2023年度の薬価中間年改定、対象範囲や適用ルールなどの議論深まらず—中医協・薬価専門部会
2022.11.17.(木)
来年度(2023年度)に予定されている「薬価の中間年改定」について、対象範囲や適用ルールなどをどう考えていくか—。
11月16日に開催された中央社会保険医療協議会・薬価専門部会でこういった議論が行われました。どの論点についても、診療側・支払側双方から「これまでと同様の意見」が出るにとどまっており、議論がなかなか深まっていきません。
中間年改定の対象は2021年度の前回改定に倣うべきか
来年度(2023年度)の中間年薬価改定に向けた議論が続いています。
2017年末のいわゆる4大臣合意に基づいて、薬価制度の抜本改革が2018年度から進められています(関連記事はこちら(2018年度改革)とこちら(2020年度改革))。その一環として「毎年度の薬価改定実施」(2年に一度、診療報酬改定と同時に行われる通常の薬価改定+診療報酬改定の行われない年に行われる中間年改定)があります。
来年度(2023年度)は中間年改定の実施が予定されており、薬価専門部会で「対象範囲をどう考えるか」「適用ルールをどう考えるか」といった議論が進められています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
11月16日の薬価専門部会では、これまでの議論を踏まえた論点整理が行われました。
まず、「2年に一度、診療報酬改定と同時に行われる通常の薬価改定)と「診療報酬改定の行われない年に行われる中間年改定」(とりわけ2023年度)との位置付けをどう考えるかという点については、診療側委員・支払側委員ともに「4大臣合意に基づき、中間年改定は『通常改定とは異なる』ものである」との考えを示しています。財務省の「中間年改定も、通常改定と同様とすべき」との考えを牽制していると言えそうです。
次に「改定品目の範囲」が問題となります。通常改定では、基本的に「すべての医療用医薬品(全品目)」が薬価見直しの対象となります(検討の結果、見直しが行われないものもある)が、中間年改定では▼4大臣合意において「価格乖離の大きな品目」とする▼薬価制度抜本改革に向けた中医協論議の中で「国民負担の軽減の観点から、できる限り広く」する—考えが整理されています。
11月16日の薬価専門部会では、次のような意見が出されています。これまでの議論と同様であり「議論が深まってきた」状況にはありません。
▼薬価と実勢価格との乖離が大きなものに限定すべき。2021年度改定時の「乖離率5%(平均乖離率8.0%の0.625倍(0.5-0.75倍の中間)に相当)を超える品目を薬価改定の対象とする」との考えを前提にせず、「乖離率が大きいとはどの程度か」を考え、さらに物価高騰や為替変動、医薬品の安定供給、新型コロナウイルス感染症の第8波なども踏まえて対象範囲を考えるべき(診療側の長島公之委員:日本医師会常任理事)
▼乖離の大きなもの、少なくとも「平均乖離率(調査品目全体の乖離率平均)より乖離が大きなもの」に限定すべき(診療側の有澤賢二委員:日本薬剤師会常務理事)
▼実勢価格を薬価へ適時に反映し、国民の負担を減らすために「乖離の大きなものを、できるだけ広く」中間年改定の対象にすべき。基本的には2021年度改定時の「乖離率5%(平均乖離率8.0%の0.625倍(0.5-0.75倍の中間)に相当)を超える品目を薬価改定の対象とする」との考えがベースとなり、これを見直すには相応の根拠が必要である。また2021年度改定に向けて議論が深められなかったが「乖離の額」にも着目した範囲設定を行うべき。コロナ感染症の状況は2年前と大きく変化しており、特例対象はすべきでない(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)
▼現下の物価高騰・為替変動による製造コストの増加、安定供給不安が長引いている中では中間改定はすべきでないが、仮に実施するとした場合でも「新薬創出適応外薬解消等促進加算の対象品目や基礎的医薬品など医療上の必要性の高い医薬品」は対象から除外すべき(製薬メーカー代表である赤名正臣専門委員:エーザイ株式会社常務執行役)
このうち松本委員の述べる「乖離額への着目」を振り返っておきましょう。
例えば、次の2つの医薬品を比較してみます。
(A)「1000円の薬剤が890円で取り引きされている」場合→乖離率は11%、乖離額は110円
(B)「100万円の薬剤は91万円で取り引きされている」場合→乖離率は9%にとどまるが、乖離額は9万円と大きい
改定対象が「乖離率10%以上」と設定された場合には、(B)医薬品は薬価の見直し対象から外れます。しかし、医療保険財政・国民負担への効果という側面からは「(B)医薬品も薬価見直しの対象にしたほうがよいのではないか」とも考えられます。このため、2021年度改定に向けた議論の中では、支払側委員から「乖離率と、乖離額を組み合わせて、改定(薬価引き下げ)対象品目を選定すべき」「乖離率が小さくなりがちな先発品と乖離率が大きくなりがちな後発品とに分け、、改定対象品目を選定する基準を設定すべき」などの意見が出されていました。結論から述べると、この提案は採択されませんでしたが、今後の中医協論議の中では「議論が再燃する」可能性も否定できません。
中間年改定の適用ルール、新薬創出等加算の累積控除など実施すべきか
また、適用する既収載品目の算定ルールについては、2019年度(消費税対応改定・2021年度(中間改定)ともに「実勢価改定に連動しその影響を補正するもの」(下表の赤色部分)のみが適用され、「それ以外のもの」(下表の青色部分)は適用されませんでした。
これまでの議論と同様に診療側の長島委員や有澤委員からは「中間年改定は通常改定と異なる位置付けであり、従前どおり『実勢価改定に連動しその影響を補正するもの』の適用に限定すべき」と強調。これに対し、支払側の松本委員は「新薬創出等加算の累積額控除や、長期収載品から後発医薬品への置き換えを促進するためのG1・G2ルールなどは『実勢価改定に連動しその影響を補正するもの』といえ、2023年度改定でも適用すべき」と訴えています。
【新薬創出・適応外薬解消等促進加算】は、「通常、改定の都度に価格が下がっていく医薬品」のうち、▼製品に革新性があり、医療現場にとって欠かせない(品目要件)▼当該製品を開発するメーカーが、革新的な創薬に向けた成果を出している(企業要件・企業指標)―という2軸で選定した医薬品について、「一定程度の薬価の維持」(薬価引き下げの猶予)を認める仕組みです。薬価の一定程度維持により得られる原資を「優れた医薬品の開発」に投資することを期待するものです。
ただし、永久に「一定程度の薬価維持」が認められるものではなく、一定期間後(後発品が上市された後、または薬価収載から15年経過後)には、薬価改定の折に「それまで猶予されていた分の価格引き下げ」(累積控除)が行われます。
また、G1・G2ルールは「長期収載品(特許切れ品目)から後発品への置き換え」を進めるために、「置き換え率に応じて、段階的に長期収載品の薬価を下げていく仕組み」です。
この点、累積控除やG1・G2実施が遅れれば、その期間、薬価は高いままに維持されることになり、結果として「患者負担、医療保険の負担が大きくなる」ことに繋がります。松本委員は「国民負担の軽減のため、中間年改定でも累積控除を行うべき」との考えを示しています。
このほか、▼供給不安が生じている医薬品について「特別の対応」(対象範囲からの除外や、薬価引き下げの緩和、さらには「薬価の引き上げ」などを行うべきか)をどう考えるか▼調整幅の在り方をどう考えるか(関連記事はこちら)—という論点が示されていますが、賛否両論が出ている状況に変化はありません。
このように来年度(2023年度)の薬価中間年改定については「同様の意見陳述が繰り返され、議論が深まらない」状況です。今後、薬価調査結果を踏まえて、さらに議論を深めていきますが、最終的には「中間年改定実施の是非」「対象範囲」「適用ルール」全体を政治決着することになりそうです。
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