物価が高騰する中で「病院の控除対象外消費税」負担が更に重くなり経営を強く圧迫、抜本的な解決が必要―四病協
2025.8.26.(火)
病院の消費税問題については、現在の「非課税・診療報酬での補填」ではどのようにしても過不足が生じる。また、物価が高騰する中で「病院の控除対象外消費税」負担が更に重くなり、経営を強く圧迫している。抜本的な「病院の消費税問題」解決が必要である—。
日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会の4団体で構成される四病院団体協議会(四病協)が8月21日、福岡資麿厚生労働大臣に宛てて、こうした内容を盛り込んだ来年度(2026年度)の税制改正要望を行いました(日病サイトはこちら)。
物価高騰の中で、病院の建物、設備、医療機器などにかかる消費税負担が更に過重に
四病協の税制改正要望は、すでに Gem Medで報じたとおり次の15項目です。
(1)社会保険診療報酬等の非課税に伴う控除対象外消費税問題の抜本的な解決
(2)医療機関に対する事業税の非課税措置・軽減措置の存続
(3)認定医療法人制度の存続と認定期限の緩和等
(4)持分のある医療法人に係る相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の創設
(5)社団医療法人の出資評価の見直し
(6)中小企業関係設備投資減税の医療界への適用拡大
(7)病院用建物等の耐用年数の短縮
(8)医療機関における医療DXへの対応および省エネルギー対策への設備投資等に対する税制措置
(9)医療法人の法人税率軽減と特定医療法人の法人税非課税
(10)介護医療院への転換時の改修等に関する税制上の支援措置の創設
(11)社会医療法人等における訪日外国人に対する自費診療要件の見直し
(12)賃上げ促進税制における税額控除上限の緩和要望
(13)社会医療法人に対する寄附金税制の整備および非課税範囲の拡大等
(14)医療機関同士での再編による資産の取得を行った場合における登録免許税、不動産取得税及び固定資産税の軽減措置
(15)医療従事者確保対策用資産および公益社団法人等に対する固定資産税等の減免措置
繰り返しになりますが、いくつかポイントを絞って眺めてみましょう。
まず(1)の消費税問題については、現在、「診療報酬の特別プラス改定」で対応されています(関連記事はこちら)。具体的には「いわゆる控除対象外消費税」(医療機関が負担し、償還を受けられない消費税負担)の額を計算し、これに見合うように「基本診療料(初・再診料や入院料等)の引き上げ」を行うものです。
しかし、医療機関によって物品の購入内容・購入量は全く異なるため「控除対象外消費税(医療機関が負担し、償還を受けられない消費税負担)の額」は大きく異なります。また、医療機関によって診療行為・患者数等も全く異なるため「基本診療料(初・再診料や入院料等)の算定回数」も大きく異なります。このため、診療報酬での対応は「医療機関全体では想定度、控除対象外消費税を補填できる」ものの、個々の医療機関単位で見ると「補填が十分でない」ケースや、逆に「補填が大きすぎる」(つまり益税になってしまう)ケースが出てきます。
日本医師会は「診療報酬での対応の精緻化により控除対象外消費税問題は解消した」との立場をとっていますが、病院、とりわけ急性期の大規模病院では「物品購入に伴って生じる消費税負担が大きい」点を踏まえ「抜本的な対応を行う」よう従前から求めています。
このため四病協では「病院においては軽減税率による課税取引に改めてほしい」と改めて要望しており、2026年度の税制改正でも、この点を改めて要望しています。
また(2)でも、従前と同様に▼社会保険診療報酬に対する非課税(個人、医療法人共通)▼自由診療収入等に対する軽減税率(医療法人のみ)—の2つの税制特例措置を「恒久的に存続する」ことを求め、さらに(3)では、認定医療法人(2014年度税制改正で創設)について▼相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置を2027年1月1日以降も延長する▼相続発生後に移行申請を行う際の申請期限を緩和する▼移行期限内に「持分なし医療法人」に移行できず認定取消となっても、再度認定を受けることができるようにする—よう求めています。
他方、(4)として「『持分あり医療法人』に対し、中小企業の事業承継における相続税・贈与税の納税猶予・免除制度と同様の制度」(贈与税は株式等に対応する税額の全額、相続税は同じく80%の納税を猶予し、後継者が死亡時まで株式等を保有し続ければ最終的に納税が免除されるなど)を創設することを改めて要望しています。
さらに効率的かつ質の高い医療提供を実現するために「医療DXは不可欠」ですが、その一方で病院経営は非常に厳しいことを踏まえ、(8)として、医療DX・省エネルギー対策のための設備投資等(建物附属設備、構築物、器具備品、ソフトウェア)について、「即時償却または税額控除を選択適用できる措置」、「一定期間の固定資産税(償却資産税)の非課税措置」の創設を求めています。
また、(12)では、賃上げ促進税制における税額控除額が「法人税額・所得税額の20%が上限」とされているところ、「人件費率が高くかつ利益率の低い産業(医業もここに含まれる)においては控除税額が上限に達しやすく、税制を十分に活用できないおそれがある」とし、構造的な賃上げを実現するために「税額控除額の上限緩和」を求めています。あわせて、賃上げ促進税制は「経営状況が赤字の医療機関」や「公的病院」には適用されないため、これら医療機関に対しては「診療報酬上の措置」を講じるよう求めています(関連記事はこちら)。
なお、四病協の構成団体である日本医療法人協会では、「物価が高騰する中で、医療機関の控除対象外消費税負担(建物、設備、医療機器、各種の運営コストの10%等)もさらに増加している」ことを強調し、「医療機関の経営破綻を防ぎ、医療体制を維持・確保するためにも、この問題を抜本的に解決する税制上の措置を講じるべき」と強く要請しています(医法協サイトはこちら)。
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