イノベーション評価する薬価制度や、革新的医療機器早期承認制度で医療系ベンチャーを振興―厚労省
2016.8.1.(月)
医療系ベンチャー企業を振興するために、「規制を最適なものに緩和し、育成を目指す」などのパラダイムシフトを図り、日本と世界の保険医療水準向上とともに、日本経済の成長を牽引してもらう。具体的には、▽革新的医療機器の早期承認制度の構築▽イノベーションを評価する薬価制度の構築▽上市後もサポートを行う▽海外展開を支援する―といった取り組みを行う――。
厚生労働省は7月29日に、こうした内容を盛り込んだ「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」の報告書を公表しました。
健康・生命に関連するという医療分野の特性踏まえ、「最適な規制」を模索
報告書では、医療分野は「世界的に巨大な成長市場である」「我が国の中でも重要かつチャレンジングな市場である」ことから医療系ベンチャーの振興が重要であるものの、欧米に比べて我が国の医療系ベンジャー振興が立ち遅れている状況を憂慮。
その上でベンチャーを振興する上での課題を次のように整理しています。
▽医療分野は人の健康・生命に係る分野であり、古来から世界中で技術開発に取り組んできているため、イノベーションを起こすには「高度な科学・技術水準」が必要で、高い開発リスクも伴う
▽シーズ発見から実用化までに長期間(医薬品であれば10年以上)が必要で、これを支えるための多大な資金が必要である
▽医療、薬事、保険など諸制度への理解が不可欠である
▽医療分野の特性に精通し、かつ事業をマネジメントできる人材が必要となる
もっとも、こうした課題があるものの、我が国は教育水準や技術水準も高く、病院において一般的に臨床研究が行われるなど、ベンチャー振興のための下地は整っているという側面もあります。
そこで厚労省は、医療系ベンチャーを推進するための3原則(規制から育成へ、慎重からスピードへ、マクロからミクロへ)と3つの柱(エコシステムを醸成する制度づくり、エコシステムを構成する人材の育成と交流の場づくり、『オール厚労省』でのベンチャー支援体制の構築)を定め、これに沿って後述する具体的な取り組みを打ち出しています。
先に述べたように、医療分野は人の生命・健康に関連する分野であることから、厳しい規制が設けられています。例えば医薬品については、臨床研究のあり方から、製造・開発、さらには「広告」に至るまで、細かい規制があります。生命・健康を守るためのものではあるものの、一方で「革新的な製品」の開発にとって大きな壁ともなっています。そこで今後は、「最適な規制」を目指し、「さまざまなステークホルダーを説得し、各種施策を展開していく」との考えを示しています。
中医協で「イノベーション評価する薬価制度」などを検討するよう要請
報告書では、前述の「3つの柱」に沿って具体的な取り組みも提案しています。
まず1つめの柱である「エコシステムの醸成する制度」としては、(1)革新的医療機器の早期承認支援(2)イノベーションを評価する薬価制度(3)電子的な臨床データなどを活用したPMS(市販後調査)の推進や資金面での支援(4)海外展開の支援と輸出促進―などを打ち出しました。
このうち(2)については、▽医療系ベンチャーの費用構造を含む実態を調査し、その特性に対応した薬価での評価▽重篤な疾患の治癒が期待できる薬剤に対する、長期的な費用対効果評価を踏まえたイノベーションに対する上乗せ評価―などを中央社会保険医療協議会で検討するよう養成しています。中医協では、オプジーボなど超高額薬剤が数多く出現していることを踏まえて、「薬価制度全般の抜本的な見直し」を行う方針を確認しており、そこでは「薬価の引き下げ」のみならず、「イノベーションの十分な評価」も極めて重要な視点となることでしょう。
また2つめの柱である「エコシステムを構成する人材の育成と交流の場づくり」に関しては、▽医療系ベンチャー幹部と大手製薬・医療機器企業幹部をはじめとするキーパーソンとのマッチング活動▽メンター人材(医療系ベンチャーへのアドバイスを行う)の確保と紹介▽人材交流・流動化の促進▽人材育成▽日本版「パテントボックス制度」の創設―などを提言しています。
「パテントボックス制度」とは、英国で見られるような知的財産保有企業を優遇する仕組みで、ペーパーカンパニーでなく実態を伴うことを要件に開発投資減税や、知財関連の税控除などが考えられます。
さらに3つめの柱である「オール厚労省での支援」を行うために、省内に「ベンチャー等支援戦略室」(仮称)を、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に「小規模事業者シーズ実用化支援室」(仮称)を、臨床研究中核病院に「ベンチャー支援部門」を設置することを求めています。
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