認知症施策、「理解し、見守り、支援する」段階から「共に生きる・共に創る」段階への進化が必要—日本医療政策機構
2022.7.15.(金)
我が国ではもちろん、国際的にも大きなテーマである「認知症対策」を一歩進めるために、例えば▼「理解し、見守り、支援する」段階から「認知症の人と共に生きる・共に創る」段階への進化▼予防・早期発見・鑑別診断・治療などに関する研究の推進と継続した予算の確保▼国民の負担増に向けた理解の獲得—などに努める必要がある—。
日本医療政策機構は7月13日に、こうした内容を盛り込んだ「これからの認知症政策2022 —認知症の人や家族を中心とした国際社会をリードする認知症政策の深化に向けて—」を行いました(機構のサイトはこちら)。
研究の推進と、そのための継続的な予算確保、国民の負担増に関する理解獲得が不可欠
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。
政府もこうした状況を重く見て、認知症対策の充実・強化に向け、新オレンジプランを大改革した「認知症施策推進大綱」を2019年6月に取りまとめました。そこでは、「認知症の人との共生」「認知症の予防(発症を遅らせる)」を目指し、(1)普及啓発・本人発信支援(2)予防(3)医療・ケア・介護サービス・介護者への支援(4)認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援(5)研究開発・産業促進・国際展開―という5つの柱を打ち立てています(関連記事はこちら)。
そうした中で日本医療政策機構は、認知症対策をさらに強化する必要があるとし、大きく次の4分野について提言を行いました。
(1)社会環境
(2)ケア
(3)研究
(4)政治的リーダーシップ
まず(1)の社会環境については、▼「理解し、見守り、支援する」から「認知症の人と共に生きる・共に創る」への進化▼医療・介護・福祉のセクターを超え、小売事業者や公共交通機関などの事業者とともに「暮らしやすい地域を当事者とともに作る」▼当事者組織をはじめとした市民社会活動の活発化支援、地域レベルでの当事者リーダーの育成—が必要と訴えます。
例えば、認知症本⼈・家族の⽀援ニーズに応える「認知症サポーター」は、今年(2022年)3月時点で「延べ1380万人」が養成され、諸外国からも注目を集めています。ただし「認知症の人と共に生きる・共に創る」ためには、「認知症を理解する」段階(認知症サポーターの養成)にとどまらず、「認知症高齢者のパートナーとしてやりたいことを一緒に実現する」段階へ足を進めることが重要と強調しています。
また(2)のケアに関しては、▼認知症のリスク因子に関するエビデンスを基にした「リスク低減に関する取り組み」を拡充する▼当事者ニーズに基づいた「早期発見・早期対応」をさらに推進する▼認知症介護をはじめとするケアワークの価値や重要性を社会全体で共有できるよう、「ケアの質や専門性の評価指標」や「評価体制」の在り方を検討する—ことが必要と提言しました。
認知症のリスク因子については様々な研究が進められ、成果も生まれていますが、「認知症のリスク因子は多岐にわたるほか、長い時間をかけて影響を与えるものも多いため引き続きアカデミアを中心とした学術研究の推進が求められる」と指摘したうえで、エビデンスに基づいた取り組みの強化を求めています。
関連して、「認知症のリスク低減や予防に関する商品やサービスが数多く出回っている」ものの、不透明な部分も少なくないことから、「産官学民が連携し基準や認証制度などの創設を検討する」ことも必要と訴えています。
さらに早期発見に向けて、▼表情や動作、視線の動きの解析による認知機能評価(関連記事は こちら)▼スマートフォンなどの電子機器の操作ミスから認知機能低下を検出する技術—など、デジタル技術を活用した認知症診断を発展させるとともに、▼認知症初期集中支援チーム(認知症の専門知識を持つ医師や保健師、看護師、リハビリ専門職などが、認知症疑い患者等宅を訪問し、アセスメントや家族支援などを包括的・集中的(概ね6か月)に行う)▼ピアサポート▼認知症カフェ▼認知症疾患医療センターで実施される診断後支援等への接続—など「包括的早期対応体制」を強化していくことの重要性も強調しています。
あわせて、こうしたケアの質の「評価指標・表体制」を明確にすることで「ケアの質を向上させる」ことも重要です。
他方、(3)の研究に関しては、▼資金を継続的に確保し、中長期的に日本における認知症研究を成長させる▼リアルワールドデータの活用や、国際的な共同研究・データシェアを促進する▼市民が参加しやすい研究開発プラットフォームを構築する▼認知症の人の暮らしを支える商品やサービスを評価するユーザー目線の指標を整備し、「認知症フレンドリーマーケット」を創出する—ことを提案しました。
上述した「リスク要因の明確化」や「早期診断技術の開発」にも関連しますが、▼予防▼発見▼鑑別診断▼治療法▼ケア手法—について研究を進め、科学的な視点に立った対策が推進されることに期待が集まります。
また「市民が参加しやすい研究開発プラットフォーム」に関しては、英国の医療保障サービス(NHS:National Health Service)の取り組み(Join Dementia Research)を紹介するとともに、一体的な疾患登録(レジストリ)体制を構築することで、▼認知症患者数の適時適切な把握や予測▼治療により改善が期待できる認知症の原因疾患(特発性正常圧水頭症や甲状腺疾患など)の特定▼レジストリが不足している家族性の認知症や若年性の認知症への対応—などに活用可能であると期待を寄せています。国とアカデミア、さらに一般医療機関や患者・家族の協力・連携が不可欠なテーマと言えます。
さらに(4)では、政治が▼2023年に日本で開催されるG7会合で「認知症」を主要政策課題として取り上げる▼認知症基本法を早期に制定する▼社会保障財政の安定に向け、負担を分かち合う改革への国民理解を促す▼地方自治体における「認知症条例」を通じた地域づくりを進展させる—ことに期待を寄せました。
このうち社会保障財源については、「国家財政の大きなウエイトを占めている社会保障に対する歳出削減圧力は特に強い」ものの、党派による政治的対立を超えて「必要な社会保障財源を確保するため、税や社会保険料等の国民負担の増加に対して理解を得るための不断の取り組みを行うべき」と強く求めています。
【関連記事】
日本人特有の「レビー小体型認知症の原因遺伝子」を解明、治療法・予防法開発に繋がると期待—長寿医療研究センター
日本人高齢者、寿命の延伸に伴い身体機能だけでなく「認知機能も向上」—長寿医療研究センター
フレイル予防・改善のため「運動する」「頭を使う」「社会参加する」など多様な日常行動の実施を—都健康長寿医療センター
「要介護度が低い=家族介護負担が小さい」わけではない、家族介護者の負担・ストレスに留意を—都健康長寿医療センター
奥歯を失うと、脳の老化が進む—長寿医療研究センター
介護予防のために身体活動・多様な食品摂取・社会交流の「組み合わせ」が重要—都健康長寿医療センター
高齢男性の「コロナ禍での社会的孤立」が大幅増、コロナ禍で孤立した者は孤独感・コロナへの恐怖感がとくに強い—都健康長寿医療センター
中等度以上の認知症患者は「退院直後の再入院」リスク高い、入院時・前から再入院予防策を—都健康長寿医療センター
AI(人工知能)用いて「顔写真で認知症患者を鑑別できる」可能性—都健康長寿医療センター
認知症高齢者が新型コロナに罹患した場合の感染対策・ケアのマニュアルを作成—都健康長寿医療センター
地域高齢者の「社会との繋がり」は段階的に弱くなる、交流減少や町内会活動不参加は危険信号―都健康長寿医療センター
新型コロナ感染防止策をとって「通いの場」を開催し、地域高齢者の心身の健康確保を―長寿医療研究センター
居住形態でなく、社会的ネットワークの低さが身体機能低下や抑うつ等のリスク高める―都健康長寿医療センター
孤立と閉じこもり傾向の重複で、高齢者の死亡率は2倍超に上昇―健康長寿医療センター
新型コロナの影響で高齢者の身体活動は3割減、ウォーキングや屋内での運動実施が重要―長寿医療研究センター