かかりつけ医確保に向け、地域包括診療料などの要件を緩和せよ―日医総研
2017.3.3.(金)
2018年度の次期診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会では「かかりつけ医機能の評価」がテーマに取り上げられました。
日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は2月28日付けで、「かかりつけ医機能と在宅医療についての診療所調査結果」(2016年11月実施)というワーキングペーパーを公表しました。▼地位包括診療料・地域包括診療加算の要件緩和▼在宅療養支援診療所以外の在宅医療を行う診療所の評価―などを提案しています。
地域包括診療料、「24時間の在宅患者対応」負担が重い
この調査は、「かかりつけ医機能」や「在宅医療への取り組み」などの実態を把握するために、日医会員である診療所の開設者・管理者を対象に昨年(2016年)11月に実施されました。有効回答数は1603となりました。
まず「かかりつけ医機能」の実態を見てみましょう。
2014年度の診療報酬改定で、主治医機能を評価する「地域包括診療料」「地域包括診療加算」が、2016年度の前回改定では「認知症地域包括診療料」「認知症地域包括診療加算」が新設されました。2月22日に開催された中央社会保険医療協議会総会で、厚生労働省保険局医療課の迫井正深課長は「かかりつけ医機能は、主治医機能をさらに拡大するもの」という旨を説明しています。
診療所がこれらを届け出るための施設基準は、▼慢性疾患の指導に係る適切な研修を修了した医師の配置▼健康相談実施に係る院内掲示▼院外処方の場合には24時間対応薬局との連携▼敷地内禁煙基準の遵守▼要介護認定に係る主治医意見書の作成と、介護サービス事業所の併設など▼在宅医療の提供・24時間対応に係る院内掲示と、時間外対応加算1の届け出、常勤医師2名以上の配置、在宅療養支援診療所―などと厳しく設定されており(2016年度改定で常勤医師3名以上から2名以上などへの緩和が行われたが)、届け出・算定が進まないと指摘されています。今般の調査でも、「地域包括診療料(加算)の届出割合は全体で7.4%、内科で13.0%となっており、今後大きく拡大する見込みなし」「認知症地域包括診療料(加算)の算定割合は、内科では5.3%、今後1年程度で若干の拡大見込み」という状況が明らかになりました。
届け出が進まない大きな理由は施設基準の厳しさにあると推察されますが、調査では「在宅患者に対する24時間対応」がもっとも負担感が大きくなっていることが分かりました。
日医総研では、この結果を受け「多くの診療所で医師は1名であり、かかりつけ医確保のために、診療所医師の負担軽減も考慮して現実的な要件にすべき」と提案しています。
また2016年度改定では、小児への主治医機能を評価する「小児かかりつけ診療料」が創設されました。施設基準としては、▼小児科・小児外科担当の常勤医師1名以上▼小児科外来診療料の算定▼時間外対応加算1また2の届け出―とされ、小児科・小児外科の常勤医師には、「在宅当番医制等により初期小児救急医療に参加し、休日・夜間の診療を月1回以上行う」「乳幼児健診を実施する」「定期予防接種を実施する」「過去1年間に15歳未満の超重症児・準超重症児へ在宅医療を提供する」「幼稚園の園医また保育所の嘱託医に就任する」ことが必要となります(これらのうち3つ以上)(関連記事はこちら)。
今般の調査では、このうち「初期小児救急医療に参加、休日・夜間の診療を月1回以上行う」ことが難しく、実施している小児科医でも35.5%が負担であると回答しています。今後の中医協論議で、検討テーマに上がってくる可能性が高そうです。
在支診以外のクリニックでも、在宅医療を一定程度実施している
次に「在宅医療」の実態を見てみましょう。
在宅医療の重要な担い手の1つとして「在宅療養支援診療所」(在支診)があります。今般の調査では、「全体の15.3%(機能強化型2.9%、機能強化型以外12.4%)、内科を標榜するクリニックの26.5%(機能強化型4.6%、機能強化型以外21.9%)が、在支診を届け出ている」状況が分かりました。クリニックの一定割合が在宅医療に積極的であることが伺える結果です(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
ただし、日医総研は「在支診と同じ程度の割合で、在支診を届け出ずに訪問診療などの在宅医療を提供しているクリニックがある」点に注目しています。地域包括ケアシステムの構築が国の最重要課題の1つに位置付けられる中、その要となる在宅医療の推進が求められ、裾野を広げる必要があるからです。しかし、在支診以外で在宅医療を実施しているクリニックの中には▼24時間の往診体制▼医師自身の体力▼24時間の連絡応需―などが負担となり、縮小・撤退を考えているところが3割あることが分かりました。とくに無床のクリニックでは、24時間対応や入院病床の確保が困難です。
そこで日医総研は次のような対応を図るよう提案しました。
▼在支診のみならず在宅医療を行う診療所に対して広く評価を行う
▼在宅医療を担う診療所の負担軽減
▼受け皿となる入院施設の確保
▼家族・地域の事情に合った、診療報酬にとどまらない施策
在支診であれば、在宅時医学総合管理料や訪問診療料、往診料などの点数が高く設定されますが、そうでなければ訪問診療などを行っても報酬は一定程度低く抑えられてしまいます。これまでの中医協でも診療側委員から同様の指摘があり、今後も議題となることでしょう。
外来後発医薬品使用体制加算の届け出は3割程度、施設基準の緩和を
ところで、政府は医療費適正化の一環として「後発医薬品の使用」を進めており、これまでに「一般名処方加算」や「外来後発医薬品使用体制加算」というインセンティブ付与を行っています。
外来後発医薬品使用体制加算は、2016年度の診療報酬改定で新設された処方量の加算で、後発医薬品の使用割合が5割以上あるいは7割以上などの施設基準を満たした診療所で届け出が可能です。
今般の調査では、66.8%の診療所が外来後発医薬品使用体制加算を届け出ていないことが分かりました。その理由としては、▼後発医薬品使用割合の基準が難しい▼後発医薬品使用割合の計算や届け出が煩雑―などがあげられています。日医総研では「届出要件が複雑かつ基準が厳しいために活用されていない。要件を見直す余地がある」と訴えています(関連記事はこちら)。
また、半数程度のクリニックでは依然として後発医薬品の品質・効果に疑問を感じていることも分かっており、国に対して「さらに国民、医師の理解を得られるように努めるべき」と強調しています。
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