2015年度の特定健診実施率は50.1%、特定保健指導実施率は16.7%にとどまる―厚労省
2017.8.1.(火)
40歳以上の人を対象とした特定健診(いわゆるメタボ健診)の実施率は、2015年度に50.1%となり、前年度に比べて1.5ポイント上昇したものの、国の掲げる目標値である70%(2012年度目標値)には届いていない―。
こうした状況が、厚生労働省が7月31日に発表した2015年度の「特定健康診査・特定保健指導の実施状況」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)。
特定健診、65歳以上の高齢男性で実施率が目立って低い
特定健診は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健診で、▽服薬歴、喫煙歴の有無▽身長・体重・BMI(Body Mass Index)・腹囲▽血圧▽尿(尿糖・尿タンパク)▽血液(脂質・血糖・肝機能)―などを調べます。糖尿病や高血圧症などの生活習慣病の有病者・予備群が増加していることから、2008年4月から40歳以上74歳以下の人を対象に実施されています。
2015年度の特定健診実施状況をみると、対象者約5396万人に対し受診者は約2706万人で、実施率は50.1%でした。前年度に比べて1.5ポイント、実施初年度(08年度)に比べて11.2ポイント増加しており、着実に向上していますが、国の掲げる目標値「70%以上」に比べて、まだ大きな乖離があります。
実施率を年齢階級別に見ると、全体では▼40-44歳:54.6%(前年度に比べて1.8ポイント増)▼45-49歳:55.0%(同1.6ポイント増)▼50-54歳:55.8%(同1.5ポイント増)▼55-59歳:53.9%(同1.7ポイント増)▼60-64歳:46.2%(同2.0ポイント増)▼65-69歳:42.3%(同1.2ポイント増)▼70-74歳:43.0%(同0.8ポイント増)―で、65歳以上の高齢者で低くなっていまます。
さらに性別・年齢階級別に見ると、男性では▼40-74歳:55.1%(同1.5ポイント増)▼40-44歳:62.3%(同1.4ポイント増)▼45-49歳:62.7%(同1.2ポイント増)▼50-54歳:63.3%(同1.3ポイント増)▼55-59歳:61.0%(同1.6ポイント増)▼60-64歳:50.2%(同2.4ポイント増)▼65-69歳:41.8%(同1.3ポイント増)▼70-74歳:41.7%(同0.8ポイント増)―、女性では▼40-74歳:45.3%(同1.7ポイント増)▼40-44歳:46.4%(同2.2ポイント増)▼45-49歳:47.0%(同2.0ポイント増)▼50-54歳:48.1%(同1.8ポイント増)▼55-59歳:46.8%(同1.9ポイント増)▼60-64歳:42.4%(同1.7ポイント増)▼65-69歳:42.8%(同1.1ポイント増)▼70-74歳:44.2%(同0.8ポイント増)―という状況です。65歳未満では「女性に比べて男性で実施率が高い」状況ですが、65歳を超えると逆転し、65歳以上の男性における受診率の低さが目立っています。
特定健診の実施主体は健保組合や協会けんぽ、市町村国保などの医療保険者です。保険者別の実施率を見ると、もっとも高いのは主に大企業の会社員とその家族が加入する健保組合(単一)の76.2%(同1.5ポイント増)で、次いで公務員などの加入する共済組合の75.8%(同1.6ポイント増)となりました。逆に実施率が低いのは、市町村国保で36.3%(同1.0ポイント増)、とくに大規模(市)の運営する国保では29.1%にとどまり、前年度と同水準にとどまっています。
男性では、若いうちは会社務めをする人が多いことから、会社の実施する毎年の健康診査で特定健診を受ける機会が一定程度確保され(強い受診勧奨を受ける)、「65歳未満では男性で実施率が高い」状況に結びついています。しかし、定年を迎え市町村国保の適用対象となると、健診の機会自体は確保されているものの、受診勧奨が個人個人にまで及ばないことが、「高齢になってからの実施率低下」を招いているものと予想されます。また女性の中でも、被用者保険の被扶養者(夫が会社員)については医療保険者や企業(会社)による受診勧奨が強く働かず、「女性全般で実施率が低い」状況を生んでいると考えられます。
こうした状況を踏まえ、厚労省は特定健診実施率向上などに向けたインセンティブとして「後期高齢者支援金の加算・減算制度」(実施率が高ければ支援金負担が小さくなり、実施率が低ければ逆に重くなる)を設けていますが、2016年度以降は、これらを一部見直し、例えば健保組合や共済組合においては「加算・減算制度の拡充」(加算率・減算率ともに引き上げ)を、国保では、特定健診実施率などに着目した新たな「保険者努力支援制度」(実施率が高い国保などに交付金を交付する)を段階的に実施していきます。なお、2017年度実施分からは各医療保険者の特定健診実施率が公表されることになっており、各医療保険者の積極的な取り組みに期待が集まります(関連記事はこちら)。
医療保険者による特定保健指導対象者への介入がポイントか
特定健診の結果、例えば血圧などに健康リスクがあり生活習慣の改善が必要であると判断された場合には、「特定保健指導」が行われます。これは健康リスクにより次の2つに分けられます。
(1)動機付け支援:腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上で、▼空腹時血糖値100mg/dL▼中性脂肪150mg/dL▼最高血圧130mmHgまたは最低血圧85mmHg以上―のいずれか1つに該当する人などが対象
(2)積極的支援:腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上で、▼空腹時血糖値100mg/dL▼中性脂肪150mg/dL▼最高血圧130mmHgまたは最低血圧85mmHg以上―のいずれか2つに該当する人などが対象
(1)の動機付け支援は、医師や保健師などの指導のもとに行動計画を作成し、生活習慣改善に取り組めるように、専門家が原則1回の動機付けを行うもの。(2)の積極的支援は、3か月以上複数回にわたる継続的な支援を行うものです。
2015年度に特定健診を受けた人のうち、特定保健指導の対象になった人は16.7%で、このうち特定保健指導が終了した人は17.5%(前年度に比べて0.2ポイント減)でした。こちらも、国の掲げる目標値「45%」に比べて大きな乖離があります。
実施率を年齢階級別に見ると、全体では▼40-44歳:14.8%(同0.5ポイント減)▼45-49歳:16.8%(同0.4ポイント減)▼50-54歳:17.0%(同0.4ポイント減)▼55-59歳:17.3%(同0.1ポイント減)▼60-64歳:16.1%(同0.5ポイント減)▼65-69歳:22.1%(同0.5ポイント減)▼70-74歳:26.2%(同1.2ポイント減)―で、若年者ほど低く、また65歳未満では全年齢階層で前年度より低下してしまっています。
また性別・年齢階級別に見ると、男性では▼40-74歳:17.5%(同0.2ポイント減)▼40-44歳:15.3%(同0.4ポイント減)▼45-49歳:17.3%(同0.4ポイント減)▼50-54歳:17.5%(同0.4ポイント減)▼55-59歳:17.7%(同増減なし)▼60-64歳:15.5%(同0.4ポイント減)▼65-69歳:20.8%(同0.4ポイント減)▼70-74歳:25.6%(同1.2ポイント増)―、女性では▼40-74歳:17.5%(同0.5ポイント減)▼40-44歳:12.2%(同0.7ポイント減)▼45-49歳:14.4%(同0.4ポイント減)▼50-54歳:15.0%(同0.4ポイント減)▼55-59歳:15.9%(同0.7ポイント減)▼60-64歳:17.9%(同0.6ポイント減)▼65-69歳:24.9%(同0.6ポイント減)▼70-74歳:27.4%(同1.4ポイント増)―という状況です。男女ともに若い年代で実施率が低く、またほとんどの年齢階層で前年度よりも低下しています。
さらに実施率を保険者別にみると、もっとも高いのは、特定健診対象者数が5000人未満の小規模な市町村国保で38.3%(同0.9ポイント増)、次いで、特定健診対象者が5000人以上10万人未満の中規模な市町村国保24.3%(同0.6ポイント増)、単一の健保組合22.5%(同1.0ポイント増)となっています。小規模な市町村国保と単一健保組合で実施率が高いことから、「医療保険者が加入者を的確に把握し、こまめな指導を実施する」ことが、実施率向上のポイントと言えそうです。
非服薬者のメタボ減少率は12.7%、特定保健指導の効果と考えられる
最後に特定健診・特定保健指導の目的である「メタボ該当者・予備軍の減少率」を見てみると、2015年度は2008年度に比べて2.74%と、わずかに減少していることが分かりました。
これを、生活習慣病治療薬を服用しているか否かに分けて見てみると、服薬者ではメタボ割合が3.6%増加している一方、服薬していない者では12.7%減少しています。特定保健指導の対象者は「服薬していない者」に限定されるので、12.7%の減少率は、特定保健指導に一定の効果があると考えられます。
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