不正請求等で21件・14人の医師等が「保険指定取り消し」等の処分、診療報酬46億円強を返還―2023年度指導・監査
2025.1.29.(水)
2023年度に個別指導を受けた保険医療機関等は前年度から2.7%減の1464件―。
また、監査を受けた保険医療機関等は▼医科:22件▼歯科:22件▼薬局:2件―の合計46件で、前年度から11.5%減少した―。
監査の結果、保険指定取り消し処分などを受けた医療機関等は21件(前年度から3件減)、医師等は14人(同増減なし)となった—。
なお、監査の結果、返還された診療報酬は合計で46億2338万円(前年度から26億5077万円増)となっている―。
こうした状況が、1月28日に厚生労働省が発表した2023年度の「保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(関連記事はこちら(2022年度)とこちら(2021年度)とこちら(2020年度)とこちら(2019年度)とこちら(18年度)とこちら(17年度)とこちら(16年度)とこちら(15年度)とこちら(14年度)とこちら(13年度))。
個別指導、1464施設の保険医療機関等・4435名の医師等に実施
保険証(被保険者証)やマイナンバーカードを提示して医療を受ける場合、我々患者は年齢・収入により、かかった医療費の1-3割を負担するのみで済みます。残りの9-7割は他者(医療保険者や国、自治体)が負担しています。
このように保険診療は、▼公費(税金)▼保険料▼患者の一部負担―の財源を組み合わせて成り立っており、我々国民(医療保険の加入者)は「ケガや病気の際に、普段から皆が納めたお金」の支援により、低廉な負担(1―3割負担)で良質な医療を受けられます。したがって財源(医療費)の配分は「適正」に行われなければなりません。
この適正配分のためのルール(「診療 → レセプト請求 → 支払い」に関するルール)が健康保険法、療養担当規則、診療報酬点数表などで厳格に定められているのです。このルールに従わない保険医療機関や保険医は、「皆が納めたお金(医療費)を不正に受給している」こととなりペナルティが科されます。最も重いペナルティとしては保険指定の取り消し、つまり「保険診療からの退場命令」となっています。
厚労省は、保険医療機関等がこうしたルールを遵守しているかどうかを定期的に確認し、違反などが疑われる場合には、指導や監査を行っています。
「指導」には次の3種類があります。
(1)集団指導:新規に保険指定を受けた医療機関や医師などを対象に、保険ルールを説明する講習会
(2)個別指導:違反などが疑われる医療機関を呼び出し、面接懇談方式で、保険ルールを遵守するよう指導する(新規に保険指定を受けた医療機関を対象とする「新規個別指導」もある)
(3)集団的個別指導:保険請求金額が高額な医療機関を一定の場所に集め、簡便な面接懇談方式で、保険ルールを遵守するよう指導する
昨年度(2023年度)に(2)の個別指導(新規個別指導を除く、以下同)を受けた保険医療機関等は1464件で、前年度から41件・2.7%の減少となりました。
内訳は、▼医科:525件(前年度比20件・3.7%増)▼歯科:512件(同21件・3.9%減)▼薬局:427件(同増減なし)―となっています。
また、個別指導を受けた保険医等は4425人で、前年度から424人・10.6%増加しています。内訳は、▼医師:2774人(前年度比1190人・75.1%増)▼歯科医師:990人(同535人・35.1%減)▼薬剤師:661人(同231人・25.9%減)―となりました。
一方、集団的個別指導は、2020年度にはコロナ感染症拡大を避けるために「ゼロ件」となっていましたが、21年度から感染対策を十分に行ったうえで再開。23年度には、全体で1万568件(前年度に比べて4730件・30.9%減)で、内訳は▼医科:3421件(同2205件・39.2%減)▼歯科:3775件(同1393件・27.0%減)▼薬局:3772件(同733件・16.3%減)―という状況です。
46施設の医療機関等・88名の保険医等に監査を実施、保険指定取りは21件・14人
著しいルール違反が疑われる場合には「監査」によって事実関係が調査されます。その中でルール違反が確認されれば、違反の程度に応じて「保険指定取消」「戒告」「注意」のいずれかの処分が行われます。
昨年度(2023年度)に監査を受けた保険医療機関等は46件で、前年度に比べて6件・11.5%減となりました。内訳は、▼医科:22件(前年度比2件・10%増)▼歯科:22件(同7件・24.1%減)▼薬局:2件(同1件・33.3%減)―となっています。
また監査を受けた保険医等は88人で、前年度に比べて2人・2.2%減となりました。内訳は、▼医師:41人(前年度比10人・32.3%増)▼歯科医師:35人(同9人・20.5%減)▼薬剤師:12人(同3人・20.0%減)―でした。
また、監査の結果、重大なルール違反が確認され「保険指定取消」となった保険医療機関等は8件(前年度から2件増)、取消処分が決定する前に自ら保険指定を辞退した分(指定取消相当)は13件(同1件減)で、両者を合計した「保険指定の資格喪失」件数は21件(同3件増)となりました。
内訳を見ると、指定取り消しは▼医科:5件(前年度比1件増)▼歯科:3件(同1件増)▼薬局:0件(同増減なし)—、指定取り消し相当は▼医科:6件(同3件増)▼歯科:6件(同1件減)▼薬局:1件(同1件減)―という状況です。
また保険指定取消・取消相当となった保険医等は14人(前年度比増減なし)で、内訳は、指定取り消しで▼医師:5人(同増減なし)▼歯科医師:8人(同2人増)▼薬剤師:ゼロ人(同増減なし)、取り消し相当で▼医師:ゼロ人(同増減なし)▼歯科医師:1人(同1人減)▼薬剤師:ゼロ人(同1人減)―となっています。
依然として「重大なルール違反」が一定数存在しています。医療費財源は、上述したように「皆が病気・ケガのために備えて納めている」ものです。ルール違反により、多く配分を受けようと考えることは厳に慎まなければなりません。
保険指定取り消しとなった医療機関の事例を見ると、「施設基準を満たしていない入院料を請求していた」、「行っていない診療行為を請求していた」(いわゆる架空請求)、「実際に行った保険診療に、行っていない診療行為を追加して請求した」(いわゆる付増請求)、「保険診療で認められない診療行為を、保険診療を装って請求していた」などがあります。こうした不正請求については診療報酬の返還請求がなされ、2023年度の返還金総額は46億2338万円(前年度から26億5077万円増)となりました。
返還の内訳は、監査による返還金額が7391万円(前年度比7892万円減)、適時調査(医療機関等が施設基準等を守っているか確認する調査)による返還金額が31億9557万円(同23億9212万円増)、指導による返還金額が
13億5390万円(3億3758万円増)となっています。
保険指定取り消し等の端緒(きっかけ)は、▼保険者や医療機関の従事者、患者等からの情報提供:18件(前年度比6件増)▼警察の摘発など:3件(同3件減)―となっています。
保険者の多くは、加入者に向けて「あなたの今月の医療費は●●円です」という通知(医療費通知)を行っています。冒頭に述べた「医療費の財源は国民全員のお金であり、適正な受診が求められる(はしご受診などの、いわゆるドクターショッピングは好ましくない)」という注意喚起の役割を果たします。それと同時に、医療費通知を見た加入者が「私は、今月はこの医療機関にかかっていない。なぜ医療費が発生しているのか」「私は医療機関にはかかったが、このような高額医療は受けていない」などという具合に不正請求を発見する重要なツールにもなっています。「情報公開」が様々な面で重要であることを確認できます。
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