医師働き方改革情報を基礎・詳細に分け発信、上司等から入手し詳細をネットで確認―医師働き方改革情報発信作業部会
2022.2.28.(月)
2月25日に開催された「勤務医に対する情報発信に関する作業部会」(「医師の働き方改革の推進に関する検討会」の下部組織、以下、作業部会と呼ぶ)で、意見取りまとめが行われました。
働き方改革の情報については、分かりやすい「入門編・基礎編」と詳しい「詳細編」のコンテンツを作る―。
勤務医の多くが、情報入手の入り口を「院内の上司など」からとし、詳細をネットで確認している状況を踏まえ、「病院に説明スライドやポスターなどを配布」し、詳細な情報をネット確認できるよう情報の充実強化を行っていく―。
また、勤務医の意識変革を促すために「病院内で多くの世代の医師、多職種が集う意見交換会」を開くことが極めて有意義である―。
こうした内容を柱としており、馬場秀夫座長(熊本大学病院病院長提案)と厚労省担当者とで最終とりまとめを行い、近く公表したうえで、親組織(医師の働き方改革の推進に関する検討会)に報告します。
あわせて「コンテンツ」作成を急ぎ、出来上がったものから順次、公表されていく見込みです。
意見交換会のインセンティブや制度化などは別の検討の場で議論に
2024年4月から、【医師の働き方改革】がスタートします。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されるものです。
しかし医療現場には「こうした情報が必ずしも正しく伝わっていない」「そもそも情報が全く伝わっていない」などの極めて大きな課題があります。そこで作業部会では「どういった情報・内容を発信すればよいのか」「どのように情報発信すれば現場に伝わるのか」という議論を現場目線で行い、今般、意見の取りまとめを行いました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
とりまとめ内容の核となるのは、(1)情報発信内容(2)情報発信手法・媒体(3)医療機関内での行動変容を促す方策―の3点です。
まず(1)では、次の2つのコンテンツ(情報発信内容)を用意すべき方向が打ち出されました。
(A)基礎的な 内容について概略的にまとめたコンテンツ(基礎編)
(B)より詳しく知りたい方に向けた詳細なコンテンツ(詳細編)
そのうえで(2)で、次の2つの手法・媒体で情報発信を行うことが効果的であるとしています。2021年末に行われたアンケート結果などを踏まえたもので、現場目線に沿った考え方によるものです(関連記事はこちら)。
(X)所属組織(病院・診療科・医局等)や周囲(上司や同僚)からの情報発信(入り口)
(Y)インターネットによる情報発信(深掘り)
ただし(X)について「各医療機関の努力に委ねる」としたのでは、負担が大きなこと、内容の正確性担保が難しいことなどから、「活用可能な周知用素材を予め行政等が作成しておく」ことが重要であるとしています。
具体的には次のような素材の準備が提案されています。
▽制度設計時の検討会資料を当事者目線で分かりやすく紐解いた、説明用の台詞付きのスライド集
▽認知度レベル別のeラーニング教材
▽医師働き方改革の意義・必要性について、院内で目に入りやすい形で掲示するシンプルなメッセージ
▽「基礎編」の内容をイラスト中心に1枚にまとめたスライドやポスター
▽「詳細編」の内容をQ&A集として理解しやすい形で整理した資料
▽妊娠・育児・介護中などの時間に制約のある医師をはじめ、それぞれの医師の置かれた状況に応じたきめ細やかなケース別に当てはめた情報
▽医療機関内で事務部門等が定期的に配信することを想定したメールマガジンの文章例
▽勤務医が自らの働き方について具体的なイメージを持てるような、個人の労働状況から制度への当てはめを行うシミュレーションツール
さらに、いわゆる「インフルエンサー」(ネット上で影響力をもつ者)の活用(例えば同時期に、複数のインフルエンサーが医師働き方改革の情報を強力に発信してキャンペーンを張るなど)も重視されています。
他方、情報を受け取った勤務医自身の気づき・関心を促し、自らの働き方について見直す等の行動変容へとつなげていくために、(3)では「医療機関内の勤務医等が参加する意見交換会」開催などを推奨しています。
この点、試行的に行った病院では「想像以上に有意義であった」ことを踏まえ、「意見交換会開催のインセンティブ」や「制度化」(例えば、がん緩和ケア講習会のような姿を目指すなど)を求める声が多くの構成員から出ており、今後、親組織である「医師の働き方改革の推進に関する検討会」や、他の検討の場での議論に期待が集まっています(関連記事はこちら)。
あわせて作業部会では、「地域の医療提供体制に起因する構造的な課題についても取り組んでいく必要がある」(例えば医療機関の集約化を促すなど)、「情報発信の効果などを検証していく必要がある」「声を出せない若手医師に向けて、支えていくメッセージを強く打ち出す必要がある」などの点にも言及しています。
また2月25日の作業部会では、さらに▼より強い「メッセージ」や目に留まりやすい「図表」、今後の取り組みをイメージしやすい「スケジュール例」などを追加してはどうか(石田苑子構成員:神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野医学研究員、鈴木幸雄構成員:横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員)▼年度替わりの時期(4月初旬)の情報発信が非常に効果的であり、最低限でもよいのでコンテンツ作成をこの3月中に行うべき(山内英子構成員:聖路加国際病院副院長・乳腺外科部長)▼情報発信の効果検証を数字で、ポイントポイントをとらえて把握していくべき(谷口智也構成員:東京ベイ・浦安市川医療センター臨床研修医、車田絵里子構成員:愛仁会リハビリテーション病院事務部部長)▼「やる気がない」「忙しい」などと考える人へのアプローチこそが重要である(谷口構成員)―などの意見が出ています。
さらに、上述の「意見交換会開催へのインセンティブ付与や制度化」について、親組織などで重要論点として早期に検討が進むことに強い期待を寄せる声が数多く出されました。
馬場座長は、こうした意見を取りまとめ内容に可能な限り反映させることを約束するとともに、厚生労働省に対して「作業部会論議を、今後の働き方改革制度に有効に役立ててほしい」と要請しています。
今後は、例えば「取りまとめ内容を親組織に報告し、意見交換会の制度化などの論議を行う」「具体的なコンテンツを厚労省で作成する」などの次のステップに移ってきます。
後者のコンテンツについては、山内構成員による「年度替わり時期の情報発信が有効である」との指摘を踏まえて「早急に作成作業に入る」ことになります。その際、作業部会委員や、制度に詳しくない現場の医師が「コンテンツ内容のチェックを行う」ことになります。「作って終わり」ではなく、「現場に届き、現場の意識が変わる」ことがゴールであるためです。馬場座長をはじめ、多くの構成員が「コンテンツ内容チェックにも協力する」意向を示しており、厚労省担当者もこれに期待しています。
「どのコンテンツをいつまでに作成する」というスケジュール感は現時点では明らかにされていませんが、時間も限られており「早急に進められる」ことは確実です。
【関連記事】
多くの病院で「働き方改革意見交換会」実施を、働き方改革では病院集約化が必要―医師働き方改革・情報発信作業部会
「院内で働き方改革情報に接し、詳細をWEBサイト上で調べられる環境」整備が重要―医師働き方改革・情報発信作業部会
病院管理者・指導医など層別に働き方改革情報を発信、モデル病院で意見効果の場を設置―医師働き方改革・情報発信作業部会
病院管理者や指導医・上級医の意識改革こそが、医師働き方改革の最重要ポイント―医師働き方改革・情報発信作業部会
2022診療報酬改定の基本方針論議続く、医師働き方改革に向け現場医師に効果的な情報発信を―社保審・医療部会(2)
高度技能獲得目指すC2水準、事前の特定は困難だが、厳正・適正な審査で乱立・症例分散を防ぐ―医師働き方改革推進検討会
高度技能獲得目指すC2水準、乱立・分散防ぐため当初限定をどこまですべきか―医師働き方改革推進検討会(2)
医療機関の働き方改革状況、「5段階評価」でなく、時短への取り組みなど「定性的に評価」する方向へ―医師働き方改革推進検討会(1)
高度技能獲得を目指すC2水準、「長時間の手術等伴う保険外の医療技術」などが該当―医師働き方改革推進検討会(2)
B水準等指定の前提となる「労務環境等の評価」、各医療機関を5段階判定し結果を公表―医師働き方改革推進検討会(1)
連続勤務制限・インターバル確保等で勤務医の働き方は極めて複雑、シフト作成への支援を―医師働き方改革推進検討会
医師働き方改革に向け「副業・兼業先も含めた労働状況」の把握をまず進めよ―医師働き方改革推進検討会(2)
医師時短計画作成は努力義務だが「B水準等指定の前提」な点に変化なし、急ぎの作成・提出を―医師働き方改革推進検討会(1)
医療制度を止めたオーバーホールは不可能、制度の原点を常に意識し外来機能改革など進める―社保審・医療部会
医療機能の分化・強化、当初「入院」からスタートし現在は「外来」を論議、将来は「在宅」へも広げる―社保審・医療部会
公立・公的病院等の再検証スケジュールは新型コロナの状況見て検討、乳がん集団検診で医師の立ち合い不要に―社保審・医療部会(2)
紹介状なし患者の特別負担徴収義務拡大で外来機能分化は進むか、紹介中心型か否かは診療科ごとに判断すべきでは―社保審・医療部会(1)
2024年度からの「医師働き方改革」に向け、B・C水準指定や健康確保措置の詳細固まる―医師働き方改革推進検討会
医師の働き方改革論議が大詰め、複数病院合計で960時間超となる「連携B」水準に注目―医師働き方推進検討会
医師働き方改革の実現に向け、厚生労働大臣が国民全員に「協力」要請へ―医師働き方改革推進検討会(2)
地域医療確保のために「積極的に医師派遣を行う」病院、新たにB水準指定対象に―医師働き方改革推進検討会(1)
医師労働時間短縮計画、兼業・副業先の状況も踏まえて作成を―医師働き方改革推進検討会
医師働き方改革の実現に関し大学病院は「医師引き上げ」せず、地域医療機関の機能分化推進が鍵―厚労省
2018年の【緊急的な取り組み】で超長時間労働の医師はやや減少、残業1920時間以上は8.5%に―厚労省
長時間勤務医の健康確保の代償休息、「予定された休日の確実な確保」でも良しとすべきか―医師働き方改革推進検討会
B・C水準指定の枠組みほぼ固まるが、医療現場の不安など踏まえ「年内決着」を延期―医師働き方改革推進検討会
医師の兼業・副業で労働時間は当然「通算」、面接指導等の健康確保措置は主務病院が担当―医師働き方改革推進検討会
B・C指定に向け、医師労働時間短縮状況を「社労士と医師等」チームが書面・訪問で審査―医師働き方改革推進検討会
高度技能習得や研修医等向けのC水準、「技能獲得のため長時間労働認めよ」との医師の希望が起点―医師働き方改革推進検討会(2)
地域医療確保に必要なB水準病院、機能や時短計画、健康確保措置など7要件クリアで都道府県が指定―医師働き方改革推進検討会(1)
2021年度中に医療機関で「医師労働時間短縮計画」を作成、2022年度から審査―医師働き方改革推進検討会(2)
長時間勤務で疲弊した医師を科学的手法で抽出、産業医面接・就業上の措置につなげる―医師働き方改革推進検討会(1)
1860時間までの時間外労働可能なB水準病院等、どのような手続きで指定(特定)すべきか―医師働き方改革推進検討会
医師・看護師等の宿日直、通常業務から解放され、軽度・短時間業務のみの場合に限り許可―厚労省
上司の指示や制裁等がなく、勤務医自らが申し出て行う研鑽は労働時間外―厚労省
医師働き方の改革内容まとまる、ただちに全医療機関で労務管理・労働時間短縮進めよ―医師働き方改革検討会
診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士・救急救命士が実施可能な医行為の幅を拡大―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
放射線技師に静脈路確保など認める法令改正、メディカル・スタッフが現に実施可能な業務の移管推進―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
技師・技士による検査や医薬品投与のための静脈路確保など認めてはどうか―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
医師から他職種へのタスク・シフティング、教育研修や実技認定などで安全性を確保―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
医師から他職種へのタスク・シフティング、「B・C水準指定の枠組み」に位置付けて推進―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
診療放射線技師による造影剤注入や臨床検査技師による直腸機能検査など、安全性をどう確保すべきか―医師働き方改革タスクシフト推進検討会
医師から他職種へのタスク・シフティング、「業務縮減効果大きく、実現しやすい」業務から検討―医師働き方改革タスクシフト推進検討会