2024年度の医療機関立入検査、長時間労働する勤務医への「追加的健康確保措置」体制整備を確認・指導する点に留意―厚労省
2024.6.5.(水)
今年度(2024年度)に実施する「医療機関への立入検査」では、例年通りの安全管理、院内感染対策などのほか、長時間労働する勤務医への「追加的健康確保措置」体制整備がなされているかを十分に確認し、必要な指導を行ってほしい—。
厚生労働省は5月31日に、通知「医療法第 25 条第1項の規定に基づく立入検査要綱の一部改正について」および「令和6年度の医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査の実施について」を示し、こうした点を明確にしました。
不適切なネット広告等を1年以上改善しない医療機関への指導を徹底
医療法第25条第1項では、▼都道府県知事▼保健所設置市の市長▼特別区の区長―に対し「必要に応じて医療機関に立入検査(人員、清潔保持、構造設備、診療録、助産録、帳簿書類など)を行う」権限を与えています。安全で質の高い医療を提供する体制が整っているのかを個々の医療機関単位で確認する仕組みと言えます。コロナ禍では感染拡大防止のために「書面での検査」などが行われてきましたが、2023年度検査から「実地検査」が全面復活しています(関連記事はこちら)。
今般の通知は、都道府県等に対して「今年度(2024年度)の立入検査では、このあたりを重点的に確認してほしい」と指示しています。立入検査を受ける医療機関サイドの目線に立つと「通知で示された重点事項について、適切な管理がなされているのかを事前に自己点検しておくことが重要」になってきます。
2024年度にも、これまでと同様に(A)安全管理のための体制の確保等(B)院内感染防止対策(C)最近の医療機関における事件等に関連する事項(食中毒、無資格者による医療行為、定員超過入院など)(D)立入検査後の対応など―の4本を柱に据えています。「医療機関が遵守すべき医療安全等の内容・課題は毎年のように変わるものではない」ことから、当然のことと思えますが、昨年度(2021年度)の立入検査と比べて新たな項目も付け加えられています。
(A)の安全管理体制においては、「改正医療法に伴い、労働時間が長時間となる医師の追加的健康確保措置の体制整備について確認・指導を行う」旨が追記されました。
ついに、この4月(2024年4月)から【医師の働き方改革】がスタートしました。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されるものです。
「地域医療の確保」と「勤務の健康確保」の両立を目指す制度で、追加的健康確保措置のうち「面接指導」などはA水準医療機関にも義務化されています(関連記事はこちら)。また、医師働き方改革は「この4月を乗り切れば済む」ものではなく、この先も継続して取り組む必要があります。立入検査を契機に「自院の状況を見つめなおす」ことが重要です。
また、(C)の最近の事件等に関連する事項について、「医療法施行規則第1条の11第2項第3号の2に基づき『診療用放射線の利用に係る安全な管理のための責任者を配置し、安全利用のための指針の策定、研修の実施、線量の管理・記録等、診療用放射線の安全管理体制が徹底されていること』を確認し、必要に応じて指導を行う」旨が追加されています。
(参考)
医療法施行規則(Gem Med編集部で抜粋し、一部改変)
第1条の11病院等の管理者は、法第6条の12の規定に基づき、次に掲げる安全管理のための体制を確保しなければならない(ただし、第2号については、病院、患者を入院させるための施設を有する診療所および入所施設を有する助産所に限る)。
(各号略)
2 病院等の管理者は、前項各号に掲げる体制の確保に当たっては、次に掲げる措置を講じなければならない(ただし、第3号の2にあってはエックス線装置または第24条第1号から第8号の2までのいずれかに掲げるものを備えている病院また診療所に、第四号にあっては特定機能病院および臨床研究中核病院以外の病院に限る)。
一(略)
二(略)
三(略)
三の二 診療用放射線に係る安全管理のための体制の確保に係る措置として、診療用放射線の利用に係る安全な管理(以下「安全利用」という)のための責任者を配置し、次に掲げる事項を行わせること。
イ 診療用放射線の安全利用のための指針の策定
ロ 放射線診療に従事する者に対する診療用放射線の安全利用のための研修の実施
ハ 次に掲げるものを用いた放射線診療を受ける者の当該放射線による被ばく線量の管理および記録その他の診療用放射線の安全利用を目的とした改善のための方策の実施
(1)厚生労働大臣の定める放射線診療に用いる医療機器
(2)第24条第8号に規定する陽電子断層撮影診療用放射性同位元素
(3)第24条第8号の2に規定する診療用放射性同位元素
(以下略)
さらに、(D)の検査後の対応の中で、都道府県等に対して「とくに厚労省の委託業務として実施している『医業等に係るウェブサイトの調査・監視体制強化事業』での情報提供後、都道府県等の指導を受けても1年以上にわたり指摘事項に対する改善が認められない長期未改善事例については、医療広告ガイドラインにおける広告指導の方法に沿って、対応期限を定めた必要な対応」を要請しています。
厚労省は、従前より不適切な医療広告(ホームページ等)に対しては「ネットパトロール事業で発見→都道府県による是正指導」などの対応を行っています。
「一般国民からの通報受け付け」「能動監視(パトロール)」により不適切サイトを発見し、是正が一定程度進んでいることが分かりますが、一部に「長期間改善が認められない」事例もあります。その背景には「他県、他の医療機関との対応の差を引き合いに出されると強い指導が難しい」「法に基づく措置(罰則適用)に進む判断が難しい」という事情があるようです。そこで厚労省は、▼自治体の現状把握調査を引き続き実施し、「医療広告に関する都道府県等担当者会議」等において優良な取組事例(違反種類毎の法に基づく措置例など)を紹介する▼自治体による医療法第25条第1項に基づく「立入検査」(医療監視)にあたっても、改正後の医療広告ガイドライン遵守に向けて適切に指導等を行うことを求める—などの考えを示しており、上記対応はこの一環と言えます(関連記事はこちら)。
このほか、従前より問題視されている「サイバーセキュリティ対策」の実施も極めて重要です。実際にサイバー攻撃による「長期間の診療停止」も起きており、2024年度診療報酬改定でも一定の対応が図られています(関連記事はこちら)。立入検査においては「チェックリストが活用されているのか」も確認されるため、早めのチェックリストによる院内サイバーセキュリティ対策チェックが重要です。
現在の医療機関は「鍵のかかっていない金庫」のような状況であると指摘されます。まず「鍵がかかっているのか、いないか」(現状)をチェックリストを活用して、システムベンダの協力も得て確認し、「何から手を付ければよいか、どう対応すればよいか」を1つ1つ着実に実行していくことが重要です(関連記事はこちら)。
なお、立入検査の要綱等には記されていませんが「マイナ保険証対応」の状況もチェックされる可能性も否定できません(関連記事はこちら)。
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