電子カルテ標準化や国民への健康情報提供(PHR)など一体的に議論し、夏までに工程表まとめる―健康・医療・介護情報利活用検討会
2020.3.10.(火)
「パーソナル・ヘルス・レコード」(PHR)や「保健医療情報を全国の医療機関等で確認できる仕組み」、「電子カルテの標準化」「電子処方箋の推進」などについて一体的に検討を進めるために「健康・医療・介護情報利活用検討会」が設置されました。
下部組織(ワーキンググループ)で個別テーマについて4月まで詳細な検討を行い、その後、「健康・医療・介護情報利活用検討会」で議論を深め、今夏(2020年夏)に策定される「工程表」に反映させることになります。
目次
PHRやEHR(医療機関等で情報連携を行うシステム)を一体的に議論
公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されている我が国においては、膨大で質の高い健康・医療・介護データが存在します。これらセキュリティを確保した上で有機的に結合し、分析することで健康・医療・介護施策の飛躍的発展を行う「データヘルス改革」が厚生労働省を中心に進められています。
データヘルス改革については、(1)がんゲノム・AI(人工知能)(2)国民が自分自身のデータを閲覧できる仕組み(PHR)(3)医療・介護現場での情報連携(EHR)(4)データベースの効果的な利活用(NDB・介護DB等の連結解析)―の大きく4分野を中心に検討が進められており、今夏(2020年夏)に「2021年度以降の絵姿と工程表」を策定する予定となっています(骨太方針2019などでもその旨が指示されている)。
この点、例えば(2)のPHRについては「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」で、(3)のEHRについては「医療等分野情報連携基盤検討会」で、といった具合に、それぞれ別個で検討が進んでいますが、今般、新たに「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下、検討会)を設置し、これらを一体的に議論していくことになりました。議論を深める中で、例えば「PHRとEHRでは、一体的に議論すべき事項が少なくない」ことが明らかになってきたことなどを踏まえたものです。
検討会で議論するテーマは、▼健診・検診情報を本人が電子的に確認・利活用できる仕組み(PHR)の在り方▼医療等情報を本人や全国の医療機関等において確認・利活用できる仕組み(EHR)の在り方▼電子処方箋の実現に向けた環境整備―の大きく3点で、今後、ワーキンググループを設置(PHRを検討する「健診等情報利活用WG」と、EHRや電子処方箋について検討する「医療等情報利活用WG」の2つを設置)し、4月中に工程表作成の方向性を固めることになりました。
上述のとおり、これまでに進められてきたPHRやEHRに関する議論を土台に、例えば「運営主体をどう考えるのか」「コストをどう考えるのか(誰が負担するのか)」「セキュリティをどう確保するのか」などを議論していくことになるでしょう。
PHR、まずは「健診情報等を公的インフラ用いて提供する」ことからスタート
例えばPHRについては、「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」において次のような留意事項がまとめられています。
▽PHRの利用目的としては、「個人の日常生活習慣の改善等の健康的な行動の醸成」「効果的・効率的な医療等の提供」「公衆 衛生施策や保健事業の実効性向上、災害等の緊急時の利用」「保健医療分野の研究」が想定されるが、まずは「個人の日常生活習慣の改善等の健康的な行動の醸成」を目指し、健診情報等を活用できるよう整備を進める(他の事項はEHRと一体的に議論)
▽PHRとして提供する健診情報等は、▼精度や解釈について安定性があり、エビデンスが確立され、診療ガイドライン等で整理されているもの▼既に一般的に個人に提供され理解が進んでいる法定の健診等の情報―から進める(画像データ等についてはEHR等と一体的に検討する)
▽PHRとして情報提供をする際には、▼円滑な提供・閲覧等(情報の電子化・標準化、情報閲覧時の一覧性等の確保(過去情報も含めてサマリー化するなど)、既存インフラ(マイナポータル)の活用など)▼適切な管理(長期間のデータ保存(生涯の情報を想定)、適切な本人同意、セキュリティの確保など)―を重要な視点とする
▽国民誰もが自らのPHRにおける情報を活用できるように、基盤となるインフラは、国・自治体・公的機関が整備する
▽民間事業者によるPHRについて、▼情報の相互運用性(囲い込みとならないように)▼個人情報の適切な管理▼活性化―に向けたルール作りが必要である
今後、「健診等情報利活用WG」論議で、こうした留意事項をベースに工程表の方向性を検討していきますが、3月9日の検討会では、すでに「民間のPHRについて、データの互換性が確保されるよう、詳細なルールや規格等を詰めるべきである」といった意見が複数の構成員から出ています。後述する電子カルテでもそうですが、標準規格がないままに、ベンダー(メーカー)がクライアントの要望を踏まえて独自に工夫を重ねていくことで、「互換性」がなくなってしまうことが起きえます。この場合、「A社のシステムからB社のシステムに変更したい」と考えても、過去データ(A社システム時代)を新システム(Bシステム)に移管することが難しく、結果として「クライアントの囲い込み」につながるとともに、データの利活用を阻害するなどの大きな弊害が生じてしまうことから、「早期に最低限の標準規格」の検討が重要になります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
すでに民間のPHRは40社ほどが動いているとの情報もあり、「健診等情報利活用WG」でどういった議論が行われるのか注目を集めます。
電子カルテの標準化、内閣官房検討会の方針を踏まえて「技術的な検討」を進める
また「医療等情報を本人や全国の医療機関等において確認・利活用できる仕組み」(EHR)については、福岡県・佐賀県における仮想データを用いた実証研究事業や「医療等分野情報連携基盤検討会」の議論において、次のような基本的方向性やさらに検討すべき課題などが明らかになってきています。
▽ネットワーク参加者(医療機関等)・患者双方へのメリットのあるサービスとして、「薬剤(処方、調剤)」「検査結果」「これらに関する基本情報(いつ(実施年月日)、どこで(施設情報)、誰が(患者基礎情報等)など)」を重要表示項目(最も重要な共有データ項目)とし、レセプトデータから開始してはどうか
▽初期コスト・運営コスト等を低く抑えることが必要である
▽電子カルテを含む医療情報システムについて「標準化」が必要である
▽患者からの同意取得において「診療現場の負担が軽減される方法」の検討が必要となる
このうち「電子カルテ等」の標準化は、上述のようにEHRをはじめとした連携を進めるにあたって、非常に重要な課題となっており(ここが進まなければ情報連携ができない)、(A)厚労省の「医療情報化支援基金」を活用して、「国の指定する標準規格を用いて相互に連携可能な電子カルテシステム等を導入する医療機関での初期導入経費を補助」する(関連記事はこちら)(B)電子カルテの標準化に向けて、内閣官房(健康・医療戦略室)と厚労省で検討を進める―という2施策が動いています。「(B)で標準規格を定め、(A)の基金交付要件につなげる」というイメージです。
この点(B)に関しては、内閣官房の「標準的医療情報システムに関する検討会」が昨年(2019年)11月に、▼「HL7 FHIR」(データがXMLまたはJASON形式で表現され、アプリケーション連携が非常にしやすい)の普及が一つの方向となる▼標準的なコードの拡大(検査・処方・病名等の必要な標準規格から実装してはどうか)▼セキュリティや個人情報保護に対応する仕組みの構築―といった大きな方向性を取りまとめています。
当初は、この方向性を踏まえて「医療等分野情報連携基盤検討会」において、電子カルテの標準化に向けた技術的検討が行われる予定でしたが、今般の検討会発足を踏まえ、電子カルテ標準化に関しても「健康・医療・介護情報利活用検討会」および「医療等情報利活用WG」で技術的課題等を詰めていくことになりました。
ところで電子カルテの標準化について、一部に「画一的なシステムは好ましくない」との指摘もあるようです。この点について厚労省の笹子宗一郎政策企画官(政策統括室、情報化担当参事官室、サイバーセキュリティ担当参事官室併任)は、「例えば標準コードについて、他医療機関との連携・共有のために必要な『ミニマムな部分』については実装を求めることとし、それ以外についてはベンダーが独自に工夫することを妨げない(決して画一的なシステムを求めるものでなく、内閣官房の検討会でもその旨を明確にしている)」「標準的な電子カルテシステムの導入について、まずは医療情報化支援基金の活用からはじめる(標準システムの導入を強制するものではない)」との考えを示しています。
今後、「健康・医療・介護情報利活用検討会」および「医療等情報利活用WG」において、標準システムの方向が明らかとなり、これを踏まえて医療情報化支援基金の交付要綱等が明確になると考えられ、「基金の活用」が実際に始まるまでにはもう少し時間がかかりそうです。
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