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勤務医の労働/自己研鑽の切り分け、「業務上必須か」「指示で実施するか」の2軸で、個々の医療機関・医師・行為ごとに判断を―厚労省

2024.4.11.(木)

医師働き方改革がこの4月(2024年4月)からスタートしている。そこでは「労働」と「自己研鑽」の切り分けが非常に重要である—。

切り分けの基本的な考え方としては、▼業務上必須であるか▼明示または黙示の指示によって実施するか—の2点が重要であるが、個々の医療機関、個々の医師、個々の業務について個別具体的に判断する必要がある—。

厚生労働省は3月29日に「医師の研鑽の理解のために」を示し、医療機関等に留意を求めました(厚労省サイトはこちら)(宿日直許可後の労務管理に関する記事はこちら)。

▼業務上必須であるか▼明示または黙示の指示によって実施するか—の2点が判断軸

この4月1日(2024年4月1日)から、ついに【医師の働き方改革】がスタートしました。

すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されるものです。

医師働き方改革の全体像(中医協総会1 210721)



この時間外労働規制の中では、宿日直許可やタスク・シフトなどのほか、「業務内容の整理」が非常に重要となります。

厚生労働省は、「業務」と「自己研鑽」の切り分けに関する通知を2019年7月に発出し、例えば▼勤務医が自らの技能向上などのために所定労働時間外に行う研鑽は、「本来業務等と直接の関連性なく」、かつ「上司の指示なく、自発的に行われる」場合には労働時間に該当しない▼その旨を明確にするために、各医療機関で「研鑽の手続き」などを定めておくことが求められる▼明示・黙示を問わず、上司の指示があれば本来業務等と直接関連のない研鑽であっても労働時間に該当する—などの考えを示しています(関連記事はこちら)。

労働と研鑽の切り分けの基本的な考え方QA(医師研鑽の理解1 240329)



さらに今般、厚労省サイトはこの点をより明確にすべく、まず次のような点を明確にしました。

まず「研鑽」であっても、▼業務上必須であるもの▼明示または黙示の指示によって実施するもの—は「労働時間」に該当することを確認する必要があります。

なお、研鑽が「業務上必須」(=労働時間に該当する)かどうかは、経験(臨床研修医、専攻医、それ以降の医師など職階(経験)の違い)や業務内容(担当する外来、入院患者の状況など)を踏まえて、個々の医師について総合的に判断する必要があります。

さらに、次のような具体的事例をあげて、「労働」にあたるか、「研鑽」にあたるかの一定の判断基準を示しています。

(事例1)診療における新たな知識、技能の獲得のための学習
▽本来業務(診療、教育・研究)の「準備」「後処理」として不可欠なものは労働時間に該当する

▽「業務上必須でない」行為を自由な意思に基づき、自ら申し出て、上司の明示・黙示の指示なく行う時間は、一般的に労働時間に該当しない

事例1の考え方(医師研鑽の理解2 240329)



(事例2)博士号/専門医資格を取得するための症例研究や論文作成
▽例えば、以下の場合は労働時間に該当する
▼研鑽が業務上必須である(=上司が明示・黙示の指示をして行わせるケース)
▼研鑽が業務上必須とまでは言えないが、上司が明示・黙示の指示をして行わせるケース
▼研鑽の不実施について「就業規則上の制裁等の不利益」が課されているため、その実施を余儀なくされている

▽例えば以下のように、「上司や先輩である医師から論文作成等を奨励されている」等の事情があっても、業務上必須でない行為を、自由な意思に基づき、自ら申し出て、上司の明示・黙示の指示なく行う時間は、一般的に労働時間に該当しない
▼勤務先の医療機関が主催する勉強会だが「自由」参加
▼学会等への参加・発表や論文投稿が勤務先医療機関に割り当てられているが、医師個人への割当てはない
▼研究を本来業務とはしない医師が、院内の臨床データ等を利用し院内で研究活動を行っているが、その研究活動は、上司に命じられておらず自主的に行っている

事例2の考え方(医師研鑽の理解3 240329)



(事例3)技能を向上させるための手術や処置の見学
▽例えば、以下の場合は労働時間に該当する
▼見学中に診療を行った
▼見学中に診療を行うことが慣習化、常態化している

▽「上司や先輩である医師から見学を奨励されている」などの事情があっても、業務上必須でない行為を、自由な意思に基づき、自ら申し出て、上司の明示・黙示の指示なく行う場合や、その見学、そのための待機時間は、一般的に労働時間に該当しない

事例3の考え方(医師研鑽の理解4 240329)

具体的な判断は、個々の医療機関で、個々の医師で、個々の行為について実施を

もっとも、勤務医の業務は非常に多彩であり、医療機関の状況・個々の医師の状況も区々であるため、「一律に労働時間/労働時間外を判断する基準」を国や自治体が作成することは困難です。

このため「労働時間に該当する研鑽か?労働時間に該当しない研鑽か」は、各医療機関で、上記の2軸に沿って個別ケースごとに「明確化する」という手続きが必要となります。この点については、次のような流れが「例示」されています。これを参考に、各医療機関で自院にマッチする手法を構築していくことが重要です(下記はあくまで「例」である)。

▽どのような研鑽が労働時間に該当するか、考え方や手続きを医療機関内で整理する

▽所定労働時間外に「労働時間に該当しない研鑽」を行う時間について「医師からの申出制」とする
(例えば、各医師が「月間の研鑽計画」を作成し、(事務部門を経由して)上司の承認(確認)を得る、など)

▽申し出を受けた上司は、申し出をした医師と話し合い、研鑽内容を確認し、労働時間に該当する研鑽ではないことを確認する
(医療機関で整理した考え方に基づいて、上司が、申し出をした医師の経験や業務内容などを踏まえ、「業務上必須の研鑽」か否かを判断する)

▽上司(または事務部門)は、申し出のあった医師に以下を説明する
▼その研鑽を実施しなかった場合に、制裁等の不利益な取り扱いをしない
▼労働時間に該当しない研鑽を実施している間は、本来業務から離れてよい

院内での「労働/研鑽」切り分けの手続き(医師研鑽の理解5 240329)



さらに、こうした手続きが円滑・適切に進むよう、次のような考え方も示されました。この点についても、各医療機関で自院にマッチする手法を構築していくことが重要です(下記もあくまで「例」である)。
▽研鑽の考え方や、手続きの内容を書面にまとめて、医師、他職種を含む院内全体で周知する
(例えば、医療機関内の研鑽の考え方や手続き、研鑽を行っている医師を診療体制に含めないことなどを周知する)

▽所定労働時間外に労働時間に該当しない研鑽を行う場合は、通常勤務でないことが外形的に明確に見分けられるよう、例えば以下の措置を講じる
▼院内に労働時間に該当しない研鑽を行うための場所を設ける
▼労働時間に該当しない研鑽を行う場合には白衣を着用せずに行う

院内での「労働/研鑽」切り分けを円滑に進めるための環境整備(医師研鑽の理解6 240329)



なお厚労省は、Q&A形式で次のような点も明確にしています。

▽研鑽について、医療機関ごとに考え方や手続きが異なってもよい(各医療機関で定めることが重要)
→労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれているかどうか」で判断する
→例えば「手術の見学」について、業務上必須と位置付ける医療機関もあれば、自由な意思によるものを基本とする医療機関もあり、労働時間に該当するかどうかは、医療機関における位置付けなどで異なる
→なお「在院時間をすべて労働時間とする」ような場合には、こうした考え方や手続きを定める必要はない

▽考え方や手続きを定める際には、例えば▼教育・研究に関する研鑽はすべて労働時間非該当である▼手術の見学はすべて労働時間非該当である—といった「研鑽行為の形式」だけで一律に決めることは、適切ではない
→実態を踏まえたルールづくりが必要である

▽研鑽/業務の切り分け例を参考にしてほしい

QA(医師研鑽の理解7 240329)



▽研鑽の考え方や手続きを明確化するために、例えば「まず院内の若手医師などで集まって院内で検討会を開く」→「その検討結果を事前に全ての医師に公開してコメントを募集する」→「労働時間に該当する研鑽/労働時間に該当しない研鑽の考え方を一覧表に整理する」ことなどが考えられる

▽労働時間かどうかを明確にするための環境整備については、例えば▼整理した考え方を院内ガイドラインとして、医療機関のスタッフ全員に共有する▼労働時間に該当しない研鑽は「隣接する建物にある医局の中で行う」「複数棟ある病院では電子カルテを置いていない建物で行う」—などの事例がある



なお、労働/研鑽の切り分けについては、▼全国の労働基準監督署▼各都道府県にある医療勤務環境改善支援センター(勤改センター)—へ相談が可能です。



さらに厚労省は「医療機関内での世代を越えた意見交換」を開催するよう推奨しています(意見交換により他世代間の考えを聞き、理解を深めることができる、関連記事はこちらこちら)。

院内での世代を越えた意見交換会が有益(宿日直許可後の労務管理7 240401)



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