「前期+救命救急センターで診察を行った自傷・自殺未遂者をすべて自傷・自殺未遂レジストリに登録する」場合に2点—という精緻化を行うものです。
これら(4)(5)についても異論・反論は出ておらず、今後、具体的な内容が詰められていきます。
上記5項目が見直しの中心になりますが、ほかに「内因性疾患への診療体制、外因性疾患への診療体制では、医師のオンコール体制1点・医師の院内常時勤務2点と評価されるが、医師働き改革の中で「評価点数が下がる」ことが予想される。見直しが必要ではないか」(溝端構成員)との声も出ています。併せて検討される可能性が高いと考えられます。
さらに、前述した「3次救急の集約化」と同様に、救急医療体制をめぐる大きな論点として▼救命救急センターでは、本来求められる「重篤患者への対応」のほかに、「2次救急へ搬送困難であった軽症・中等症患者への対応」も行っている。後者についてどう考えるべきかを改めて議論・検討する必要がある▼充実段階評価は「ストラクチャー評価」がほとんどである。プロセス評価・アウトカム評価を積極的に取り入れていくべき—との提案が猪口構成員から出されています。将来に向けた非常に重要な提案と言えます。
救急・災害ワーキングでは、年内(2024年内)に「充実段階評価」見直し案を固めます。その後、見直し内容をもとに2025年度に「試行評価」を実施。その試行結果も踏まえて、調整(S・A・B・Cの基準点数設定、各項目への点数配分など)を行い、2026年度から「新たな充実段階評価」によって救命救急センターの評価が行われる見込みです。
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