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新たな認知症治療薬「ケサンラ点滴静注液」(ドナネマブ)、レケンビと同様に「薬価特別ルール」の検討を開始—中医協総会

2024.9.25.(水)

新たな認知症治療薬「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ(遺伝子組換え))が9月24日に薬事承認され、遅くとも90日以内に保険適用することが求められる—。

先に保険適用された「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))と同様に、対象患者数が多くなると予想され、保険適用された場合には「巨大な市場規模になる」可能性があるため、「薬価算定の特例ルール」を検討する—。

9月25日に開催された中央社会保険医療協議会・総会でこうした議論が始まりました。今後、具体的な特例ルールを薬価専門部会で議論し、それを中医協総会で承認した後に、下部組織である薬価算定組織で具体的な値決め(薬価案の作成)が行われます。

なお、同日には薬価専門部会も開催され、来年度(2025年度)の薬価中間年改定論議が行われています。こちらは別稿で報じます。

認知症患者数の増大踏まえると、市場規模が巨大になる可能性否定できず

医療技術が高度化し、優れた医薬品が登場してきています。優れた医薬品について「高額の薬価が設定され、多くの患者に使用される」ことは患者・製薬メーカーにとって好ましいことですが、「医療保険財政」の側面からは手放しで喜ぶこともできません(医療費・薬剤費が増加すれば医療保険財政が厳しくなる)。

このため、2022年度の薬価制度改革では「年間1500億円超の市場規模が見込まれる医薬品が承認された場合には、通常の薬価算定手続きに先立ち、直ちに中医協総会に報告し、当該品目の承認内容や試験成績などに留意しつつ、薬価算定方法の議論する」とのルールが設けられています。すでに、このルールに基づき▼「新型コロナウイルス感染症治療薬であるゾコーバ錠」にかかる特別薬価ルール(関連記事はこちらこちら)▼「認知症治療薬であるレケンビ点滴静注」に係る特別薬価ルール(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)—が設定されています。

レケンビの薬価収載時・収載後の対応(中医協総会1 240925)



またレケンビの保険適用に際し、「アルツハイマー型認知症を対象とする抗体医薬品について薬価収載する場合には、必要に応じて中医協総会で本剤(レケンビ)を含む取り扱いを改めて検討する」方針が固められています(こちら)。



今般、レケンビに次ぐ抗Aβ抗体医薬品で、アルツハイマー病による軽度認知障害・軽度認知症の進行抑制を効能効果とする「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ(遺伝子組換え))が新たに薬事承認されました。効能・効果、作用機序、組成・化学構造などの多くの点で「レケンビに類似している」と言えます。対象患者や使用可能施設などを限定する「最適使用推進ガイドライン」が設定され、これに沿った適正使用が強く求められることになりますが、認知症患者数が増加する中で「多くの患者が使用する→市場規模が大きくなる」と予想され、今後、「市場拡大再算定」や「費用対効果評価」などの対象品目となる可能性が高いと考えられます。

ケサンラ点滴静注液を薬事承認(中医協総会2 240925)

レケンビとケサンラとの比較:類似薬と言える(中医協総会3 240925)

ケサンラの最適使用推進ガイドライン案(中医協総会4 240925)

ケサンラの添付文書で「最適使用推進ガイドライン」沿って使用することが求められている(中医協総会5 240925)



ケサンラ点滴静注液は9月24日に薬事承認されており、「遅くとも90日以内に保険適用する」ことが求められるため、上記の考え方に則り、中医協で「薬価算定の在り方」を検討することとなりました。

厚生労働省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は、新認知症治療薬「ケサンラ点滴静注」について、レケンビと同様に次のように薬価設定論議を行うことを提案しています。

2022年度薬価制度改革の骨子における「4.高額医薬品に対する対応」に基づき、本剤(ケサンラ)の具体的な薬価算定方法(薬価収載時の算定方法、市場拡大再算定の適用等)について薬価専門部会で検討し、その結果をもとに中医協総会で議論する

(参考)高額医薬品に対する対応

高額品への対応(2022年度薬価制度改革の骨子)(中医協総会6 240925)



▽本剤(ケサンラ)の費用対効果評価について、費用対効果評価専門部会で検討し、その結果をもとに中医協総会で議論する

→「レケンビに対する費用対効果評価について」においては、費用対効果評価をより活用するため、有用性系加算等を価格調整範囲とする現行の方法ではなく、特例的な対応を行っている(関連記事はこちら

(参考)レケンビの費用対効果評価に関する特例ルール
▽費用対効果評価の結果、ICER(「費用対効果が優れているか、劣っているか」を判断する物差しで、「類似技術βの費用(b)と新規医療技術αの費用(a)との差(つまりb-a)」を「類似技術βの効果(B)と新規医療技術αの効果(A)との差(つまりB-A)」で除して算出する。現行ルールではICERが500万円未満の場合には「費用対効果が優れている」と判断し、価格が維持される)が「500万/QALYとなる価格」と「見直し前の価格」の差額を算出し、差額の25%を「調整額」とする

▼「ICERが500万円/QALYとなる価格」>「見直し前の価格」の場合は、「見直し前価格+調整額」を調整後価格とする(薬価の引き上げ、ただし「見直し前の1.1倍」を引き上げの上限とする。引き上げ条件は現行規定を適用)

▼「ICERが500万円/QALYとなる価格」<「見直し前の価格」の場合は、「見直し前 価格-調整額」を調整後価格とする(薬価の引き下げ、ただし「見直し前の0.85倍」を引き下げの下限とする)

レケンビの費用対効果評価における「価格調整範囲」の特例的な考え方(中医協総会(1)4 231213)



▽これらの議論を進めるにあたり、薬価専門部会と費用対効果評価専門部会における相互の検討状況を踏まえた上で、効率的に議論するため、合同部会として開催して検討する

▽本剤(ケサンラ)の薬価収載に向けた議論の際には、「本剤を含む、今後開発される可能性のある本剤と同様の薬剤」への対応も考慮しつつ行う(認知症治療薬の開発が進む中で、「効率的な薬価設定論議」(例えば「どのように検討するか」などの手続き決定論議を省くなど)を行うための検討を行うイメージ)



こうした検討方針に異論は出ていません。

ただし、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「レケンビとケサンラとでは、作用機序ポイントが若干異なるようだ。このため『レケンビとケサンラとを併用する』や『レケンビ使用後にケサンラを使用する』などのケースが出てくる可能性もある。レケンビとケサンラとで市場を分け合うのか、新たな市場拡大が生じるのかなどを慎重に見極める必要がある。また、臨床現場においてレケンビとケサンラとのいずれを『優先的に使用する』のか、なども含めた『両剤の使い分け、棲み分け』なども専門家で検討し、報告してほしい。これらの治験は認知症治療薬領域における市場拡大算定の在り方を議論する際に極めて重要となる」と指摘し、同じ支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)も同旨の考えを述べています。

これらに対し清原薬剤管理官は、「臨床現場でのレケンビとケサンラとの使い分けなどは、今後明らかになる点も多いが、現状のデータなどで可能な限り検討を進めてもらう。画期的な抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤)についても、オプジーボやキイトルーダをはじめ多くの薬剤が開発されているが、既存の市場拡大再算定ルールにより一定程度、保険財政への影響をコントロールできていると考えている。認知症治療薬領域について、既存の市場拡大再算定ルールで対応可能なのか、新たな市場拡大再算定ルールが必要となるのかなども含めて、次期薬価制度改革に向けて議論してほしい」との考えを示しています。



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