現在の診療報酬、医療の質向上のために手厚く人員配置をしても利益が出ない「低い点数」となっている—日病協・小山議長、山本副議長
2022.10.28.(金)
医療経済実態調査のデータ分析によれば「一般病院・公立において利益と人件費の間に負の相関」がある。これは、病院が医療の質向上のために手厚い人員配置をしても、利益が出ない、つまり診療報酬が低すぎることを意味している—。
病院薬剤師の確保に向けて、「病院で一定期間勤務した薬剤師について、奨学金返済を免除する」仕組みの拡大を、日本病院薬剤師会と共同で検討する—。
10月28日に開かれた日本病院団体協議会の代表者会議でこういった議論が行われたことが、会議終了後の記者会見で小山信彌議長(日本私立医科大学協会会業務執行理事)と山本修一副議長(地域医療機能推進機構理事長)から明らかにされました。
現在の診療報酬、医療の質を上げるために人員を確保しても、利益につながってない
10月5日に開催された中央社会保険医療協議会・総会に「医療経済実態調査を用いた医師の給与、看護職員の給与等の見える化」に関する資料が提示されました。政府の公的価格評価検討委員会が、厚生労働省に対し(1)医療機関等における「人件費以外の費用」や「積立金」について、サービス類型別・開設主体別・規模別に分析を行う(2)医療機関等において「人件費」について、サービス類型別・開設主体別・規模別に「どの職種にどのように配分されているのか」を分析する(3)収入・支出と資産との関係をサービス類型別・開設主体別・規模別に分析する」状況を明らかにする—よう指示したものです(関連記事はこちら)。
詳細は関連記事に譲りますが、その中で厚労省は次のような分析結果を示しています(厚労省サイトはこちら(p.34-p.38))。
▽利益と人件費の関係は、一般病院・公立において負の相関が見られたが、他の類型には相関が見られなかったため、必ずしも関係があるとは言い難い
中医協では大きな議論にはなりませんでしたが、10月28日の日病協・代表者会議では、この点について「公立病院(一般病院)では、スタッフを多く配置し医療の質を上げても、利益につながっていない」ということを示唆しているとの議論が行われました。
我が国の診療報酬は、▼質の高い医療を点数で評価する → ▼質の高い医療を実現するには、相応の医療スタッフ配置が必要である → ▼施設基準等で、点数算定のための手厚い人員配置基準を規定する—という構造が基本になっています。別の視点に立てば、▼質の高い医療を行うには、相応の人員配置が必要となり、施設基準に規定する → ▼人員配置を手厚くするにはコストがかかる → ▼コスト回収のために高い点数を設定する—という構造です。例えば入院基本料がその代表と言え、看護職員を手厚く配置する病棟では高い点数が設定されています。
しかし日病協では、今般のデータからは「医療スタッフ等を手厚く配置し、医療の質を上げても、利益が得られてない。つまり、十分な診療報酬が得られていない」ことが伺えるとの議論が行われたのです。端的に「人件費に見合うような点数設定がなされていない。点数が低すぎることが証明された」と病院団体は結論付けていると言えるでしょう。
小山議長・山本議長をはじめ、各病院団体の代表者は「これを看過することはできない。中医協の場で、病院代表委員(島弘志委員:日本病院会副会長、池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長)から問題提起してもらう」考えを示しています。今後の中医協論議に注目が集まりそうです。
病院での一定期間勤務を条件に「薬剤師の奨学金返済を免除」する仕組み拡大を検討
また同日には「病院薬剤師の確保」も議題となりました。
従前より「病院に薬剤師が来てくれず、調剤薬局に流れてしまう」ことが問題視されています。日本病院会の調査では、例えば▼多くの病院が「薬剤師不足、薬剤師確保の難渋」を感じ、とりわけ「薬剤師業務を評価する診療報酬」(病棟薬剤業務実施加算や外来腫瘍化学療法診療料など)を取得する病院ほど「薬剤師不足」を強く感じている▼事態の改善に向け多くの病院では薬剤師の確保のため「学会や研修会への参加を経済的に支援する」「専門資格取得を経済的にも、その他の面でも支援する」などの取り組みを行っているが、それでもなお薬剤師不足に難渋している—ことなどが明らかになっています(関連記事はこちら)。
また、2024年度からスタートする第8次医療計画でも「病院薬剤師の確保」が重視され、▼医療計画の中に「薬剤師確保」に関する記載を求める(現在は「資質向上」に関する記載のみ)▼各都道府県において「地域における薬剤師確保・配置状況」を把握したうえで、「薬剤師確保」策を推進していく(現在は、4割近くの都道府県が地域の薬剤師充足状況を把握していない)▼地域医療確保総合確保基金を活用し「地域医療機関で一定期間勤務することを条件に奨学金返済を免除する」などの薬学生支援が可能である旨をPRする—といった方向性が示されています(関連記事はこちら)。
日病協代表者会議でも、この問題が重視され、例えば▼薬剤師について「一定期間の卒後病院研修・実習」を義務化する▼診療報酬での対応を求める—などの考えが浮上しています。
しかし、前者については「病院薬剤師のやりがいを肌で感じてもらう非常に重要な仕組み」として期待されていますが、「実現までには時間がかかる」という問題があります。現在の薬学生に対し「卒後、●年間の病院研修・実習が義務化されました」と伝えることは不意打ちになり好ましくありません。このため、義務化は「病院研修・実習が制度化された後に薬学部に入学する学生」からとなるでしょう。仮に来年度(2023年度)に制度化が実現した場合でも、「翌2024年度から入学する薬学生」からが病院研修・実習の対象となり、病院研修・実習が実際にスタートするのは、その6年後の「2030年度から」となってしまいます(6年間の薬学部教育を受けなければ、薬剤師国家試験を受験できない)。「今、薬剤師に入職してほしい」考える病院にとっては「少し時間がかかりすぎる」ものとなります(もちろん、制度化論議をしていく必要性はいささかも失われない)。
また後者では、点数設定如何で「●●病棟、◆◆病院では加算がつき薬剤師配置が一歩進む」ものの、別の病棟・病院類型ではそうした対応がなされず「病院同士で薬剤師の奪い合い」が生じる可能性もあります。かといって、すべての病院・病棟におしなべて加算を設けた場合には、点数が低くなり、薬剤師確保にまで見合わない事態も生じえます。
そこで、日病協では即効性・実効性のある案として「薬剤師が病院に一定期間勤務した場合には、奨学金返済を免除する」仕組みに着目。現在、地域医療介護総合確保基金にこうしたメニューがありますが、より広範に活用できるような仕組みづくりを国に要望していく考えを固めました。さらに、「病院内で働きやすい環境」整備も目指していきます。このため「病院薬剤師確保に向けた要望内容を固めるワーキンググループ」を日病協内に設置。日本病院薬剤師会にもメンバーに入ってもらい、具体的な制度設計案を練っていきます(関連記事はこちら)。
このほか10月28日の日病協・代表者会議では、次のような点を確認しています。こちらも今後の動きに要注目です。
▽「医師確保計画」見直し案が固まりつつあるが(関連記事はこちら)、そもそも「2次医療圏単位」で考えることに無理があるのではないか。2次医療圏の設定は地域によって千差万別であり(人口300万人の大規模医療圏もあれば、人口10万人に満たない小規模医療圏もある)、これを同一軸に並べて議論することには無理がある。また、県庁所在地や医学部設置地域で医師が多くなるのは「当然」のことであり、そこをおしなべて「2次医療圏単位」として考えることは困難ではないか
▽来年(2023年)1月から電子処方箋が全国スタートするが(関連記事はこちら)、病院内のシステム整備も含めて「準備」が全くできていない。国立大学病院長会議を中心に「電子処方箋の円滑な実施に向けた要望書」をまとめ、厚労省に提出する
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