「出産費用の保険適用」によって「地域の周産期医療提供体制が崩壊」してはならない点を確認、出産ナビを順次、拡充・改善—出産関連検討会
2025.2.6.(木)
妊婦の出産費用負担を軽減するために、例えば「標準的な出産費用を保険適用する」ことなどが考えられるが、これによって「地域の周産期医療提供体制が崩壊」しては本末転倒である。妊婦の経済的負担軽減と、分娩施設の経営確保が両立できるような方策を検討する必要がある—。
2月5日に開催された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(以下、出産関連検討会)で、こうした議論が行われました。「分娩を取り扱う医療機関等の費用構造の把握のための研究」結果も待ってさらに議論を深め、今春(2025年春)頃の意見取りまとめを目指します。
なお「正常分娩の保険適用(現物給付化)」に関しては、出産関連検討会で「論点等を整理する」にとどめ、その後に社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的な議論が進められる見込みです。
地方では、産科クリニックなどが経営難で減少している点を直視しなければならない
Gem Medでも報じている通り、我が国では少子化が進行しており、昨年(2023年)には、1人の女性が生涯出産する子の数に相当する合計特殊出生率が全国で1.20、東京都では0.99にまで落ち込むという衝撃的なデータが示されました。
この方針を踏まえて厚生労働省・子ども家庭庁が出産関連検討会を設置し、12月11日の会合では、これまでの議論を踏まえて、今後、次の4つのテーマに沿って議論を深めていくことを確認しました。
(1)周産期医療提供体制の確保
(2)出産に係る妊婦の経済的負担の軽減
(3)希望に応じた出産を行うための環境整備
(4)妊娠期、産前・産後に関する支援策等
さらに2月5日の会合では、各テーマについて検討の方向性を確認しています。
まず(1)の「周産期医療提供体制の確保」と(2)の「出産に係る妊婦の経済的負担の軽減」に関しては、次のような方向性が示されました。
(a)「出産に係る平均的な標準費用を全て賄えるようにする」という基本的な考え方のもと、具体的な支援策の在り方を検討していく
(b)安全で質の高い周産期医療提供体制の確保を進める中、「保険適用を含む負担軽減策が地域の周産期医療の確保に影響を与えないようにする」ことが検討の前提となる
(c)分娩取扱施設における医療提供の実態や費用構造を踏まえた議論を行っていく(今春に早稲田大学政治経済学術院の野口晴子教授の研究班から報告が行われる見込み、関連記事はこちら)
(d)分娩に伴う診療・ケアやサービスには「妊婦の希望にかかわらず提供されるもの」(コア部分)と「妊婦が希望して選択するもの」(オプション部分)があると考えられ、それぞれに対する支援の在り方を検討する必要がある
(e)中長期的な視点に立った「今後の我が国の周産期医療提供体制のあり方」は、地域医療構想や医療計画に関する検討の場において、本検討会の意見も踏まえ検討していく
こうした点について▼(a)の出産費用軽減にあたっては『給付と負担のバランス』つまり、軽減分を負担する者(主に現役世代)の負担増について理解を得る必要がある。(d)のコア/オプション論議はまさに保険適用範囲の議論に直結する。そのためには分娩に関する費用の見える化から始めなければならない。(e)の医療提供体制は保険料で整備すべきものでなく、別の場で検討すべき(佐野雅宏構成員:健康保険組合連合会会長代理)▼(d)のコア/オプション論議では、無痛分娩をはじめとする「痛みの緩和」も保険給付範囲に含める方向で検討を進めるべき。「標準的な分娩」の内容を明確化すべき(松野奈津子構成員:日本労働組合総連合会生活福祉局次長)▼「標準的な分娩」の内容を整理すべき。妊産婦の経済負担軽減が重要ポイントだが、それがために分娩施設の経営が立ち行かなくなっては本末転倒である(濵口欣也構成員:日本医師会常任理事)▼地方では、妊婦への経済的支援の前に「分娩施設、とりわけローリスク分娩に対応する産科クリニック等への経営支援」が必要である(家保英隆構成員:全国衛生部長会会長/高知県理事(保健医療担当))▼正常分娩費用の現物給付化(いわゆる正常分娩の保険適用)で「子供を産む施設」がなくなっては本末転倒である。「子供が増える」方向ですべての政策を考えるべき(今村知明構成員:奈良県立医科大学教授)▼無痛分娩について妊婦側の関心が高いが、我が国では普及が低調で麻酔医確保も難しい。体制や自治体の支援状況などを見ながら、幅広く保険適用すべきか否かを検討する必要がある(田倉智之構成員:日本大学医学部主任教授)▼物価・人件費が高騰する中で、世界に冠たる本邦の周産期医療提供体制が崩壊の危機に瀕している。周産期医療体制の維持という側面も十分に検討してほしい(石渡勇参考人:日本産婦人科医会会長)▼小児科医による新生児ケアへの評価も十分に検討してほしい(細野茂春構成員:日本周産期・新生児医学会理事)—など様々な角度からの意見が出されています。
詳細は今後の議論を待つ必要がありますが、たとえば▼出産費用の分析を行ったうえで、「標準的であり保険給付すべき部分」と「オプションとして保険外併用を可能とする部分」(患者の自己負担で不可するサービス)に峻別する▼医療機関経営を維持できる点数水準とする▼妊婦の負担を考慮し、「自己負担軽減措置」を検討する—などの方向がおぼろげながら見えてきそうです。
また(3)の「希望に応じた出産を行うための環境整備」については次のような方向性が示されました。
▽妊婦の「費用」と「サービス」の関係を踏まえて出産施設を選択できる環境を整備するため、「出産なび」を通じた見える化を進める
▽正しい理解に基づく選択を行えるよう、妊娠中やその前段階からの情報発信、啓発を行っていく
▽「妊婦の希望に応じて、助産所等での出産や産後ケアを行えるような環境の整備」「無痛分娩など、出産に関する個別のニーズへの対応」なども引き続き議論していく
この点については、新居日南恵構成員(manma理事)から「サービスを拡充し、利用者が選択できる体制を構築することが重要である」とのコメントが出されています。
さらに、(4)の「妊娠期、産前・産後に関する支援策等」に関しては次の方向性が提示されています。
▽妊娠期から出産・子育てまで一貫して身近で相談に応じ、様々なニーズに即した必要な支援につなぐ伴走型の相談支援を充実するため、本年(2025年)4月から妊婦等包括相談支援事業と妊婦支援給付金(妊娠認定時に5万円・妊娠しているこどもの人数×5万円)を制度化し、相談支援と経済的支援を効果的に組み合わせて実施(妊婦等の身体的・精神的ケア、経済的支援を実施)
▽妊婦健診に必要な費用について、地方財政措置のさらなる充実とともに、自治体公費負担の状況等の見える化などの対応策を検討していく
▽ 産後ケア事業について、希望者すべてが利用しやすくなるよう、環境整備に取り組むとともに、事業周知等に用いる資材(リーフレット、動画)を国で今年度(2024年度)に作成する
▽産後ケア事業の受け皿をさらに拡大していくため、本事業を「地域子ども・子育て支援事業」に位置づけ、 国で体制整備の基本方針を定め、各都道府県で「量の見込み」「提供体制の確保の内容」などを定めた計画を策定し、計画的な提供体制整備を進める(2024年度補正予算で施設整備等補助も実施)
▽昨年(2024年)10月に改定した産後ケア事業ガイドラインで事業の利用手続き等が利用者の負担とならないよう、電話やオンライン等での受け付けを行うなどの配慮をするよう盛り込んでいる
この点に関しては、髙田昌代構成員(日本助産師会会長)から「自治体による体制整備に大きな差がある。多くの地域で伴走型支援が行われるような体制整備に期待したい」とのコメントが出されています。
今後、野口研究班による「分娩取扱施設における医療提供の実態や費用構造」研究結果も踏まえながら、各論点に沿ってさらに議論が深められます。今春(2025年春)の意見とりまとめが目指されていますが、論点も幅広いことから「年度をまたぐ」議論になると予想されます。なお「正常分娩の保険適用(現物給付化)」に関しては、出産関連検討会で「論点等を整理する」にとどめ、その後に社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的な議論が進められる見込みです。
「出産なび」、妊娠「前」からの利用も視野に拡充・改善を図る
また2月5日の出産関連検討会では、全国の産科医療機関の情報を一覧化した「出産なび」の拡充方向も議論されました。
出産なびは、昨年(2024年)5月からスタートし、妊婦等が「どの医療機関では、どの程度の出産費用が掛かるのか、どういったサービスがあるのか」などを比較検討するために大きな効果を発揮しています。
出産関連検討会でも、情報の拡充などを求める声が強く、厚労省は今般、次のような拡充方向案を提示し、了承されました。順次、改善・拡充が図られていきます。
▽妊娠「前」の方も含め、「出産なび」をより多くの方に活用していただくよう周知広報に取り組む
▽出産に関する情報のさらなる充実や、妊婦健診・産後ケアに関する情報の掲載に向け、医療機関・自治体等にとって過度な負担とならないよう留意し、具体的な情報収集等の進め方などを関係団体等と丁寧に調整していく
構成員からは、▼妊婦に役立つ様々な公的情報があるがバラバラである。ハブページを設け、そこから出産なびにもたどり着けるようにしてはどうか(中西和代構成員:ベネッセクリエイティブワークスたまごクラブ前編集長)▼自治体情報の掲載にあたっては、埋められない差(都市部と地方部では大きさな差がある)がある点への配慮もすべき(家保構成員)—などの注文が付いており、今後の改善・拡充に際して参考とされます。
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