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医療のグランドデザイン2030、我が国の医療のあるべき姿とは―日本医師会

2019.4.1.(月)

 日本医師会総合政策研究機構が3月28日に、「日本の医療のグランドデザイン2030(概要版)」(以下、グランドデザイン2030)を公表しました。

 2000年に「日本の医療のグランドデザイン2015」を公表してから、およそ20年が経過し、高齢化の進展、少子化の進行など、人口構造が大きく変化していることなどを踏まえ、「医療者は何を求め、どう患者に接するべきなのか」「医療機関をいかに運営し、社会に位置づけるべきか」「医療者は、新たな知見や技術をどう評価し活かしていくのか」というテーマについて改めて方向性を探っています(日医のサイトはこちら)。

医療を受けない(傷病にならない)ことが国民にとって「最善」である

 日医総研では、医療のミッションについて、▼人類(ヒト)の生命と尊厳を守る▼人類を苦痛から解放する▼人類の暮らす基盤を支える▼人類の明日に備える―の4点にあると設定。その上で、(1)現在の日本のあるべき医療の姿(2)現状の認識(3)社会への提言、行動計画―の3部構成からなるグランドデザイン2030を策定しました。このうち第3部「社会への提言、行動計画」については、今後、順次発表される見込みです。

 まず(1)「あるべき医療の姿」については、「医療を受けない」、つまり傷病にならないことが最善である点を確認し、「医療には。より先制的なあり方が求められている」と指摘。予防施策に医療が積極的に関わることで健康寿命の延伸が期待できます。

 また高齢化の進展による諸問題がクローズされているものの、▼75歳以上を高齢者とする▼65-74歳のいわゆる前期高齢者を「社会を支える側の役割を担う年齢層」と位置づける―ことで様相は一変すると強調しています。この点について日本老年学会も同様の提言を行うとともに、経済産業省商務情報政策局商務・サービスグループの江崎禎英商務・サービス政策統括調整官も日本病院会の特別講演で同様の考えを示しています(関連記事はこちらこちら)。

さらに、人生100年時代を迎える中では、医療が「尊厳を守り、活動できる時間をできる限り長くしていく」ことを目指すことが必要であり、▼高齢者に本当に必要な医療、不必要な医療の整理▼医薬品の適正利用▼フレイル対策―を推進するとともに、国民全体への「医療に関する教育」(学童期からの健康に関する教育)を充実していくことが重要と強調しています。

 
 また医療は社会の重要な基盤ともなります。しかし現時点、少子高齢化が進展する中で医療提供体制・医療保険制度の基盤が脆くなっているのも事実です(上述したような高齢者の概念変更になどにはどうしても時間がかかる)。このため、▼セーフティーネットの強化(病診、診・診連携、多職種連携と共同化の推進)▼まちづくりと地域間連携▼タスクシフティング・タスクシェアリング▼生産性の向上▼医療保険のかたち▼在宅医療のあるべき形と多職種連携―などを総合的に検討することが必要と訴えます。

 特に、医療提供体制に関しては、現在「医師の働き方改革」「医師偏在対策」「地域医療構想の実現」を同時に進めていくことが求められるなど、大きな変革の時期に来ています。この点に関し、あるべき姿(研鑽の特殊性、生産性向上)を詳しく検討するとともに、「国民、患者の理解」をどう求めていくかを考えています(関連記事はこちらこちらこちら)。

 医師の働き方改革に関しては、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が報告書をとりまとめ、時間外労働の上限(原則960時間以下、地域医療の確保のための特例・高度技能獲得等のための特例1860時間以下)を新たに定めるとともに、労務管理の徹底や労働時間の短縮などを強力に推し進めていく考えが示されました。しかし、国民・患者が「待ち時間の少ない夜間に医療機関を受診しよう」「仕事が忙しいので、夜間に主治医からの説明を求めよう」という行動を続けていれば、働き方改革は実現できません。この点について、さらに詳しく検討していく必要があるでしょう。

 
 また忘れてはならないのは「財源」論です。医療には莫大な費用がかかりますが、国民皆保険制度が敷かれている我が国は、この点について国民全体の認識は必ずしも十分とは言えないでしょう。この点については、日医総研の客員研究員でもある慶應義塾大学商学部の権丈善一教授が、医療と介護で今後必要となる財源(2018年5月の政府試算では、2040年には医療・介護費にGDPの11.7-11.9%を充てる必要があるとされている)を「どのように調達すべきか」「その際に留意すべきことは何か」を論じています。

 
ところで、科学技術の進歩は目覚ましく、それを速やかに医療・医学分野に取り組むことも重要です。例えば、遺伝子解析の技術が進み、そのデータを集積し、解析することで「個々人に最適な医療」(例えば抗がん剤選択など)を見出すことが可能になってきました。

これは医療水準の向上という面で極めて喜ばしいのですが、一方、その蓄積されたデータの活用方法を一歩誤れば、大きな社会問題(例えば就業や婚姻等の際での差別を生む可能性もある)を引き起こしかねません。このため、▼健全な情報システムの整備▼オンライン診療(医師がオンラインシステムを活用して患者の診療等を行うケースについて)▼健全な医療情報産業育成へのプラットフォームづくり▼科学・医療技術の進歩と医療倫理―などを今の段階から十分に検討していくことが求められます。

 
また、(2)の「現状認識」では、データをもとに、▼医療保険財政▼医療の需要と供給▼医業経営(収入とコスト)▼病床機能の分化・連携(地域医療構想)▼医療費の地域差―などを詳しく把握するとともに、「公立・公的等医療機関の改革プランを地域医療構想の中でどう位置付けるか」「都道府県別の診療報酬をどう考えるか」といった昨今の重要テーマを論じています。

 
 今後、(3)の「提言」が逐次公表されていきますが、どういった内容となるのか注目が集まります。

 
 
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