看護職員の離職率、設立主体別・都道府県別に大きなバラつき、正規雇用では「その他公的」17.0%に対し「公立」は7.8%—日看協
2020.4.2.(木)
看護職員の離職率を見ると、全体では正規雇用・新卒ともに過去5年間で大きな変化はないが、設立主体別・都道府県別に見ると依然として大きなバラつきがある―。
また2020年度に採用予定の看護職員の平均給与は、諸手当込みでは大卒27万2018円、高卒+3年課程卒26万4307円、基本給は大卒20万7856円、高卒+3年課程卒20万1263円―となった。
日本看護協会が3月30日に公表した「2019年 病院看護実態調査」結果速報から、このような状況が明らかになりました(日看協のサイトはこちら)。
目次
看護職員に離職率、設立主体別・都道府県別に見ると大きなバラつき
日看協は毎年、病院看護職員の需給動向や労働状況、看護業務の実態などを調査(病院看護実態調査)しています(前年の状況に関する記事はこちら)。
2019年調査では、(1)看護職員の離職率(2)看護職員の給与など(3)夜勤状況(4)多様な勤務形態の導入(法定外で実施している制度)(5)地域における病院の役割認識および実施状況―の5点に焦点を合わせて調査が行われました。ポイントを絞って調査結果を眺めてみましょう。
まず(1)の離職率に関する調査です。
2022年からいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年にはすべて後期高齢者となることから、今後、地域の医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者の増加スピードは鈍化しますが、高齢者を支える現役世代の数が急速に減少するため、医療・介護提供体制の確保が極めて重大な課題の1つとなります。
この点、2018年度における看護職の離職率を見ると、▼正規雇用で10.7%(前年度から0.2ポイント低下)▼新卒で7.8%(同0.3ポイント上昇)―となっており、過去5年間で大きな変動はありません。
病院の規模別に見ると、▼99床以下:正規雇用11.5%(前年度から1.6ポイント低下)・新卒11.3%(同0.9ポイント低下)▼100-199床:正規雇用11.5%(同0.9ポイント低下)・新卒9.5%(同1.2ポイント低下)▼200-299床:正規雇用11.0%(同0.5ポイント低下)・新卒7.9%(同0.2ポイント低下)▼300-399床:正規雇用10.6%(同0.2ポイント上昇)・新卒6.8%(同0.7ポイント低下)▼400-499床:正規雇用10.2%(同0.1ポイント上昇)・新卒8.3%(同1.9ポイント上昇)▼500床以上:正規雇用10.4%(同0.1ポイント低下)・新卒7.4%(同0.4ポイント上昇)―という状況です。概ね「小規模になるほど離職率が高い」状況ですが、300床以上の病院で前年度よりも離職率が上昇している点が気になります。今後の状況を注視していく必要があるでしょう。
また設置主体別に見ると、離職率が高いのは、正規雇用では▼その他公的(日赤や済生会など以外):17.0%(前年度に比べ4.6ポイント上昇)▼個人:14.1%(同1.0ポイント上昇)▼医療法人:13.2%(同0.2ポイント低下)―など、新卒では▼済生会:11.6%(同1.6ポイント上昇)▼その他の法人(一般社団法人、宗教法人など):10.7%(同1.4ポイント上昇)▼社会福祉法人:9.9%(同3.0ポイント上昇)―などです。
逆に離職率が低いのは、正規雇用では▼公立(自治体立、地方独立行政法人など):7.8%(前年度に比べ0.1ポイント上昇)▼会社:8.2%(同2.0ポイント低下)▼農協:8.6%(同0.6ポイント低下)―など、新卒では▼その他公的:4.0%(同4.6ポイント低下)▼個人:5.0%(同6.1ポイント低下)▼農協:6.5%(同0.8ポイント上昇)―などとなりました。
気になるのは、「その他公的や個人立の病院では、正規雇用の離職率が高い一方で、新卒の離職率が低い」という点です。また、農協立病院では正規雇用・新卒ともに離職率が低く、どのような取り組みを行っているのか、今後の状況も見ながら、詳しい調査・分析が進められることに期待したいところです。
さらに都道府県別に見ると、離職率が高いのは、正規雇用では▼東京都:14.5%(前年度から増減なし)▼神奈川県:13.1%(同0.3ポイント低下)▼千葉県:12.8%(同1.1ポイント上昇)―など、新卒では▼愛媛県:12.2%(同3.4ポイント上昇)▼三重県:10.7%(同6.3ポイント上昇)▼東京都:10.6%(同2.1ポイント上昇)―などです。
逆に離職率が低いのは、正規雇用では▼岩手県:6.4%(前年度に比べ0.9ポイント低下)▼福井県:6.6%(同0.9ポイント低下)▼富山県:6.8%(同0.1ポイント低下)―など、新卒では▼福井県:0.6%(同2.4ポイント低下)▼沖縄県:3.2%(同1.6ポイント低下)▼富山県:3.6%(同0.7ポイント低下)―などとなっています。
正規雇用では、東京や大阪などの大都市とその周辺で高く、「転職しやすい」環境が大きく影響しているように思われます。
看護職員の平均給与、2020年度大卒採用は諸手当込みで27万2018円
次に(2)の「看護職員の平均給与」を見ると、次のような状況が明らかとなりました。
▽2020年度採用予定の新卒の初任給(諸手当込み)は、大卒で27万2018円(前年度に比べて637円増)、高卒+3年課程卒で26万4307円(同756円増)
▽同じく基本給は、大卒で20万7856円(同1248円増)、高卒+3年課程卒で20万1263円(同1369円増)
▽勤続10年・非管理職の給与(諸手当込み)は32万773円(同1338円減)、基本給は24万5459円(同1013円増)
夜勤手当の平均、二交代制では1万1026円、三交代深夜金では5033円に
また(3)の「夜勤」に目を移すと、形態は▼二交代制勤務(変則二交代制含む):58.5%▼三交代制勤務(変則三交代制含む):29.5%―という状況です。
夜勤手当の平均額は、▼二交代制夜勤:1万1026円(前年度に比べて7円増)▼三交代制深夜勤務:5033円(同20円減)▼三交代制準夜勤:4141円(同51円増)―となりました。
さらに月平均夜勤回数を見ると、▼三交代制:7.6回(前年度に比べて0.3回増)▼二交代制:4.7回(同0.2回増)―という状況です。ただし分布を見ると、▼三交代制では「7-8回未満」(28.6%)、「8回超-9回未満」(25.3%)▼二交代制では「4回超-5回未満」(38.2%)、「3-4回未満」(18.3%)―が多くなっています。
また、「1か月間に夜勤を行わなかった看護職員の割合」は、全体では13.5%で、病院単位でみると「10-20%未満」が30.9%と最も多くなっていますが、「0%」の病院が3.6%、「30%以上」の病院が13.6%あるなどバラつきも見られます。継続調査が期待されます。
さらに、日看協作成の「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」(2013年)に基づく勤務編成の実施状況を見ると、実施割合が高いのは▼夜勤の連続回数は2回まで:87.2%▼夜勤の途中で1時間以上の休憩時間確保:85.7%▼1回の夜勤後、概ね24時間以上の休息確保:84.3%▼夜勤・交代制勤務者の朝7時前の早出回避:80.5%―など、逆に実施割合が低いのは▼2連続夜勤後、概ね48時間以上の休息確保:47.8%▼拘束時間13時間以内:29.3%▼正循環の交代周期:27.1%―などとなっています。
2020年度の診療報酬改定では、「夜勤の連続回数は2回まで」などの効果(看護師の夜間勤務負担軽減の効果)は大きくなく、逆に「早出や遅出などの看護ニーズに応じた勤務の導入・活用」の効果が大きいという医療現場の声を踏まえた見直し(【夜間看護体制加算】の施設基準見直し)が行われています。今後も、看護師の夜間勤務負担軽減に向けて、実態調査や仕組みの見直し検討などを進めていく必要があります(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
看護職員の「治療と仕事の両立」、規定・運用含めて7割超の病院で導入
看護師においても(4)の「多様な働き方」の実現が重要課題となっています。例えば「子育て」や「介護」などの事情があっても、柔軟な勤務体制を敷くことで離職をせずに働き続けられる環境整備が重要となるのです。
今回の調査では、▼年休が半日単位で利用できる制度:規定・運用あわせて91.3%の病院で導入▼退職した職員の再雇用制度:同88.1%▼育児・介護の理由以外の夜勤への配慮(夜勤の免除や回数軽減):同87.1%▼治療と職業生活の両立のための支援制度(がん治療・不妊治療・傷病等):同73.0%―といった柔軟な働き方を認める仕組みの導入が多いことが分かりました。「治療と職業の両立」について医療現場ならではの配慮が相当程度なされている点に心強さを感じます。
一方、▼能力開発のための休職・休暇制度:同51.5%▼社会貢献・ボランティアのための休職・休暇制度:同41.8%▼育児・介護の理由以外の短時間勤務制度:同39.0%―などは、まだ十分に浸透しているとは言い難い状況です。
退院前後の患者宅訪問指導など、多くの病院で必要性を認識し、かつ積極実施
最後に、(5)の「地域における病院の役割認識および実施状況」について見てみましょう。地域医療構想をはじめとすると「地域医療提供体制の再構築」が進む中で、地域の人口動態(端的に患者数の動向)や自院の機能、他院の動向などを踏まえながら、「自院の将来の在り方」をスタッフ全員で考えていくことが重要です。
この点に関連して、自院の地域における役割としては、▼退院「前」の患者宅への訪問指導の実施(69.8%)▼地域住民への教育・啓発活動(68.3%)▼退院「後」の患者宅への訪問指導の実施(63.8%)―などがあげられ、実際にそうした機能を積極的に果たしている状況が確認できました。求められる機能のさらなる推進に期待が集まります。
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