中等度以上の認知症患者は「退院直後の再入院」リスク高い、入院時・前から再入院予防策を—都健康長寿医療センター
2021.4.23.(金)
中等度以上の認知症患者では、「退院直後の再入院」リスクが高い。退院直後の再入院は心身の負担を高め、認知症はもちろん他疾患の増悪を招いてしまうため、こうした患者では入院時・あるいは入院前から「再入院を予防するための移行期ケアプログラム」提供などが重要となってくる—。
こういった研究結果を、東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が4月22日に公表しました(東京都健康長寿医療センター研究所のサイトはこちら)。
中等症認知症患者では認知症なし患者の1.4倍、重度者では2.2倍、再入院リスクが高い
高齢化の進行に伴い、認知症患者も増加し、さらに増加することが見込まれます。2018年には認知症患者数は500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」という状況です。
政府もこうした状況を重く見て、認知症対策の充実・強化に向け、新オレンジプランを大改革した「認知症施策推進大綱」を2019年6月に取りまとめました。そこでは、「認知症の人との共生」「認知症の予防(発症を遅らせる)」を目指し、(1)普及啓発・本人発信支援(2)予防(3)医療・ケア・介護サービス・介護者への支援(4)認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援(5)研究開発・産業促進・国際展開―という5つの柱を打ち立てています(関連記事はこちら)。
認知症に関しては、「療養環境の変化によって発症する、増悪する」ことが知られています。高齢者では、必然的に傷病に係りやすいことから、「入院→退院」という療養環境の変化が生じやすく、これが心身の両面にとって大きな負担になります。
この点、「退院直後に再入院する」ことは、極めて急激な療養環境の変化であり、その予防が重要です。とりわけ認知症患者では、療養環境の変化に適応できないケースが少なくないことから、認知症ない患者に比べて「退院直後の再入院」が発生しやすいと考えられます(結果として認知症をはじめとする心身状態の悪化が生じやすい)。
そこで今般、東京都健康長寿医療センター研究所の光武誠吾研究員、石崎達郎研究部長らの 研究グループが、「認知症の重症度」と「再入院発生リスク」との関連を検討しました。具体的には、東京都健康長寿医療センターを退院した65歳以上の患者(8897名、平均79.8歳)について、「認知症の重症度」と「退院から90日以内の予防可能な再入院発生」との関係を調べたものです。
調査対象者のうち32.4%(2880名)で「認知症の可能性」があり、その内訳は▼軽度:9.6%(850名)▼中等度:20.4%(1815名)▼重度:2.4%(215名)―でした。
▽軽度:時間の見当識・近時記憶(数日の記憶)・問題解決能力・手段的日常生活動作(IADL、家事や交通機関の利用などの複雑な日常生活動作)に障害を認める状態
▽中等度:時間に加えて場所の見当識障害が現れ、遠隔記憶(発病前に学習した記憶)・判断力・基本的日常生活動作に部分的な障害を認める状態
▽重度:時間・場所に加えて人物の見当識障害が現れ、遠隔記憶障害・判断力・基本的日常生活動作に全般的な障害を認める状態
認知症の重症度別に、「退院から90日以内の予防可能な再入院発生」状況を見ると、▼認知症の可能性がない患者:1.7%▼軽度認知症:2.2%▼中等度認知症:5.5%▼重度認知症:9.3-となり、認知症の程度が重くなるほど「退院直後の再入院リスクが高い」ことが分かりました。
また、性別・年齢などの要因を除いても、▼中等度の認知症患者では「認知症の可能性がない」患者に比べて、退院直後の再入院率が1.4倍▼重度の認知症患者では、同じく2.2倍―高いことも分かりました。
こうした分析結果を踏まえて、健康長寿医療センターでは「中等度以上の認知症の可能性がある患者が入院した場合、入院中から『退院直後の再入院予防策』を検討することが重要である」と指摘しています。例えば、中等度以上の認知症患者が入院した際には、その折(入院時、あるいは入院前から)に、▼退院後の生活を見据えた退院計画の作成▼地域ケアとの連携▼退院後のフォローアップ―などを組み合わせた「移行期ケアプログラム」を作成・提供することが重要と言えます。もちろん、病院サイドでは、これらの前提として「入退院部門」の設置などに取り組むことも重要です(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
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