「医療・介護DX」推進の鍵は医療・介護現場、国民、患者等の「理解と納得」、十分な情報提供と支援を—健康・医療・介護情報利活用検討会
2024.9.13.(金)
医療・介護情報を共有・利活用し「より質の高い医療・介護サービス」につなげていく取り組み(医療・介護DX)が進んでいるが、DX推進の鍵は「医療・介護現場、国民、患者等の理解と納得」である。メリットとともにリスク、リスクへの対処策などを十分に情報提供する必要がある—。
また、医療・介護現場の負担は重く、DX加速化のためには「十分な支援」も必要となる—。
「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下、利活用検討会)が9月12日に開催され、こうした議論が行われました。医療・介護DXの加速化に向けた取り組みが進められていきますが、構成員意見も踏まえた取り組みが進むよう期待が集まります。
医療・介護DXに関する国の動きを総括
利活用検討会は、名称どおり「健康や医療、介護に関するさまざまな情報を蓄積・連結・解析することで、サービスの質を向上させていく」方策を検討する会議です。
我が国では、公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されていることから、精度が高く、かつ広い範囲をカバーする健康・医療・介護データが存在します(例えばレセプトデータ)。これらのデータを有機的に結合し、分析することで、健康・医療・介護サービスの質を高めるとともに、かつ効率的な提供も可能になると期待されますのです(医療・介護DX)。
こうした動きを政府が一丸となって進めることとしており、昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールを示しています。
あわせて武見敬三厚生労働大臣は「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医療・介護DX」を更に推進していく方針を明確にしています。
9月12日の利活用検討会では、こうした動きを確認するとともに、具体的な施策である(1)電子カルテ情報共有サービス、標準型電子カルテの開発等(2)医療・介護情報の2次利用(3)電子処方箋の普及(4)介護情報利活用—の4点について状況報告を受けました。
各施策の大枠を確認すると、次のように整理できそうです。
(1)電子カルテ情報共有サービス、標準型電子カルテの開発等
▽全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組み(電子カルテ情報共有サービス)を構築し、来年(2025年)1月からモデル事業を実施
▽モデル事業での知見を踏まえ、また法整備を行ったうえで、2025年度中に全国展開する
▽無床クリニック(医科)向けの「標準型電子カルテ」(α版)に関するモデル事業を2025年1月から実施し、その後、全国展開を図る
▽サイバー攻撃に備えるためのセキュリティ確保に向け、例えば▼都道府県による立ち入り検査の実施▼医療機関・薬局向けのチェックリスト提示▼攻撃を念頭においたBCP策定—などの取り組みを進めている
(2)医療・介護情報の2次利用(関連記事はこちら)
▽法整備を行ったうえで、公的データベース(医療レセプト情報等を格納しているNDB、介護レセプト等情報を格納している介護DBなど)から研究者等に向けて「仮名化情報」でのデータ提供を行う
▽公的データベースの2次利用、電子カルテ情報の2次利用などを安全に行うための「情報連携基盤」を構築する
(3)電子処方箋の普及(関連記事はこちら)
▽本年(2024年)9月1日時点で、医療機関等の14.58%(▼病院:1.92%▼医科クリニック:4.47%▼歯科クリニック:0.25%▼薬局:44.55%)—で導入済
▽2025年3月末での「概ねすべての医療機関・薬局における電子処方箋システム導入」に向けて、以下の対応を行う
▼導入支援(電子処方箋導入補助の拡充・診療報酬上の対応(医療DX推進体制整備加算)などを実施)
▼システム改修(▼リフィル処方箋対応(昨年(2023年)12月末に対応済)▼重複投薬等チェックにおける口頭同意(マイナ保険証を利用しない患者、情報共有を同意しない患者でも、併用禁忌などを確認できる仕組み)対応(同)▼マイナンバーカードを活用した電子署名(同)▼調剤済み処方箋の保存サービス(本年(2024年)7月に対応済)▼院内処方対応(今後改修)▼薬局起点の情報共有等(今後検討)—)
(4)介護情報利活用(関連記事はこちらとこちら)
▽介護情報を多くの介護事業所やケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村などの間で共有する仕組み【介護情報基盤】を構築する
▽共有する情報は、まず(1)要介護認定情報(2)請求・給付情報(レセプト)(3)LIFEデータ(4)ケアプラン—の4情報からはじめる(拡大も検討していく)
▽利用者の同意、情報セキュリティ確保、保険証ペーパーレス化などの課題を今後検討していく
こうした状況について利活用検討会の構成員からは、さまざまな意見・注文・アドバイスの声が出ています。
例えば、医療・介護DX全体について長島公之構成員(日本医師会常任理事)は、「医療機関や介護施設、患者、国民の理解・納得が普及・推進の鍵であり、そこを蔑ろにすれば、かえって反発を招き進まない。メリットはもちろん、どういったリスクがあり、それにどう対処するのかなどを明確に説明する必要がある。また医療機関・介護施設の負担を考慮し、導入・運用費用に十分な補助を行うべき」と強調。患者代表の立場で参画する山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)も「多くの国民・患者はこうした動きを知らない、分かりやすい広報をしっかり行うべき」と訴えています。
また、徐々に普及が進んでいるものの、医療機関等での普及がまだまだな状況にある電子処方箋については、「導入医療機関が徐々に進み、また能登半島地震などでのリアルタイム情報共有などで、そのメリットが浸透してきているが、導入医療機関の負担を考慮して、思い切った補助の拡充(全額補助など)や目標の見直しなどを検討すべき」(長島構成員)、「調剤情報のリアルタイム共有は実現できるが、実は薬局では電子処方箋を紙に印刷して調剤業務を行っている。そうした業務の改善方策も検討していってほしい」(渡邊大記構成員:日本薬剤師会副会長)などの要望が出ています。
他方、様々なサービスについて「全体像と個々の施策とのつながりなどをより明確にし、それぞれの仕組みが連携・統合されるように配慮すべき。五月雨式に開発し、サービス間で齟齬があってはいけない」(長島構成員)、「介護現場のICT知識等はバラバラであり、特に小規模事業者への支援・配慮を十分に検討してほしい」(小泉立志構成員:全国老人福祉施設協議会副会長)などの声が出されました。あわせて、新たな仕組みの構築にあたって「最新のICT技術や動向に照らして考えていくべき」との指摘も出ています。
今後、こうした意見も参考に医療・介護DX推進に向けた動きが加速化していきます。
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