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医療法人経営情報データベース(MCDB)から、学術・教育・医療提供体制確保のために研究者等にデータ提供—医療法人経営情報DB検討会

2024.11.25.(月)

昨年(2023年)8月より「原則として、すべての医療法人にG-MIS用いて毎年度の経営情報を報告する義務が課され」ている(医療法人経営情報データベース(MCDB))。このデータを「個々の医療機関情報などが判別できない」形に加工して研究者等に提供【第3者提供】し、学術研究などに活用することを認めてはどうか。もちろん、情報漏洩などには最大限の留意が求められることは述べるまでもない—。

11月22日に開催された「医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が始まりました。近く意見を取りまとめて、関連法令の改正などを実施。遅くとも「2026年5月19日まで」に第3者提供実施環境を整えます。

11月22日に開催された「第3回 医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会」

個別医療機関、個人を特定・推知されることがないような安全配慮が強く求められる

検討会では2022年11月に、医療法を改正し▼「医療法人の経営情報データベース」を構築する▼一部の小規模法人(いわゆる「四段階税制」が適用される小規模クリニック、2020年度には61法人)を除き、原則、すべての医療法人に経営情報の提出を義務付ける▼データベースを活用し、医療政策の企画・立案、医療従事者の処遇改善、医療機関の経営支援などを行う▼医療法人の経営状況に関する情報を広く国民に提供するとともに、医療経済研究に向けたデータの第三者提供を行う—方針が決定。その後、国会審議で医療法が改正され、昨年(2023年)8月より「原則として、すべての医療法人にG-MIS用いて毎年度の経営情報を報告する義務が課され」ました(関連記事は<こちらこちらこちら)。

医療法人経営情報データベース等の大枠(社保審・医療部会(1)2 230707)



医療法人には、従前より「法人の事業報告書」などを都道府県に提出する義務が課されていますが、上記の制度改正により、新たに次のような「法人内の『個別医療機関』の経営情報」(損益計算書等)も都道府県に報告することとなっています。

【病院等の収益・費用の内容】
▼医業収益
・入院診療収益(内訳である保険診療収益・公害等診療収益・その他の診療収益は任意報告)
・室料差額収益
・外来診療収益(内訳である保険診療収益・公害等診療収益・その他の診療収益は任意報告)
・その他の医業収益(保健予防活動収益(任意)、運営費補助金収益)
▼医業費用
・材料費(医薬品費、診療材料費・医療消耗器具備品費、給食用材料費)
・給与費(役員報酬、給料、賞与、賞与引当金繰入額、退職給付費用、法定福利費)
・委託費(給食委託費)
・設備関係費(減価償却費、器機賃借料)
・研究研修費
・経費(水道光熱費)
・控除対象外消費税等負担額
・本部費配賦額
▼医業利益(または医業損失)
▼医業外収益(受取利息および配当金(任意)、運営費補助金収益、施設設備補助金収益)
▼医業外費用(支払利息(任意))
▼経常利益(または経常損失)
▼臨時収益(運営費補助金収益、施設設備補助金収益)
▼臨時費用
▼税引前当期純利益(または税引前当期純損失)
▼法人税、住民税および事業税負担額(任意)
▼当期純利益または当期純損失

【クリニックの収益および費用の科目】
▼医業収益
・入院診療収益(内訳である保険診療収益・公害等診療収益・その他の診療収益は任意報告)
・外来診療収益(内訳である保険診療収益・公害等診療収益・その他の診療収益は任意報告)
・その他の医業収益(保健予防活動収益(任意)、運営費補助金収益)
▼医業費用
・材料費(医薬品費、診療材料費・医療消耗器具備品費、給食用材料費)
・給与費(役員報酬、給料、賞与、賞与引当金繰入額、退職給付費用、法定福利費)
・委託費(給食委託費(任意))
・減価償却費
・器機賃借料
・その他の医業費用(水道光熱費、控除対象外消費税等負担額、本部費配賦額(任意))
▼医業利益(または医業損失)
▼医業外収益(受取利息および配当金(任意)、運営費補助金収益、施設設備補助金収益)
▼医業外費用(支払利息(任意))
▼経常利益(または経常損失)
▼臨時収益(任意)(運営費補助金収益、施設設備補助金収益)
▼臨時費用(任意)
▼税引前当期純利益または税引前当期純損失
▼法人税、住民税および事業税負担額(任意)
▼当期純利益(または当期純損失)

【病院等の職員の職種別人員数、その他の人員に関する事項】
▼職種別の給与総額、およびその人数に係る職種(任意、1月1日から12月31日までの1年間(医療法人の会計年度内の12月31日を末日とする1年間)、これによりがたい場合は会計年度)(任意報告)
<職種>医師、歯科医師、薬剤師、看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)、その他の医療技術者等(診療放射線技師、臨床工学技士、臨床 検査技師、リハビリスタッフ(理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士)、歯科衛生士、歯科技工士、栄養士等(管理栄養士、栄養士、調理師)、社会福祉士、精神保健福祉士、保育士、看護補助者、事務職員(事務(総務、人事、財務、医事等)担当職員、医師事務作業 補助者、診療情報管理士)、その他の職員)
▼上記の報告に係る対象期間



報告されたデータは国(厚生労働省)で分析等を行い医療政策の企画立案や医療機関支援などに活用されますが、さらに検討会では「医療法人の経営情報は『国民共有の財産』でもあり、研究目的等のために研究者等の第3者へ提供し、有益に活用してもらえる環境を都と述べるべき」との議論も行われ(関連記事はこちら)、医療法にも「医療法人経営情報データベース(MCDB)のデータを第3者提供する」旨の規定が盛り込まれています(現在は未施行、2026年5月19日までに施行する)。

検討会では、この「医療法人経営情報データベース(MCDB)データの第3者提供」に向けて、詳細を詰める議論を開始しました。例えば▼データ提供を申請する手続きをどう考えるか▼データ提供の「目的」をどう考えるか(例えばある製品の広告・宣伝などにデータを活用することは認められない)▼「データを安全・適切に利用する」ことをどう担保するか▼仮に「目的外にデータを利用する」ようなことがあった場合などにどう対処するか▼データ提供にはコストが発生するが手数料をどう考えるか—などを事前に定めておく必要があるためです。

11月22日の会合では、厚労省から次のような提案が行われました。既に整備されている「統計法に基づく統計データの第3者提供」や「NDB(レセプト、徳健康診査のデータベース)データの第3者提供」などの仕組みに倣ったものです。

(1)【オーダーメイド集計】
→研究者等からの申請を受け、「厚労省でデータを集計し、統計の作成、統計的研究を行い」、その結果を提供するもので、情報漏洩、個別医療機関特定などのリスクは低い

(a)申請手続きについて、「統計法施行規則」に倣って定める(申請者、目的などを記載して申請する)[医療法施行規則(厚労省令)改正]

オーダーメイド集計の利用申請について(医療法人DB検討会1 241122)



(b)利用目的について、「統計法施行規則」に倣って▼学術研究の発展に資する(例えば医療提供体制や医療経済に関する論文執筆など)▼教育の発展に資する(例えば医療提供体制データを用いた大学での講義など▼医療提供体制の確保に資する(例えば自治体が「国へ分析を依頼する」ケースなど)—ものとし、「これら研究等の成果が公表されること」も共通の要件とする[医療法施行規則(厚労省令)改正]

オーダーメイド集計の利用目的について(医療法人DB検討会2 241122)



(c)手数料について、「統計法施行令」や「NDB」の手数料を参考に、実費などを勘案して定める[医療法施行令(政令)改正]
→NDBの「手数料免除対象者」(自治体、厚生労働科学研究費を受けている者など)を参考に、「MCDBの手数料免除対象者」を定める

手数料減免対象(NDB)(医療法人DB検討会5 241122)



(2)【医療法人情報の提供】(いわば個別データの提供)
→研究者等からの申請を受け、医療法人経営情報データベース(MCDB)から「個別医療機関の特定などができない形にデータを加工」して、当該研究者等に提供するもので、情報漏洩、個別医療機関特定などのリスクが上述【オーダーメイド集計】に比べて高くなるため、「慎重な取り扱い」が強く求められる

(a)申請手続きについて、「統計法施行規則」に倣って定める(申請者、目的、利用場所などを記載して申請する)[医療法施行規則(厚労省令)改正]

情報提供制度における利用申請について(医療法人DB検討会3 241122)



(b)利用目的について、「▼学術研究の発展に資する▼教育の発展に資する▼医療提供体制の確保に資する—もの」であることを、今後制定する「MCDBの第3者提供に係るガイドライン」に定め、社会保障審議会の部会で「個別に審査」し、データ提供の可否を判断する
→あわせて「これら研究等の成果が公表されること」も共通の要件とする[ガイドライン制定]



(c)データ漏洩などのリスクを極力低減するために、「情報セキュリティが確保されたオンサイトセンター」(福祉医療機構に設置するデータ利活用のための部屋)での利活用を原則とする[医療法施行令(政令)改正]

(d)手数料について、「統計法施行令」や「NDB」の手数料を参考に、実費や今後、構築予定のオンサイトセンターの機能を勘案して定める
→NDBの「手数料免除対象者」(自治体、厚生労働科学研究費を受けている者など)を参考に、「MCDBの手数料免除対象者」を定める

手数料減免対象(NDB)(医療法人DB検討会5 241122)



(e)「医療法人情報の不適切利用」等への対応については、「統計法」や「NDB」の措置(刑罰など)を踏まえつつ、今後制定する「MCDBの第3者提供に係るガイドライン」に定める[ガイドライン制定改正]

不適切利用等への対応(統計法関係)(医療法人DB検討会6 241122)

不適切利用等への対応(NDBガイドライン)(医療法人DB検討会7 241122)



こうした第3者提供制度にあたって、検討会構成員が異口同音に述べたのが「個別医療機関の経営情報や、特定個人の給与情報などの保護を十分にしなければならない」という点です。上述のように「職員の給与情報」もデータベースに格納されており、例えば小規模医療機関ではスタッフ数が限定されるため「●●さんの給与は●●円」と推知されかねません。

一方、「個別医療機関、個人を推定できないように」と加工を加えれば加えるほど、当該データを利活用した研究には不向きになってしまいます(言葉を選ばずに述べれば「使い物にならないデータ」となってしまうため、どういった加工を行うかについては技術的検討が必要となる)。

そこで構成員からは、例えば▼再識別を不可能とする仕組みの検討、オーダーメイド集計においてもサンプルが少ない場合には「-」とすること、(2)の情報提供は「オーダーメイド集計では研究が行えない場合」に限定することなどを徹底すべき(角田徹構成員:日本医師会副会長)▼個別医療機関の経営情報や特定個人の給与情報などが推知されないような適切な加工が求められる。また「自分、自院の情報が明らかにされてしまった」と感じた医療機関等が相談のいける窓口を設置することが、情報を提供する医療法人サイドの「安心」につながる(北山昇構成員:森・濱田松本法律事務所所属弁護士)▼どのような研究にもデータを活用できるわけではない点を明確にすべき。再識別されない点の担保を十分に行うべき。国や自治体がコンサルタントに調査委託などをすることがあるが、そうした場合のデータ管理をどう考えるかなども明確にしておくべき(今村英仁構成員:日本医師会常任理事)—などの指摘が出ています。

また、上記提案のうち「利用申請手続き」や「利用目的」、「手数料」、「不適切利用等への対応」の方向に異論はでておらず、今後、厚労省で具体案を詰めていくことになります。

一方、(2)【医療法人情報の提供】の(c)「原則、オンサイトセンターでの利活用」方針には、荒井耕構成員(一橋大学大学院経営管理研究科教授)から「統計法施行規則の安全管理に関する5要件(▼組織的管理措置(適正管理に係る管理簿の整備、漏えい時等の事務処理体制の明確化など)▼人的管理措置(過去に罰金刑以上に処せられた者などの利用不可など)▼物理的管理措置(入退室管理、盗難防止の措置など)▼技術的管理措置(データ利活用者の限定など)▼その他の管理措置(管理簿の整備・漏えい時等の事務処理体制の明確化など)—)を満たす場合にはデータを第3者に提供できることを原則とし、5要件を満たせない場合にはオンサイトセンターでの利活用を求める形とすべき」と注文が付きました。

情報提供制度における安全管理の検討(医療法人DB検討会4 241122)



確かに「5要件を満たした場合には、適切にデータ利活用を行える」と考えられますが、「研究者等の中には5要件クリアが難しいケースもある」こと、「5要件を確実に満たしているかどうかを確認することが難しい」ことなどを踏まえ、厚労省は「オンサイトセンターでの利活用を原則とする」考えを提示しています。

また、医療法人経営情報データベース(MCDB)にデータを格納する「医療法人」立医療機関の数は、医科・歯科合計でも約7万程度にとどまるため、NDB等に比べて「このデータがどの医療法人のものか」を推知しやすいと考えられます(例えば「●●県、500床以上」などの絞り込みをかければ、「あの病院かな?」と一定程度、推知できそうである)。

こうした様々な事情を考慮し、荒井構成員の指摘も踏まえて、今後「安全な利活用を担保する」仕組みを検討・調整していきます。



また検討会では、「他のデータベースとの連結解析」についても議論が行われました。検討会では、これまでに「▼病床機能報告▼外来機能報告—との連携を行う」方向が示されていますが、「医療施設調査をはじめ、様々なデータベースとの連結解析を進めていくべき。そもそも、こうした他データベースとの連結解析を前提として、医療法人経営情報データベース(MCDB)の収集項目を少なく抑えている」(荒井構成員)との考えと、「他データベースとの連結解析により個別医療機関との推知可能性が高まる。他データベースとの連結解析は慎重に考えるべき」(今村構成員)との考えとが対立しています。この点も、今後の重要検討課題の1つとなるでしょう。



また荒井構成員は「医療法人経営情報データベース(MCDB)データを活用した研究成果を国が積極的に情報公開することが本データベース構築の本来目的であるが、そうした動きは低調である。そちらにまず力を入れていくべき」とも進言しており、今後の厚労省による研究実施に期待が集まります(2026年度診療報酬改定に向けた医療経済実態調査(医療機関等調査)の補完に医療法人経営情報データベース(MCDB)活用が検討される)。



なお、NDBや介護保険総合データベースなどについては「2次利用」論議が進んでいますが(関連記事はこちらこちら)、格納されているデータの性質も異なり(NDB等は患者情報、医療法人経営情報データベース(MCDB)では医療機関情報)、両者は別々に検討されます(第3者提供にあたっての審査を誰がどこで行うかなど)。



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