患者の期待に応えるため、かかりつけ医同士の連携などが急務—日医総研
2017.7.28.(金)
かかりつけ医を持つ人の多くは「かかりつけ医と自身(患者)との信頼関係が構築できている」と考えているが、一部に「期待と実際とのギャップ」を感じる人もおり、かかりつけ医の研修や、かかりつけ医同士の連携を進める必要がある—。
日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が26日に公表したワーキングペーパー「第6回 日本の医療に関する意識調査」から、このような状況が明らかになりました(日医総研のサイトはこちら)(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
目次
医療全般への満足度は74.2%、自身の受けている医療への満足度は92.3%
この調査は2002年から実施されているもので、6回目となる今回では今年(2017年)に1200人の20歳以上の男女を対象に行われました。
まず日本医療全般に対する評価を見ると、「満足している」が14.8%、「まあ満足している」が59.3%で、74.2%の国民が一定の評価をしている状況がうかがえます。しかし、自身が受けた医療の満足度を見ると、「満足している」が28.8%、「まあ満足している」が63.5%で、合計92.3%が評価しています。いずれも過去の調査に比べて「満足度」が高くなっています。
どのような点を評価しているのかについては、▼医療の技術(85.2%)▼個人情報に対するセキュリティ(61.1%)▼医療の安全性(60.6%)―などをあげる声が多く、逆に評価できない点としては▼国民の医療費負担(24.4%)▼夜間休日の医療へのアクセス(17.3%)▼医療の効率性(14.8%)―などで不満を感じていることが分かりました(いずれも複数回答)。
また「医療における重点課題」としては、▼高齢者などの長期入院施設・介護老人保健施設の整備(49.5%)▼夜間・休日の診療や救急医療体制の整備(46.8%)―をあげる声が多く、さらに地域の医療・介護に関する不安として▼将来、自分が希望する介護サービスをうけられるか(51.8%)▼地域で高水準のがん治療が受けられるか(44.8%)▼希望する場所で最期を迎えられるか(43.8%)―などが目立ちます。
自身が受けた医療(目の前の医療)と、我が国全般の医療とで、満足度に差が出ている背景には、こうした課題・不安に対して、国民の目に見える形での解決策が見えていないことがあると思われます。より広範な意見を取り入れ、分かりやすい形で議論していくことが「満足度ギャップ」を埋めるために必要です。ただし、その際には「応分の負担が求められる」点についても明確に示していくことが求められるでしょう。
国民の7割は「かかりつけ医」の必要性を認識
次に「かかりつけ医」に関する意識を見てみましょう。社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会では、経済財政諮問会議などの指摘を踏まえ「かかりつけ医受診の促進」「大病院を紹介状なしで外来受診した場合の特別負担」などに関する議論を行い、一部はすでに2016年度の前回診療報酬改定で導入されています。
今回の調査では、「かかりつけ医がいる」と答えた人が55.9%と半数を超えており、「現在はいないが、いると良いと思う」人も14.4%おり、国民の7割は「かかりつけ医」の必要性を認識していることが分かりました。
「かかりつけ医がいる」人の割合を年代別に見ると、▼70歳以上では81.6%▼60歳代では66.4%▼50歳代では54.4%▼40歳代では43.9%▼20-30歳代では31.5%—となっています。男女別では、男性49.3%、女性61.6%で、女性で多くなっています。
また健康状態が良くない人、慢性疾患で日常的に診療を受けている人では、「かかりつけ医がいる」と答える割合が高くなっています。「かかりつけ医がいる」人の受診回数(過去1年間)を見ると、「月に1回程度」がもっとも多く32.2%、次いで「年3-10回程度」24.3%、「年1-2回程度」22.2%も多く、「受診なし」という人も10.7%います。この点について日医総研では「大病院の外来受診の際の患者負担があることを知っている人は、知らない人よりもかかりつけ医を持つ傾向が1.291倍高い」点を指摘しており、経済的な誘導も「かかりつけ医の推進」に重要と考えられます。
「かかりつけ医」への信頼状況を見ると、7-8割程度の人(かかりつけ医がいると答えた人が母数)が「自分を理解してくれている」「健康全般や治療に責任をもってくれている」「心配事などを話す時間を十分にとってくれている」と答えていますが、「話す時間」に不満を感じる人も15.3%います。日医総研はこうしたギャップを埋める必要があるとし、▼医師研修のさらなる充実▼かかりつけ医同士の連携体制を支援する地域の取り組み—などを進める必要があると訴えています。
さらに、「かかりつけ医をどう探すのがよいか」については、全体では▼現在かかっている医師からの紹介(51.9%)▼地域のかかりつけ医の経歴・専門分野を紹介するホームページから(41.3%)―が多くなっています。年代別に見ると、若い人では「ホームページ」などを重視し、高齢になると「医師からの紹介」を重視する傾向があります。前述のように、若い世代で「かかりつけ医がいない」割合が高いことから、積極的なホームページの充実・活用などを進めることが重要と言えます。
また、病気になった際に、「自分で医療機関を選んで受診する」べきか、「かかりつけ医などを受診し、必要に応じて専門医療機関を紹介してもらう」べきかについて、前者と考える人は29.5%、後者と考える人は67.3%ですが、「かかりつけ医がいる」人では後者が73.9%、「かかりつけ医がいない」人では後者が59.2%となっています。我が国医療の大きな特徴である「フリーアクセス」の面からは、前者を選択することももちろん認められますが、▼専門医療機関を詳しく知っているのは医師である▼医療機関の機能分担が求められている—点などを考慮すれば、後者を選択する人の増加を期待したいところです。
「かかりつけ医」を持つことが、医療の適正利用につながる
次に「医療の適正利用」に関する考えを見ると、半数超(52.5%)の人が「国民が必要以上に医療を利用している」と考えていることが分かりました。年代別・居住地域別に大きな差はありません。
医療の適正利用のために重要なこととしては、▼自身の健康管理を行う(70.0%)▼救急車を安易に呼ばない(59.5%)▼かかりつけ医をもつ(41.9%)▼重複受診を減らす(38.1%)―などをあげる声が多く、とくに65歳以上の高齢者では「かかりつけ医を持つ」べきと考える人が51.9%にのぼっています。実際にかかりつけ医を持つ人の過半数が、「かかりつけ医を持つことが、医療の適正利用につながる」と考えているデータは注目すべきでしょう。
人生の最終段階の医療について意思表示したいが、やり方が分からない人も
一方、「人生の最終段階における医療」への考え方を見ると、▼今は考えていないが、必要になったら意思表示をしたい(62.0%)▼家族などに意向を示した(21.3%)―と考える人が多い一方で、「意思表示をしたいが、どうすればよいか分からない」という人も15.0%おり、行政などからの情報提供・支援の拡充が求められます。
また「治る見込みがない場合の最期までの療養生活の場」については、▼自宅で療養し、必要になれば医療機関に入院したい(32.8%)▼自宅で療養し、必要になれば緩和ケア施設に入院したい(24.8%)―が多くなっていますが、「最期まで自宅で療養したい」という人も19.6%います。
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