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救命救急センターの充実段階評価、「救急外来への専従看護師配置」を評価した場合に2次救急へ悪影響がでないか?—救急・災害ワーキング

2024.12.23.(月)

救命救急センターの診療体制等に関する「充実段階評価」について、たとえば、新たに「救急外来への専従看護師配置、専門性の高い看護師配置」などの新項目を導入することが考えられる。ただし、看護師確保が2次救急病院でも難しくなっている中では「2次救急からの看護師引き抜き」→「さらに2次救急の覚悟し確保が難しくなる」事態が生じる可能性もあり、来年度(2025年度)に試行調査を実施し、その結果も踏まえて「充実段階評価」の見直しを行っていく—。

12月20日開催された「救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ」(第8次医療計画等に関する検討会の下部組織、以下「救急・災害ワーキング」)で、こうした議論が行われました。年明け(来年、2025年)2-3月に「試行調査」の内容を固め、その結果を踏まえて2026年度から新たな「充実段階評価」が適用される見込みです。

12月20日に開催された「第9回 救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ」

2026年度から「新たな充実段階評価」を、救命救急センターに適用

救急・災害ワーキングでは、医療計画に記載する「救急医療の体制」「災害医療の体制」に関する事項を検討する専門会議体です。医療計画に関しては、今年度(2024年度)から第8次計画が各都道府県でスタートしており、2026年度に中間見直しが行われます。

中間見直し論議は、主に「第8次医療計画等に関する検討会」で行われる見込みですが、救急・災害ワーキングでは、この中間見直し論議に先立って「救命救急センターの充実段階評価」の見直し内容を議論しています。

救急医療の最後の砦となる「救命救急センター」に対しては、毎年「充実段階評価」が行われ、この結果は診療報酬(A300【救命救急入院料】の「救急体制充実加算」)や各種の補助金に結びつきます。
・S評価:【救急体制充実加算1】(1500点)の取得・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額100%交付
・A評価:【救急体制充実加算2】(1000点)の取得・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額100%交付
・B評価:【救急体制充実加算3】(500点)の取得・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額90%交付
・C評価:【救急体制充実加算】の取得不可・「救命救急センター運営事業」の交付算定基準額80%交付

救命救急センターの充実段階評価(概要)



充実段階の評価は、(α)救命救急医療を行う体制が整っており、かつ重篤な救急搬送患者受け入れの実績が十分に上がっているか(β)是正すべき点はないか―という2軸で行われ、現在は下表の通りとなっています。

救命救急センターの充実段階評価(評価項目)



併せて、この「体制・実績の評価点」と「是正を要する項目の該当数」の2つをもとに、各救命救急センターを次表のように「S」「A」「B」「C」の4段階に評価・振り分けします。

救命救急センターの評価区分



この充実段階評価に関して、厚生労働省の研究班が見直し方向を整理。これをベースに厚労省が12月20日の救急・災害ワーキングに「見直し案」を提示しました。
(1)【新規】救急外来における専従看護師の配置に対する評価
(2)【新規】ピアレビュー実施の評価
(3)【新規】重症外傷に対する診療体制整備に関する評価
(4)【変更】第三者による医療機能の評価
(5)【変更】診療データ登録制度への参加と自己評価

充実段階評価見直し案(救急・災害ワーキング1 241220)



既に報じた内容と重複する部分も少なくありませんが、各項目について、具体的な見直し内容と、救急・災害ワーキングでの議論を紹介しましょう。

「救急外来への看護師配置」評価案には賛否両論、試行調査をまず実施へ

(1)では、次の新規項目が提案されています。「医師から看護師へのタスクシフト/シェア」や「救急医療に関する専門性の高い看護師の育成・配置」の重要性に鑑みたものです。

▽救急外来に配置する看護師についてあらかじめ取り決めている(救急外来業務を行う看護師の24時間配置、ただし当該看護師の所属部署は問わない):1点

▽上記に加え、救急医療に関する専門性が高い看護師(救急看護認定看護師、集中ケア認定看護師、クリティカルケア認定看護師、急性・重症患者看護専門看護師)を配置している:1点



この見直し案に対し、本多麻夫構成員(埼玉県保健医療部参事)や溝端康光構成員(日本臨床救急医学会代表理事)、井本寛子構成員(日本看護協会常任理事)らは歓迎の意を示しましたが、加納繁照構成員(日本医療法人協会会長)や猪口正孝構成員(全日本病院協会常任理事)は「看護師確保が2次救急病院でも難しくなっている中で、救命救急センターでの看護師配置評価を充実すれば『2次救急からの看護師引き抜き』→『さらに2次救急の覚悟し確保が難しくなる』事態、あるいは『2次救急ではなく3次救急を看護師が選択する』事態の悪化などが生じてしまう」と強く反対しました。

もっとも、井本構成員は「多くの救命救急センターではすでに、見直し案に相当する看護師配置を行っており(つまり現状を評価するものに過ぎない)、他院からの看護師引き抜きなどが生じるとは考えにくい」と反論しています。

こうした声を踏まえて厚労省医政局地域医療計画課の中田勝己課長は、「来年度(2025年度)に見直し案を踏まえた試行調査を実施し、懸念される『2次救急への影響』なども確認する。その結果を踏まえて最終的にどういった評価項目の見直しを行うかを決定する」との考えを示しました。現時点では「救急外来への看護師配置」などが新評価項目に追加されるか否かは決まっていません。

他施設や自治体のスタッフなどの第3者を交えたレビューにより、客観的な評価を実施

(2)では、充実段階評価結果に客観性を持たせる(現在は自己評価である)ために、「自施設の充実段階評価の妥当性について第三者によるレビューを受けている」場合に「2点」の獲得を認める案です。

現時点では、▼自施設以外の医療機関職員▼各都道府県の職員—などへ、各救命救急センターが「充実段階評価の妥当性を確認するうえで必要な資料」を提出し、レビュアーとなる第三者(他施設の医療機関職員・自治体職員)と当該施設の職員が一堂に会する場(Web meetingを含む)で内容を確認し、質疑応答に応じるような形式が想定されています。



異論、反論は出ておらず、「第三者の中に、救命救急センターの受け入れ状況などをよく知っている消防署職員を入れてはどうか」(松原由美構成員:早稲田大学人間科学学術院教授)との指摘が出ています。有益な意見ですが「消防サイドが厳しい評価をすると、後の受け入れに影響が出てきてしまうために、甘めの評価になる可能性もある」ため、大友康裕座長(日本救急医学会代表理事、日本災害医学会理事)や厚労省は「メディカルコントロール協議会(MC協議会:傷病者の搬送・受け入れの迅速化を図り、救急隊員が行う応急処置等の質を保障するために地域の医師会、救急医療機関、自治体、消防署などで構成される)としての参加を求めてはどうか」との考えを示しています。

なお、第3者レビューは「初の試み」であり、「どのような体制を組んで、どのように実施するのか」などのガイドラインが作成される見込みです。

救命救急センターの本来業務である「重症外傷への診療体制」などを評価

(3)では、救命救急センターに重症外傷やその他の複数診療科にまたがる重篤な患者を24時間体制で受け入れる役割が求められていることを踏まえ、次の新項目追加が提案されています。研究班案では「MTP整備で1点、さらに研修受講者がいる場合には+1点」という具合に両者はセット評価となっていましたが、精査の結果「両者は別個であり、MTP整備、研修受講者配置でそれぞれ1点加点」と見直されています。

▽大量輸血プロトコル(MTP:Massive Transfusion Protocol、外傷診療における大量輸血を可能とするプロトコルのことで、「必要量が外傷診療中絶えず供給される体制」をさす)を整備している:1点

▽自施設に外傷外科医等養成研修等の受講者(厚労省の委託事業である外傷外科医等養成研修事業や、SSTT運営協議会が運営するSSTTコースを受講した者、またはインストラクターとして参加している者)がいる:1点



この提案にも異論は出ていませんが、「外傷外科医等養成研修に関しては、「他の有益な研修コース」もあると思うので追加を検討する必要がある。またMTPについては、より具体的な「体制」を示す必要がある」(各施設の自己申告だけでは困る)との指摘が溝端構成員や大友座長から出されています。



また(4)では、現在「日本医療機能評価機構・ISOによる医療機能評価において認定を受けている」場合に2点の評価がなされていますが、ここに「国際的な医療機能評価機構であるJCI(Joint Commission International)による認定」も含めてはどうかという提案で、異論は出ていません。

「自傷・自殺未遂レジストリ」への登録を行う救命救急センターを高く評価へ

他方、(5)では、次のような新評価項目が提案されました。

▽救命救急センターで診療を行ったAIS3以上の外傷症例をすべて「日本外傷データバンク」に登録している:1点

▽上記に加え、救命救急センターで診療を行った自傷・自殺未遂者をすべて「自傷・自殺未遂レジストリ」に登録している:1点



後者は、主要先進7カ国の中で最も自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)が高い我が国において、「自殺・自傷に至ってしまった背景を詳しく分析し、国で総合的な自殺対策を推進・強化する」ことにつなげる意味合いがあります。

この点に反対する意見はなく、溝端構成員は「現在、自傷・自殺未遂レジストリへの参加は57施設にとどまっており、評価項目へ追加することで参加する救命救急センターの拡大を期待したい」と述べていますが、本多構成員は▼「自傷・自殺未遂レジストリ」登録以外のレジストリ登録(熱中症など)についても評価を検討すべきではないか▼データ登録にかかる医師等の負担増への配慮が必要である—とコメントしています。

厚労省は、こうした声も踏まえて「試行調査の中で、他のレジストリ登録などの評価の必要性がないか、登録にかかる医師の負担はどうかなどを検証し、最終の見直し内容を決定する」考えを示しました。



なお、上記5点の見直しと並行して、▼削除すべき項目(例えばすべての救命救急センターで実施され評価指標の意味が薄れているもの)はないか▼評価点などをどう考えるか(現在は100点満点だが、満点を100点よりも引き上げるのかなど)—も検討されます。また溝端構成員や本田構成員から「評価内容について、施設間・地域間でブレが出ないよう、定義や解釈のさらなる明確化に努めてほしい」との要望が出されており、この点も、今後検討されていきます。



今後、構成員意見も踏まえて「試行調査」内容を決定(来年(2025年)2-3月の救急・災害ワーキング)。その後、試行調査・最終検討を経て、再来年(2026年)から新たな充実段階評価が稼働する見込みです。

充実段階評価見直しスケジュール案(救急・災害ワーキング2 241220)



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