規制的手法も含めた医師偏在対策、地域医療構想実現に向けた知事権限強化、2025年度薬価改定」(薬価の引き下げ)などを実施せよ―財政審
2024.12.6.(金)
財務省の財政制度等審議会(以下、財政審)が11月29日、来年度(2025年度)予算編成等に関する建議をまとめ、加藤勝信財務大臣に提出しました(財務省のサイトはこちら)。
例えば、▼規制的手法も含めた医師偏在対策(特定診療科のサービスが特に過剰な地域での診療報酬減算など)▼地域医療構想の実現に向けた都道府県知事の権限強化▼介護老人保健施設や介護医療院への多床室の室料負担導入▼来年度(2025年度)の中間年薬価改定」(薬価の引き下げ)の実施—などを提言しており、今後の医療・介護制度改革にも影響を及ぼす可能性があります。
2025年度の薬価中間年改定の実施、医師偏在対策に向けた規制的手法導入など要請
医療技術の高度化、少子高齢化の進展などを背景に医療保険財政は厳しさを増しており、今後、さらに状況は深刻になっていきます。
ところで医療保険制度、介護保険制度においては財源の25%が国費である(関連記事はこちら)ことから、「医療費・介護費の増加」→「その25%に相当する国費支出の増加」→「国家財政の圧迫」につながっていると指摘されます。
そこで財政制度分科会では、「国家財政を健全化させる(端的に「入り」を増やし、「出」を抑える)ために、医療費や介護費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」方策の検討を進め、提言を行っています。
11月29日にまとめられた建議では、社会保障(ここでは医療・介護)改革に向けた次のような提言が行われています。既に報じた事項と大きく重複しますが、改めて眺めてみると次のような事項が目を引きます。
【総論】
▽「誰もが年齢にかかわらず能力や個性を最大限生かすことができ、全ての世代で能力に応じて負担し、必要な社会保障サービスが必要な者に適切に提供される」全世代型社会保障制度の構築に向け、▼医療・介護給付の適正化▼現役世代等の保険料負担の最大限の抑制—により、将来不安を取り除いていく必要がある
▽来年度(2025年度)予算においても、制度改革を行いながら引き続きメリハリある予算編成を行っていく必要がある
▽経済・物価動向や全世代型社会保障の構築の観点を踏まえた合理的・効果的な施策を実施するためにもデータに基づく議論が不可欠であり、経営情報の更なる「見える化」を進めていくことが求められる。医療機関(医療法人)の「経営情報データベース」において、職種別の給与・人数の提出を義務化すべきである
【医療提供体制関係】
●医師偏在対策
▽医師偏在対策の策定、2026年度医学部定員の上限の適切な設定、必要な規制の見直し、医療関係職種間での業務の分担(タスクシフト・タスクシェア)、DXを通じた効率化を進め医師の担うべき業務の重点化や包括化を行う
▽外来医師多数区域においては、「病院勤務医から開業医にシフトする流れを止める」、「真に地域に貢献する診療所がその役割を果たせるよう、診療所の診療報酬適正化をはじめとした診療報酬体系の適正化等に取り組む」—
▽「地域間」「診療科間」「病院・診療所間」の医師偏在を解決するためには、保険医療機関の指定を含む「保険上の指定権限の在り方」にまで踏み込んだ実効的な規制を導入することが不可欠である
→「外来医師多数区域での保険医の新規参入に一定の制限を設ける」こと、さらに「既存保険医療機関も含めて需給調整を行う仕組みを創設する」など、真に実効性のある医師偏在対策となるよう、これまでにない踏み込んだ対応を行うべき
▽医師偏在対策として、「地域別診療報酬」の仕組みを活用し、報酬面からも診療所過剰地域から診療所不足地域への医療資源のシフトを促していくべき
→当面の措置として「診療所過剰地域における1点当たり単価(10円)の引き下げ」を先行させ、それによる公費の節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化することも考えられる(関連記事はこちら)
▽近似的な手法を含めて必要なデータを収集し、「診療科ごとなどの医師偏在指標」を早急に世に示すべき
→例えば、「特定診療科のサービスが特に過剰な地域」について、都道府県や地域医療関係者が客観的・絶対的な形で判断できるような「医師偏在指標」に拠った基準を速やかに策定すべき
▽客観的な基準に照らし「ある地域の特定の診療科に係る医療サービスが過剰」と判断される場合には、医療需要の掘り起こしが発生しているとみなし、当該医療サービスを【特定過剰サービス】として診療報酬減算の対象とすることが考えられる
→ただし、一律の減算は必ずしも適当ではなく、「【特定過剰サービス】を対象とした、診療科ごとのアウトカム指標を設定・評価した上で、当該評価においてアウトカムが良好と判定された場合には、付加価値を適正に生んでいるとみなし、当該減算措置の対象から除外する」ことも考えられる(かかりつけ医機能やレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)のデータをアウトカム指標の設定・評価に活用することも考えられる)
→【特定過剰サービス】単位ごとに見た医療費について、例えば「前年度から大幅に延伸するなど、一定の基準額を超過した場合には、アウトカム指標を満たさない医療機関を中心に、超 過額の保険償還分を精算する」仕組みも検討すべき
●地域医療構想の実現
▽人材確保が難しくなる中、質の高い医療を効率的に提供する体制を構築する観点から、オンライン診療の本格活用も含め、各地域の実情に応じて「診療所を含めた外来の医療機能の転換・集約を推進していく」ことが必要である
▽入院機能について「新たな地域医療構想」の実現に向けて、▼診療報酬の適正化▼これまで以上に都道府県に対する実効的な手段・権限の付与▼取り組み結果に応じた強力なインセンティブ設定—を行う必要がある
→入院医療の需要低下に合わせ、地域医療構想の枠組みにおいて病床の機能分化・連携、総病床数の縮減をより一層進める必要がある
▽病床機能報告と診療報酬の算定状況との対応関係を見ると不適切と思われるもの(地域包括ケア病棟や療養病棟が「急性期機能」をせんたくするなど)があり、「急性期病床の更なる再編」を進めるべき
▽「新たな地域医療構想」では、現状投影に基づく医療ニーズを入院・外来・在宅医療・介護の間で割り当てるという発想でなく、▼患者像の変化(需要面での変容)▼希少な医療資源の最大限活用—の観点から、「各医療機関における入院・外来機能の役割分担の明確化・集約化を加速させることによる地域医療提供体制の効率化(供給面での取組)」を反映した必要病床数や外来需要等の推計に立脚したものとすべき
▽「新たな地域医療構想」について、各医療機関が構想と整合的な対応を行うよう求めるなど「知事の権限強化」を図るべき
【医薬品関係】
▽薬価制度上の評価のメリハリ付けを一層推進することで、革新的新薬を開発・製造する製薬企業の成長をより一層促すとともに、「製薬業界のあるべき将来像」を視野に入れながら、革新性の低い新薬や長期収載品に依存する企業の再編を促していく
▽新薬創出適応外薬解消等促進加算について「真に革新的な新薬の創出を促進する」にふさわしい要件となっているか、検証を加え、対象範囲等を適切に見直す必要がある(平均乖離率までの値引きが許容されるべきか、実際の創薬イノベーション促進につながったのかの検証を行う)
▽高齢化の進展に伴い更なる薬剤費の増加が見込まれる中、市場実勢価格を薬価に適切に反映させるため、「毎年薬価改定の着実な実施」が必要
→来年度(2025年度)薬価改定では、「原則、全ての医薬品を対象にして、市場実勢価格に合わせた改定を実施」すべき。仮に、一定品目を除外するとしても「安定供給確保に資する医薬品や真に革新的な医薬品など、政策的対応の合理性があるもの」に限定すべき
→毎年薬価改定が行われる中で2年に1度しか適用されないルールがあるのは合理的な説明が困難である。来年度(2025年度)改定では「既収載品の算定ルールを全て適用」すべきである
▽▼費用対効果評価を実施する薬剤の範囲や価格調整対象範囲の拡大▼費用対効果評価の結果を保険償還の可否の判断に用いることも検討する▼費用対効果評価を実施する体制を強化する▼費用対効果評価の結果を学会診療ガイドラインや厚生労働省の最適使用推進ガイドラインなどに反映し、経済性の観点を診療現場にも徹底する—
▽新規性に乏しい新薬に係る薬価収載時の評価方式である類似薬効比較方式(II)について、比較対象薬に後発医薬品も含めることも含め、具体的な見直しを早急に検討すべき
▽費用対効果の本格活用の検討とあわせ、保険外併用療養制度の柔軟な活用・拡大、民間保険の活用について検討を行う
▽後発品の使用促進
→市場全体での安定供給確保の観点からは、薬価改定等を通じて企業間の過当競争を適正化し生産性の向上を図っていく
→バイオシミラーについては、「バイオ先発品の一部選定療養化」も含めて、その推進に資する幅広い取組を強力に推進していく
【医療保険制度関係】
▽普通調整交付金の配分方法について、実際に要した医療費ではなく「各都道府県の年齢構成等を勘案して算出した標準的な医療費」を前提とする仕組みに改めるべき
▽後期高齢者医療制度においても、財政運営の主体を都道府県とすることを検討すべき
▽国民健康保険の保険料水準については、都道府県内での被保険者間の受益と負担の公平性を確保する観点から、遅くとも2030年度までに全都道府県で「納付金ベースでの保険料水準の統一」が実現するよう、必要な取り組みを早急に進めるべき
▽現在保険料の賦課対象とされていない金融所得のうち、本人の選択によって保険料の賦課対象となるかどうかが変わり得るもの(上場株式の配当など、預貯金の利子などは含まれない)については、公平性の観点から「保険料の賦課ベースに追加」し、負担能力の判定に活用すべき
→NISAなどの非課税所得(NISA口座で管理される金融資産は1800万円(簿価残高)まで非課税)は、保険料においても賦課対象としないことを前提とする
▽医療保険における入院時生活療養費等の負担能力の判定に際して、介護保険の補足給付との違いや保険者の事務負担等も踏まえつつ、「金融資産を勘案する方策」を早急に検討すべき
→医療・介護保険における負担の在り方全般について、マイナンバーを活用して金融資産の保有状況も把握し、「負担能力を判定するための具体的な制度設計」検討を進めるべき
▽後期高齢者のうち「現役並み所得」(3割負担となる)の判定基準について、現役世代との公平性を図り、世帯収入要件を見直すべき
▽高額療養費制度について、世代間・世代内での負担の公平化、負担能力に応じた負担の確保などの点から、物価・賃金の上昇など経済環境の変化も踏まえ、必要な見直しを検討すべき(関連記事はこちら)
【介護関係】
▽今後も増大し続ける介護ニーズに対応していくため、ICT機器の導入・活用を引き続き推進するとともに、経営の協働化・大規模化を早急に進めるべき
▽特養等における人員配置基準の更なる柔軟化に引き続き取り組むべき
▽引き続き【処遇改善加算】の取得促進とあわせて、好事例の横展開による職場環境の整備や生産性向上等に取り組み、人材の定着を推し進めるべき
▽人材派遣会社について、さらなる規制強化を検討する
▽軽度者(要介護1・2)に対する訪問介護・通所介護についても地域支援事業への移行を目指し、段階的にでも「生活援助型サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体による効果的・効率的なサービス提供」を可能にすべき
▽居宅と施設の公平性、施設間の公平性の観点から、介護老人保健施設・介護医療院についても「多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する」見直しを進めるべき(関連記事はこちら)
▽サービス付高齢者向け住宅等における居宅療養管理指導について不適切事例が伺えることも含めて、居宅療養管理指導のサービス利用時に「ケアマネジャーによる給付管理が確実に行われ、自治体による適切な運営指導が行われる」よう、制度の運用や在り方を検討する必要がある
▽公正・中立なケアマネジメントを確保する観点から、「質を評価する手法の確立」や「介護報酬への反映」、「居宅介護支援への利用者負担導入」により、質の高いケアマネジメントが選ばれる仕組みとする必要がある
▽所得だけでなく金融資産の保有状況等の反映、きめ細かい負担割合の在り方の検討を進めたうえで、「2割負担の対象者の範囲拡大」、「利用者負担の原則2割化」「現役世代並み所得(3割)等の判断基準見直し」を検討すべき(関連記事はこちら)
▽自治体のローカルルールの実態把握を行った上で、国民の利便性向上に資するよう「介護保険外サービスの柔軟な運用」を認めるべき
今後の制度改正論議(社会保障審議会の医療部会・医療保険部会・介護保険部会や中央社会保険医療協議会などでの議論)に、どう影響を及ぼすのか注目する必要があります。
国の財政(=我々国民の財布)には限界があり「必要がある」からといって「青天井に社会保障費を用意・支出できる」わけではありません。▼医療技術の高度化▼高齢化の進展—などにより医療・介護費が増加を続ける一方、現役世代の急激に減少=「支え手」(費用の支え手、サービスの担い手)の減少が続くため、「医療・介護などの支出を抑えなければいけない」「負担(保険料や自己負担)を上げていかなければならない」ことは、火を見るよりも明らかです。こうした点から目を背けずに将来の医療・介護制度を議論していく必要があります。
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