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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

生活習慣病の予防・重症化防止、診療報酬と異なる仕組みでサービス提供を―経産省・江崎政策統括調整官

2019.3.27.(水)

 高齢化が進む中では疾病構造が大きく変化し、「生活習慣病」対策が重要となってくる。そこでは、「予防」「重症化」対策がとりわけ重要となるが、公的医療保険制度では効果的な予防サービスの提供が難しい。生活習慣病の予備軍や軽症者が自ら主体的に「予防」「重症化防止」に向けて行動できるように、公的保険外のサービスを活用することを目指す必要がある―。

 経済産業省商務情報政策局商務・サービスグループの江崎禎英商務・サービス政策統括調整官が、3月23日の日本病院会社員総会でこういった内容の特別講演を行いました。

3月23日の日本病院会社員総会で特別講演を行った、経済産業省の商務情報政策局商務・サービスグループの江崎禎英商務・サービス政策統括調整官

3月23日の日本病院会社員総会で特別講演を行った、経済産業省の商務情報政策局商務・サービスグループの江崎禎英商務・サービス政策統括調整官

 

生活習慣病の予防・重症化防止に向けて、公的保険外のサービス構築を

 江崎政策統括調整官は、良質な医療を安価な費用で利用できる、我が国の医療保険制度のすばらしさを強調します。例えば、血友病などの遺伝子疾患患者では、1か月当たり(1年ではない)1億円を超える医療費が必要となるケースもありますが、我が国の公的医療保険制度では、定率負担(年齢や所得に応じて1-3割)と高額療養費制度があることから、自己負担は年間100万円程度にとどまります。こうした方へ適切な医療提供を継続するためにも、「我が国の公的医療保険制度を堅持しなければならない」と江崎政策統括調整官は訴えます。

一方で、例えば運動不足や食生活の乱れなどで生活習慣病に罹患した患者でも、公的医療保険制度を利用でき、その数は増加を続けています。

江崎政策統括調整官は、「豪華客船」と言える我が国の公的医療保険制度に、生活習慣病患者が次から次へと乗船し、運航が難しい状況になっていると見通しています。

生活習慣病は、かつての「治る病」(感染症など)と異なり、▼内因性である▼ファクター(疾病の要因)が複数ある▼予防・進行管理が重要だが、そこでは「患者本人の関与・行動」が不可欠である―という特徴があることから、「患者本人の行動変容」を促すようなサービス提供を行う必要があると強調します。

具体的には、▼潜在的な患者(生活習慣病予備軍や軽症者)を早期に発見する▼予防・重症化防止を基本とする健康・医療サービスを提供する―ことを提案。

この点、40-74歳を対象とした「特定健康診査」(特定健診、いわゆるメタボ健診)が2008年の改正健康保険法等で創設され、生活習慣病予備軍を早期に発見する仕組みが設けられていますが、実施状況は低調です(2017年度の実施率は全体で53.1%、市町村国保や船員保険では40%未満)。

また、特定健康診査で「生活習慣改善の必要がある」と判断された被保険者に対しては、「特定保健指導」(被保険者の状態等に応じて、1回のみの動機づけ支援と、継続する積極的支援)が行われますが、実施状況はこちらも極めて低調です(2018年度は対象者への実施率は19.5%)。

こうした特定健診等の取り組みを推進していくことはもちろん重要ですが、江崎政策統括調整官は、医療保険とは別の仕組みで▼潜在的な患者(生活習慣病予備軍や軽症者)の早期発見▼予防を基本とした健康・医療サービス提供―にドライブをかけていくことが必要と訴えます。

前者の「早期発見」については、例えば「特定健診等を受診しない被保険者(本人)へのペナルティ」よりも、「上司へのペナルティ」(上司がしつこく受診を指示する)などが効果的である提案。

また後者への「予防・重症化防止サービス」については、公的医療保険(診療報酬)で効果的な取り組みを行うことは困難とし、民間保険などを活用することを提唱しています。公的医療保険で重症化防止を行おうとすれば(予防は保険給付対象外)、「被保険者本人が定期的に医療機関を受診し、医師の問診を受け、必要な指導や治療を受ける」形となります。しかし、江崎生活統括調整官は、生活習慣病予備軍・軽症者の特徴として、冗談交じりに▼他人の言うことをきかない▼出世する―の2点をあげ、「医療機関への受診は仕事よりも優先度を低く捉え、重症化するまで医療機関にかからない」ケースが多いと見通します。ここでも、前述した「上司へのペナルティ」が効果的となります。

この点、民間保険等で「自ら積極的に参加したくなる」ような魅力的なサービスを創出することが期待されます。江崎政策統括調整官は、一例として「フィットネスクラブの人気コーチのクラスに優先的に参加できる権利」を付与した民間保険などを創設したところ評判になっていることを紹介したほか、▼東京丸の内の就業者を対象とした健康増進事業▼新潟県長岡市で実施されているヘルスケアタウン事業▼介護保険のデイサービス(通所介護)事業所への、一般住民も利用可能なフィットネスブースの設置(要支援・要介護から脱した人も、通い慣れた事業所で介護予防を継続できる)―など、各地・各主体(民間、自治体を問わず)が工夫を凝らしたサービスメニューを展開していることも示しました。

さらに、予防・重症化防止サービスでも、当然、科学的な根拠(エビデンス)が必要となります。経産省では、「糖尿病重症化予防プロジェクト」を展開し、約700人の糖尿病軽症者(ヘモグロビンA1c(HbA1c)6.5以上)を対象に、運動などの「健康づくり」の効果を測定・分析しています。その結果、投薬治療がなくとも、運動などの「健康づくり」を実施した人たちでは、HbA1c値が、実施前には平均6.99でしたが、3か月後には平均6.43となり、0.56ポイントも低下したことが分かりました(HbA1cの値が6.5以上の場合、糖尿病の恐れありとして医療機関受診が勧奨される)。

なお、「血糖をコントロールする医薬品の投与」でも同様の効果が得られますが、運動などの「健康づくり」では、血糖値低下だけでなく、▼体重減▼血中脂質の減少―などの総合的な効果もあり、「要因が複数ある生活習慣病」対策としてより有効ではないかと江崎政策統括調整官は指摘しています。

こうしたエビデンスをもとに、自治体や企業がさらに効果的な予防・重症化防止サービスのメニューを充実していくことが期待されます。

 
 なお、こうした取り組みにより生活習慣病の医療費が適正化できれば、公的医療保険の財源を重症患者等に集中することができ、医療保険制度の維持可能性が高まります。ただし、これは「公的医療保険の規模」が縮小することを意味し、診療報酬を主な収入源とする保険医療機関にとっては「収益源」となる可能性も孕んでいるのです。

 このため医療機関では、収益を確保するために、前述のような予防・重症化防止サービスにも積極的に取り組んでいくことが重要でしょう。医学的知見に裏打ちされた予防・重症化防止サービスは、高品質であるとともに、「重症化した場合にその医療機関で診てもらえる」という安心感をも生みます。認められた附帯業務の中で工夫を凝らし、新たな収益源を探ることも、今後の医療機関経営にとって極めて重要な視点と考えられます。

65歳以降は「余生」ではなく、第2の社会活動期と捉えた社会の構築を

なお、江崎政策統括調整官は高齢化問題について、「お年寄りは弱く、支えられるべきもの」との考えから、「最期まで自立した生活を目指す存在」へと認識を変えることが重要と指摘しています。

例えば、「介護リスクがあるので、何もさせない」「レクリエーションに参加してもらう」「食事、入浴、排せつの介助」という介護サービスから、「新たな活動を行う場所に積極的に出向いてもらう」「地域の世話役やボランティアとして活躍してもらう」「やりたいことをサポートする」「周囲から『ありがとう』と感謝されるような役割を果たしてもらう」という介護サービス・システムへの転換を提唱。

高齢者の基準を、日本老年学会等の提唱する「75歳以上」とすれば、バランスのとれた社会が今後も続き、決して「少子化・高齢化が進み、高齢者を支え切れなくなる」と悲観する必要はないとも江崎政策統括調整官は指摘。「65歳以降」を余生と捉えるのではなく、64歳までの生産年齢期に続く「第2の社会活動期」とし、▼緩やかな経済活動への参加を可能とする機会を設ける▼高齢者を「病人」としない高齢者住宅を整備する▼軽度認知症でも可能な仕事を創出する▼医療介護分野において予防・重症化防止プログラムを整備・充実する―ことが、今後の官民に共通した重要なテーマになると強調しています。

 
 
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