日本人特有の「レビー小体型認知症の原因遺伝子」を解明、治療法・予防法開発に繋がると期待—長寿医療研究センター
2022.7.8.(金)
現在のところ、効果的な治療法がなく、患者のQOLも低い「レビー小体型認知症」について、発症リスクに関与する遺伝子変異が新たに明らかになった—。
日本人特有の遺伝子変異であり、今後、治療法・予防法の解明につなげていくことが期待される—。
国立長寿医療研究センターは7月7日、こうした研究結果を公表しました(センターのサイトはこちら)。
レビー小体型認知症、現時点では有効な治療法がなく、患者のQOLも低い
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。
認知症患者全体の4.6%が「レビー小体型認知症(DLB)」(アルツハイマー型認知症に次ぐ大きなシェア)ですが、現時点では「有効な治療法がない」「アルツハイマー型認知症に比べて死亡率が高い、QOLが低い」のが実際です。
レビー小体型認知症の原因については、「遺伝的因子が36%程度寄与している」との研究結果がありますが、「どの遺伝子が関与しているのか」が必ずしも十分には明らかにされていません(これまでに「SNCA」(α-シヌクレイン)、「APOE」(アポリポプロテインE)、「GBA」(グルコシルセラミダーゼ)の3遺伝子の実が明らかになっている)。
そこで国立長寿医療研究センターの重水大智部長らの研究グループは、レビー小体型認知症患者61名と、認知機能正常高齢者45名との全ゲノム解析などを実施。その結果「MFSD3 遺伝子のストップゲイン変異(rs143475431、C296X)が、レビー小体型認知症の発症リスクを高める」ことを明らかにしました。MFSD3遺伝子変異が「血漿中のBuChE(ブチリルコリンエステラーゼ、認知症に深く関与すると考えられる物質)の濃度増加」に関与し、レビー小体型認知症の発症リスクを高めている可能性が高いと考えられます。
このほか、研究グループでは▼2つのハブ遺伝子(RASSF1、MRPL43)がレビー小体型認知症の発症リスクを高める遺伝子である可能性があること▼後者の「MRPL43遺伝子」のミスセンス変異(chr10:102746730、p.N81H)が、上述したMFSD3遺伝子変異と同様にレビー小体型認知症の発症リスク遺伝子変異であること—も明らかにしています。
レビー小体型認知症とパーキンソン病との間には、▼後者の「MRPL43遺伝子」はパーキンソン病の発症リスク遺伝子のひとつであり、「PARK7」という遺伝子変異と共発現することが知られている▼「MRPL43変異を有するレビー小体型認知症患者」の多くがパーキンソニズムの症状を示す—という関係があることが分かっています。こうした点からも「「MRPL43変異がレビー小体型認知症の発症に関わる」可能性が示唆されます。
ところで、「MFSD3遺伝子変異」「MRPL43遺伝子変異」ともに、日本人以外では見つかっておらず「民族特異的なレビー小体型認知症の発症リスク遺伝子変異」と考えられます。
こうした「原因遺伝子の解明」から、効果的な治療法・予防の研究・開発につながっていくことに期待が集まります。
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