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自治体と研究機関が協働し「地域住民の健康水準アップ」を目指すことが重要—都健康長寿医療センター

2022.7.8.(金)

自治体と研究機関が協働して「地域住民全体の健康水準アップ」を目指す取り組み(ポピュレーション・アプローチ)と、「要介護状態などの者の重度化防止」(ハイリスク・アプローチ)とを組み合わせることが、今後の「介護予防・重度化防止」に向けて極めて重要である—。

東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が7月1日に、研究トピックス「包括的な健康状態評価票の開発と自治体での活用~千代田区プロジェクトの紹介」を公表し、こうした考えを強調しました(研究所のサイトはこちら)。

「高齢者の増加」と「支え手となる現役世代の減少」が同時に進む中では、「介護予防・重度化防止策」を効果的に進める必要があり、多くの自治体で同様の取り組みが進むことに期待が集まります。

地域高齢者の健康状態把握し、「どのような点に気を付けて生活すべきか」などアドバイス

ついに、今年度(2022年度)から、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となるなど、高齢者人口の増加が続きます。これにともない「認知症や要介護状態を抱えた高齢者」や「一人暮らしや高齢者のみの世帯」が増加すると見込まれます。

一方で、支え手となる現役世代人口が減少します(2025年度から2040年度にかけて急速に減少する)。増大する高齢者を、少なくなる現役世代で支えなければならないため、「医療・介護提供体制が逼迫し、脆弱化する」ことが懸念され、「要介護状態になる人を減らす(介護予防)」や「要介護状態の重度化を防止する」方策が極めて重要です。

こうした中では、地域住民の健康状態や要介護リスクを評価した上で、次の2つの側面からアプローチすることが効果的です。
(1)何らかのリスクを抱えている、または支援を必要する者を、速やか・円滑に介護予防活動や医療に繋げ、「現状が悪化しない」ようにする【ハイリスク・アプローチ】
(2)現段階では健康でリスクがない大多数の者に、健康行動や生活習慣の改善を促し、地域全体のリスク低減や健康状態の維持向上を図る【ポピュレーション・アプローチ】

このうち(2)の【ポピュレーション・アプローチ】は「地域全体に、正しい手法で広く働きかけなければならない」ことから、研究機関単独・自治体単独でなく、地域住民の健康づくりを進める「自治体」と、科学的な知見と健康づくりのノウハウをもつ「研究機関」が協力することが不可欠となります。

そこで、都健康長寿医療センター研究所「自立促進と精神保健研究チーム」は、2009年から東京都千代田区との協働した【ポピュレーション・アプローチ】【ハイリスク・アプローチ】を推進しています(郵送調査、アドバイス表・健康情報の送付といったポピュレーション・アプローチ、調査票の未返送者(健康リスク保有者が多いと考えられる)への訪問調査と守り支援といったハイリスク・アプローチ)。

千代田区の「ハイリスク・アプローチ」(橙色の部分)と、「ポピュレーション・アプローチ」(青・灰色の部分)



このうち前者の「ポピュレーション・アプローチ」は2010年度からスタート(「こころとからだの健康調査」としてスタートし、2015年度に「千代田区こころとからだのすこやかチェック」と改称)。千代田区に在住する「要介護認定を受けていない65歳以上の者」を対象に、郵送によって「心身機能の健康状態を包括的に測定」するものです。

具体的には、▼精神的健康▼歩行機能▼生活機能▼認知機能▼ソーシャルサポート▼口腔・栄養—の6領域(30項目)の調査票(包括的健康調査票)を研究所と千代田区とで共同開発。同一の対象者を3年間追跡した縦断データによる検証では、「評価票の合計得点が基準値以下」の者では、▼3年後に要介護認定を受けている▼認知機能が低下している可能性が約2.8倍高い—ことが分かり、「調査票が適切に要介護状態や認知症状態への移行を予測できる」ことが確認されています。

評価結果点数が低い高齢者では、後に要介護状態や認知機能低下になりやすく、評価票の有効性が伺える



2011年以降は、この調査票を用いて「回答者の健康状態」を把握するとともに、回答者個人の状況に応じた「こころとからだのすこやかチェック アドバイス表」を、その年の回答者全員に送付することで、「地域高齢者の健康水準向上」を目指しています(未回答者には、上述のように訪問・見守り支援という【ハイリスク・アプローチ】で対応)。

アドバイス表は、6領域ごとに「★の数で健康度」を示す(★3つ:良好な健康状態、★2つ:標準的、★1つ:少し注意が必要)とともに、個々人が「健康意識の向上」「健康行動の実施」を意識できるよう、「具体的に、どのような点に気を付けたらよいか」も記載されます(調査結果の概要などは千代田区の関連ホームページでも確認できる)。

評価結果をもとに、個々の回答者全員に対して「健康状況はどうか」(★の数で表示)、「どのような点に注意して生活すればよいかなどのアドバイス表を送付している



あわせて「介護予防のためにどのような自治体のサービスが利用できるか」「万が一困った時にはどこに相談すればよいか」についてのパンフレットを同封するなどの、介護予防事業利用に関する情報提供も行われています。



ポピュレーション・アプローチの効果(地域住民全体の健康水準が上がっているかどうか)は短期的には見えにくいものの、研究所「自立促進と精神保健研究チーム」の稲垣宏樹研究員は「引き続き自治体(千代田区)と協働しながら事業を継続し、今後の課題である効果検証を行い、地域住民の健康づくりに貢献したい」と強調。

多くの自治体で、こうした取り組み(ポピュレーション・アプローチ+ハイリスク・アプローチにより介護予防や重度化防止)が進むことに期待が集まります。



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