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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

医療者自らが、率先して「国民のニーズに沿った、より質の高い医療提供」を目指す改革を―日病・相澤会長

2022.6.20.(月)

財政が厳しくなる中では、財源調達者(=財務省)が医療提供に大きな権限を持ってくることは欧州の先進国の経緯から明らかである。このため医療者自らが「国民・患者のニーズに合わせて、より質の高い医療提供を行う」形に改革を進めなければ、これまでに築いてきた「一定の自由度の中で、切磋琢磨する医療」という我が国の良さが失われてしまう。そうした点で医療者の責任がますます重くなることをきちんと認識しなければならない―。

新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症対応について、事前に「都道府県と医療機関とが医療提供内容に関する協定を結ぶ」方針が政府から示されている。突然「あれをしてくれ、ベッドを何十床準備してくれ」と要請されても対応することは困難であり、前もって十分に話し合い、準備を行える仕組みは好ましい。なお、正当な理由なく協定違反をすることは許されず、「どうサポート等すれば協定を守れるか」が非常に重要になってこよう―。

日本病院会の相澤孝夫会長は6月20日の定例記者会見で、こういった考えを強調しました。

6月20日の定例記者会見(オンライン記者会見)に臨んだ、日本病院会の相澤孝夫会長

「財源調達者による医療への介入」で医療の良さが失われる前に、医療者自ら改革を

日本病院会では、役員会(幹部会議)において参与である慶応大学商学部の権丈善一教授を交えた勉強会・討論会を行っています。病院経営にとどまらず、医療全体・さらには国全体を俯瞰する視点を持って「我が国の医療はどうあるべきか、その中で病院はどういった役割を果たしていくべきか」を病院会全体で検討しているのです。意識の高さが伺われます。

6月18日の日病常任理事会(幹部会議)では権丈参与から、次のような「社会保障(とりわけ、医療・介護分野)と経済」に関する意見発表が行われました。

▽我が国の財政は厳しさを増しているが、財政が厳しくなる中では「財源調達者(=財務省)が医療提供に大きな権限を持ってくる」ことは欧州の先進国の経緯から明らかである

現在でも、診療報酬や医療計画など「医療を取り巻く制度」が多数存在します。これは限られた医療資源(医療人材、医療機器・設備、医療費など)を効果的・効率的に配分するために必要なものとして受け入れられています。

しかし、財政が厳しくなる中では医療費の4分の1を負担する財務省が、こうした仕組みに、これまで以上に厳しく言及・介入してくると考えられるのです。実際に財政制度等審議会の建議や、骨太方針などで「診療報酬や医療計画など、制度の細部への言及」もすでになされてきており、さらに拍車がかかることが予想されます。また、医療法人の経営に関して公的な介入がなされること、あわせて「医療者全員を公的な身分」にすることで医療制度のコントロールを強化することなども、可能性としてゼロではないでしょう(関連記事はこちら)。

こうした動きに対し、日病幹部の間では「我が国では、医療提供について一定の自由度があり、その中で医療機関・医療者自身が切磋琢磨してサービスの質を向上してきたが、これが失われてしまいかねない」との見解で一致。あわせて、こうした動きを食い止めるためには「医療者自らが率先して改革を進めなければならない。国民・患者の医療ニーズに的確に応えられるように、医療の質をさらに向上させていく取り組みをしなければならない」との考えで合意しています。

相澤会長は、「これまで、ともすると医療ニーズと医療提供体制との間にミスマッチがあった」と指摘(編集部では、例えば、競うように「医療ニーズに関係なく、超高額な放射線治療機器を多くの病院で整備する」などの動きがが思いつきます)。今後、政府(首相官邸)と医療界だけでなく国民も巻き込み、医療提供体制や診療報酬にとどまらず「国民の健康保険料、消費税を含めた負担」をも勘案して、「我が国の医療をどうしていくのか」という議論を真剣に行わなければならないと強調しています。



医療提供体制改革における重要論点の1つとして「かかりつけ医機能の明確化と、機能を発揮するための方策」があります。地域の医療提供体制を考えるうえでは、「かかりつけ医」と「大病院」との連携強化が非常に重要になります(▼まず、かかりつけ医を受診し、そこから大病院への紹介する▼大病院で治療を終えた後に、かかりつけ医への逆紹介を行う—という流れの強化)。

日病幹部もこうした流れを強化することは当然であるとしていますが、「ある医療機関が、自院は、かかりつけ医としての機能を果たしているのか」を判断するための基準がない点を危惧。今後、「かかりつけ医」「かかりつけ医機能」「かかりつけの医師」という曖昧な表現とともに、「かかりつけ医機能とは何か」について、しっかりとした議論を行い「一定の基準」を明確にする必要があると考えています。

例えば、「いわゆるプライマリケア医として、患者の心身を総合的に診る」「患者の健康状態を把握し、1次的な診察・診断を行い、必要に応じて治療も行う」「さらに必要に応じて訪問診療や往診なども行う」などのイメージは、多くの国民の間に固まっているとも思えますが、こうした点を軸に「かかりつけ医機能の明確化」論議を日病でも積極的に行っていく方針を固めています(関連記事はこちら)。

感染症対応、「事前に都道府県と協議し、準備を進めておく」方向は好ましい

ところで、6月7日に閣議決定された「骨太方針2022」(経済財政運営と改革の基本方針2022)では「新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制の強化」方針を明確化しており(関連記事はこちら)、さらに6月17日に新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」では「都道府県と医療機関とが、コロナ感染症をはじめとする新興感染症に対する医療提供内容について協定を締結し、その協定に沿った医療提供を行う」などの方針が打ち出されています(関連記事はこちら)。

この点について、相澤会長は「ある日突然、●●医療を行ってほしい、コロナ患者用のベッドを何十床用意してほしい。コロナ対応に協力する医療人材を何十人派遣してほしい、などと要請・命令されても対応できない。前もって十分に協議を行い、その内容に沿って準備を進め、有事発生の際に対応できるようにすることが好ましい」とし、「事前に協定を締結する」方針を評価しました。

併せて▼情報共有等を円滑に行うための基盤整備▼医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)の徹底的な推進(国が覚悟を持って主導すべき)—などが重要になると付言しています。

なお、コロナ対策本部の決定では「医療機関が協定に従わない場合の罰則・ペナルティ」を検討することも明示。例えば「協定違反医療機関の公表」や「協定に違反した特定機能病院などの指定取り消し」などが例示されています。

この点、相澤解消は「協定なり、約束事はきちんと果たしていくことが当然であり、正当な理由なく協定を守らないことは好ましくない」「協定をきちんと守れるようなサポート・支援策を考えていくことが重要であろう。最後に困るのは国民である」との考えを示しています(関連記事はこちら)。



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