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要介護認定にかかる期間を「30日以内」に収めるべく、全市町村実績を公表し、国でプロセスごとの「目安」期間提示—社保審・介護保険部会

2024.12.9.(月)

公的介護保険サービスを受けるためには市町村から「要支援、要介護状態である」と認定されることが必要で、この認定は「原則として申請から30日以内」とされている。しかし、多くのケースではこの期間内の認定がなされておらず、また状況は悪化している—。

こうした事態の改善に向け、まず「市町村ごとに、申請から要介護認定結果が出るまでの期間の平均値」を公表し、あわせて「主治医意見書を得るまでの期間」「認定調査に要する期間」などの各プロセスについての目安を示し、「原則として申請から30日以内に要介護認定結果を受けられる」環境を整えてはどうか―。

こうした議論が12月9日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で始まりました。厚労省が近く具体案(公表する内容、目安の内容など)を示し、年度内(2024年度内)の実施を目指します。

12月9日に開催された「第115回 社会保障審議会 介護保険部会」

要介護認定にかかる期間の平均、最短の市町村は20日だが、最長の市町村では78.7日

公的介護保険サービスを受けるためには、市町村から「要支援、要介護状態である」と認定されることが必要です【要介護認定】。介護保険サービスの中には「要介護状態ではない、自立している人であっても、受けてみたい。受けられたら便利である」サービス(例えば家事援助など)があるため、限られた介護資源(財源、人材、時間)を「真に介護保険サービスが必要な人」に集中させる必要があるためと理解されています。

【要介護認定】は、▼利用者・家族等が市町村に申請を行う→▼市町村で利用者の状態確認等を行う(認定調査)→▼主治医が介護サービスの必要性などを意見書として提出する→▼認定調査結果や主治医意見書などを総合して専門家による認定審査会で「要支援・要介護状態にあるか」を判断する—といったプロセスで行われ、介護保険法第27条第11項では「申請のあった日から30日以内」に結論を出す(利用者・家族に結果を通知する)こととされています(要支援・要介護と判定された場合には、申請日に遡って要支援・要介護であったと判断される(=介護保険サービスを受けられる))。

要介護認定の大きな流れ(社保審・介護保険部会1 241209)



しかし、実際に「申請から認定結果が通知される」までの期間を見ると、次のように▼「30日以内」に収まっていないケースが非常に多く、常態化している▼市町村によって大きなバラつきがある—ことが分かっています。

▽全市町村の認定期間(申請から結果通知まで、以下同)の平均値は、2022年度下半期には「40.2日」で、「30日以内」を大幅に上回っており、また徐々に延伸(悪化)している

要介護認定に要する期間1(社保審・介護保険部会2 241209)



▽2022年度下半期における、各市町村の認定期間の平均値は、最短で「20.0日」だが、最長では「78.7日」であった(「平均」であり、個別ケースではより長期間かかったケースもある)

要介護認定に要する期間2(社保審・介護保険部会2 241209)



▽2022年度下半期には、認定期間の平均値が「30日以内」である市町村は、全1735市町村のうち、わずか「97」自治体(5.6%)にとどまった

要介護認定に要する期間3(社保審・介護保険部会4 241209)



▽2022年度下半期には、認定期間の平均値の上位25%(25パーセンタイル)でも「31.7日」であり、「30日以内」をクリアできておらず、下位25%(25パーセンタイル)では「48.1日」以上となっている

要介護認定に要する期間4(社保審・介護保険部会5 241209)



こうした状況の背景の1つについて、厚生労働省老健局老人保健課の堀裕行課長は「要支援・要介護と認定される高齢者数が制度発足時(2000年度)から20数年を経過し3.2倍に増加している」ことを指摘します。介護保険制度の普及・定着によって、多くの高齢者が「介護保険サービスを受けたい」と申請する一方で、「認定に携わる市町村職員数等も数倍確保されている」とは考えにくく、結果、「認定結果を通知するまでの期間」が徐々に延伸してしまっていると推測されます。

要介護認定者等の増加度合い(社保審・介護保険部会6 241209)



もっとも、「忙しいので仕方ない」と割り切ることは好ましくありません。要支援・要介護認定が遅れれば、介護保険サービスの受給開始が遅れてしまい、中には「サービスを受けられず、不本意な人生の最期を迎えざるを得なかった」ケースもあると考えられます。もちろん、要支援・要介護認定の結果が出る前に「暫定ケアプラン」によって介護サービスを受けることも可能ですが、「要介護度などの結果が暫定ケアプランと異なり、金銭トラブルが生じるケース」などもあります。また「高齢社会をよくする女性の会」のアンケート調査によれば「暫定ケアプランの説明を受けなかった」高齢者も少なくないのが実際です(石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長、名古屋学芸大学看護学部客員教授)による報告)。

こうした点を踏まえて、政府は(a)要介護認定の迅速性等に関する情報(申請から認定までの期間等)について、全国集計、都道府県別、保険者(市町村)別に毎年度、厚労省ホームページで公表する(b)要介護認定の調査・審査の各段階について、各保険者が目指すべき「目安となる期間」を検討・設定する—などの方針を決定。介護保険部会で、この2つの取り組みについて検討が始まりました(今後、「申請前の主治医意見書入手」や「AI活用」なども検討していく)。

要介護認定の改善に向けた規制改革実施計画(社保審・介護保険部会2 241209)



堀老人保健課長は、12月9日の介護保険部会に、▼認定審査期間(申請日から2判定日まで)などについて、都道府県毎・保険者(市町村)毎の一覧表として厚労省ホームページで公表する▼2024年度から、介護保険総合データベースより「前年度分のデータを用いて集計した値」を公表し、状況の推移を踏まえて今後の対応を検討する▼認定審査期間が30日以内となるような「認定審査の各段階における目安期間」を検討する—考えを示しました。各プロセスのうち、介護保険部会委員からは「要介護認定期間の課題として主治医意見書の取得が多くの自治体からあげられており、ここに対策を行うべき」との声が強く出ている点が注目されます。

要介護認定の課題(社保審・介護保険部会8 241209)



まず(a)は、「要介護認定にかかっている実際の期間」を公表することで、たとえば市町村で「当市は、他の市町村に比べて認定までの期間が長いようだ。短縮に向けて取り組もう」と意識してもらうことなどを期待するものと言え、「要介護認定にかかっている期間のベンチマーク」データを公表するものです。

要介護認定に係る期間などの公表イメージ(社保審・介護保険部会9 241209)



また、後者(b)は▼主治医意見書を得るまでの期間▼認定調査に要する期間—などの各プロセスについて、国(厚労省)が「目安」を示すことで、各市町村で「当市では、主治医意見書を得るまでの期間が目安より長くなっている。この期間短縮に向けて地域医師会と連携して、各医療機関・医師への協力要請を行おう」などの具体的取り組みを促すものと言えます。

ちなみに、2022年度下半期のデータを見ると、認定期間の平均値が「30日以内」である市町村(97自治体)と、全1735市町村とを比較すると、▼認定審査期間全体は、97自治体では26.8日だが、全1735市町村では39.5日▼認定調査に要した期間は、97自治体では7.3日だが、全1735市町村では10.3日▼主治医意見書を得るまでに要した期間は、97自治体では12.7日だが、全1735市町村では17.8日—という状況です。「30日以内」をクリアできている97自治体は、全市町村に比べて▼認定調査期間が3日▼主治医意見書獲得期間が5.1日—短くなっています。

「目安」の期間は、今後、各種のデータを踏まえて介護保険部会で揉んでいきますが、「30日以内」をクリアできている97自治体の▼認定調査のための期間「7.3日」(約1週間)▼主治医意見書獲得のための期間「12.7日」—が素案の1つになってきそうです。

要介護認定に要する期間3(社保審・介護保険部会4 241209)



なお、市町村の規模や高齢化率は、必ずしも「認定期間の長さ」とは関連しておらず、様々な要因が複雑に絡んで「認定期間が長くなっている」ものと考えられます。例えば大規模な市では「要介護認定等の申請が非常に多い」ことが、一方、小規模な町村では「主治医やスタッフが限られている」ことが鍵になっている可能性があります。

要介護認定に要する期間6(社保審・介護保険部会7 241209)



こうした状況下では、国や都道府県が「要支援・要介護認定の期間を短縮せよ」と市町村のお尻を叩くだけでは、実際の短縮は困難でしょう。

このため堀老人保健課長は、たとえば▼【認定調査】について、調査項目入力アプリを用いて調査結果の入力や送信を行うことで、帰庁後のデータ入力や紙からの転記作業が不要となった▼【主治医意見書】の電子的な受け取り、医療機関への進捗確認を行っている▼【認定審査会】について、オンライン開催、他市町村との合同開催などを行っている—などの先進事例を紹介するなどし、「要支援・要介護認定の期間短縮に向けた技術的なアドバイス」も積極的に行っていく考えを示しています。

要介護認定の短縮に向けた取り組み先行事例(社保審・介護保険部会10 241209)



こうした方向に異論・反論は出ていません。ただし、介護保険制度の入り口とも言える「要介護認定」の改善に向けた重要事項であり、委員からは▼優良事例の全国展開を図ることが重要であろう(佐藤主光委員:一橋大学国際・公共政策大学院、大学院経済学研究科教授)▼主治医意見書の様式などを見直し、医師の記入負担軽減を図ってはどうか。また急性期病院への入院時に要介護度見直しを積極的に行うことで、後方の介護医療院等の負担を軽減することができる点にも留意すべき(橋本康子委員:日本慢性期医療協会会長)▼ペーパーレス化、今後構築される【介護情報基盤】の活用なども通じて認定期間短縮を図るべき(粟田主一委員:東京都健康長寿医療センター認知症未来社会創造センターセンター長)▼介護認定審査会を含めた「市町村の事務手続き」期間についても目安を示し、短縮に向けた取り組みを促すべきであろう(小林広美委員:日本介護支援専門員協会副会長)▼各市町村における「認定結果通知が30日を超えてしまう」人の割合が重要である。それを公表し、切磋琢磨を促すべき。目安は▼認定調査▼主治医意見書▼市町村事務—の各プロセスについて示すべき(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)▼認定期間の短縮も重要だが、「認定結果の市町村によるバラつき」も問題であり、今後、検討課題に据えてほしい(染川朗委員:UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)—などの多数の提案・注文の声が出ています。

厚労省は、こうした提案・注文にも耳を傾けながら、今後の介護保険部会に具体的な▼どのような項目を公表するか▼目安を、どのようなプロセスについて、どのように設定するか(全国一律とするか、市町村の特性に応じて複数設定するのかなども含めて)—の案を提出し、さらに議論を深めてもらう考えです。上記の政府方針では「2024年度中に実施する」(認定期間データの公表、目安設定を2024年度中に行う)こととされています。

また市町村サイドからは、「30日以内に認定する」という介護保険法の規定が、高齢化の進展した現在で「厳しい」もとなっており、「認定期間(30日)の見直しを検討すべきではないか」との声も出ています。頷ける部分もある(申請の増加に、自治体スタッフ増が追い付かず、その状況は今後も厳しくなる)意見ですが、厚労省は「まずは現行法の『30日以内』遵守を目指してもらいたい」との考えを示しています。



なお、末期がんなどで要介護等状態の方が、介護保険を利用できずに死亡されるケースが決して少なくない点に鑑み、厚労省は本年(2024年)5月に「こうした方が、迅速に介護保険サービス利用できるよう、暫定ケアプラン作成・認定の柔軟化などを積極的実施するとともに、医療サイドから介護保険利用に関する情報提供を行ってほしい」旨の事務連絡を示しています。市町村・医療機関・ケアマネジャーなどは、この事務連絡を再度確認し「迅速な暫定ケアプラン作成→介護保険サービス提供」にも力を入れることが求められます。

介護DBから、利活用しやすい「仮名化」情報提供などを行い、優れた研究につなげる

また、12月9日の介護保険部会では、▼NDBデータ(レセプト、特定健診データ)やDPCデータ、介護保険総合データベース(介護DB)などについて、より利活用しやすい「仮名化」(個人特定はできないが、より生データに近い形での加工処理)情報として研究者等に提供し、優れた新薬の研究・開発や医療政策研究推進などのために利活用(2次利用)することを認める▼電子カルテのデータについても、同様の2次利用を可能とする環境を整え、レセプト等データと臨床データとの突合を可能とする—といった方針を了承しています(関連記事はこちら(社会保障審議会・医療部会)こちら(社会保障審議会・医療保険部会))。

今後、介護保険法や健康保険法、医療部会などについて「データの仮名化情報提供、他のデータベースからの仮名化情報との連結解析」を可能とする改正法案を作成し、次期通常国会(2025年の通常国会)提出を目指します。

医療・介護情報の2次利用方針(難病対策委員会5 241015)



介護保険部会委員からは、「優れた医療・介護サービスの実現」に向けてデータの2次利用を歓迎する声が多く出ていますが、その一方で▼個人情報保護などデータの管理には十分留意すべき▼データ利活用申請から実際の提供までに、現在は長期間がかかっており、その点の是正が急務である▼データがどのように利活用されたのか、論文の本数などだけでなく、どの程度、社会実装されたのかも見据えた検証が重要である▼国民に2次利用の意義・メリットなどを丁寧に説明し、理解を得るべき—などの要望が強くだされました。改正法作成段階・運用段階のいずれにおいても、十分に配慮すべき重要な意見です。



このほか、12月9日の介護保険部会では厚労省から次のような報告も行われています。

▽介護DXに向けた先行実証として、来年(2025年)1月中旬より▼大分県の大分市・別府市で「要介護認定事務の電子化」を▼大分県の大分市・宮崎県都城市で「介護事業所における電子による資格等の確認」を—実施する(実証事業結果を踏まえて全国展開に向けた検討が進められる)

介護DXに向けた先行実証(社保審・介護保険部会12 241209)



▼ケアマネジャー業務の在り方▼人材確保・定着に向けた方策▼法定研修の在り方▼ケアマネジメントの質の向上に向けた取り組み促進—の4テーマについて今後の方向性を整理した「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」の中間整理が大筋で了承された(現在、検討会の田中滋座長(埼玉県立大学理事長)と厚労省で最終の文言調整中、近く公表)



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