地域医療提供体制の維持・確保のため、病院の消費税問題の解決、地域医療を守る医療法人の税制整備を―日病
2025.8.28.(木)
病院の消費税問題については、現在の「非課税・診療報酬での補填」ではどのようにしても過不足が生じる。また、物価が高騰する中で「病院の控除対象外消費税」負担が更に重くなり、経営を強く圧迫している。地域の医療提供体制を維持・確保するために、抜本的な「病院の消費税問題」解決、つまり「低い税率で課税(軽減税率)し、還付を行う」仕組みが必要である—。
日本病院会が8月25日、福岡資麿厚生労働大臣に宛てて、こうした内容を盛り込んだ来年度(2026年度)の税制改正要望を行いました(日病サイトはこちら)。
地域医療の要である医療法人の存続のため「相続税・贈与税の納税猶予・免除」制度を
日病の税制改正要望の全体像は次のとおりです。
【国税】
(1)【重点】社会保険診療報酬等に関する消費税の取り扱いを軽減税率による課税取り引きに改めること
(2)【重点】持分のある医療法人に対する事業承継税制を整備すること
(3)認定医療法人に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置について、認定医療法人が期限内に移行手続きが完了できなかった場合に再認定が受けられるようにすること
(4)医療法人の出資評価で類似業種比準方式を採用する場合の参照株価は「医療福祉」と「その他の産業」のいずれか低いほうとすること
(5)医療機関の設備整備を支援するための税制を整備すること
(6)公的運営が担保された医療法人に対する寄附税制を整備すること
(7)医療保控除の制度を拡充すること
【地方税】
(1) 【重点】社会保険診療報酬に係る事業税非課税措置を存続すること
(2) 【重点】病院不動産について、固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税の非課税措置を整備すること
【地域医療の拠点としての役割と税制】
(1) 新興感染症の流行や災害の発生時にも、病院が地域医療の重要な拠点としての役割を十分に果たせるよう、優遇措置を講じること
【自費診療要件の緩和】
(1) 社会医療法人等において自費診療の請求金額を自由に設定できるように改めること
このうち国税の(1)「消費税」対応については、四病院団体協議会(日病のほか、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)でも同様の要望を行っています。
保険診療については消費税非課税とされ、患者・保険者が医療機関に消費税を納めることはありません(薬価等には消費税が含まれている)。一方、医療機関は様々な物品を購入しており、当然、購入相手に消費税を含めた代金を支払います。すると、通常の商取り引きと異なり、最終消費者ではない医療機関が消費税を負担する形になっています。
このため、医療機関の消費税負担を補填するために、現在、「診療報酬の特別プラス改定」で対応がなされています(関連記事はこちら)。具体的には「いわゆる控除対象外消費税」(医療機関が負担し、償還を受けられない消費税負担)の額を計算し、これに見合うように「基本診療料(初・再診料や入院料等)の引き上げ」を行うものです。
しかし、医療機関によって物品の購入内容・購入量は全く異なるため「控除対象外消費税(医療機関が負担し、償還を受けられない消費税負担)の額」は大きく異なります。また、医療機関によって診療行為・患者数等も全く異なるため「基本診療料(初・再診料や入院料等)の算定回数」も大きく異なります。このため、診療報酬での対応は「医療機関全体では想定度、控除対象外消費税を補填できる」ものの、個々の医療機関単位で見ると「補填が十分でない」ケースや、逆に「補填が大きすぎる」(つまり益税になってしまう)ケースが出てきます。
日本医師会は「診療報酬での対応の精緻化により控除対象外消費税問題は解消した」との立場をとっていますが、病院、とりわけ急性期の大規模病院では「物品購入に伴って生じる消費税負担が大きい」点を踏まえ「抜本的な対応を行う」よう従前から求めています。
このため日病は「病院においては軽減税率(課税することにより「還付」を受けることが可能となる)による課税取引に改めてほしい」と要望しています。
また国税の(2)では、全医療法人の約6割を占める「持分あり医療法人」(2024年3月末時点)が地域医療提供体制の要である点を踏まえ、今後も地域医療提供体制を確保するために、中小企業と同様の事業承継税制(相続税・贈与税の納税猶予・免除制度)を創設することを求めています。
一方、地方税の(1)でも地域医療提供体制を維持・確保するために、現在の「保険診療収入への事業税非課税措置」を継続することを強く要望しました。
さらに、地方税の(2)では、一般の医療法人も国立病院や社会医療法人、特別養護老人ホーム等の福祉施設と同様に地域医療提供体制の重要要素であり、同じく非営利法人である点に鑑み、これらと同様の不動産税制上の措置(固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税の非課税措置)を創設することを求めています。
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