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高額療養費制度、長期療養者等に配慮し「多数回該当」を据え置きながら、自己負担限度額引き上げへ—高額療養費専門委員会

2025.12.16.(火)

1か月あたりの医療費自己負担を一定程度に抑える「高額療養費」制度の重要性は論を待たないが、医療保険制度の持続可能性確保、負担の公平性確保という点から一定の見直し(自己負担限度額の引き上げ)も必要となる。その際、長期療養患者や低所得者への配慮が必要となるため、「多数回該当者」については自己負担限度額を据え置いてはどうか―。

その際、新たに「患者の年間自己負担上限」の仕組みを検討してはどうか―。

また、70歳以上の高齢者の特性に鑑みた「外来特例」(自己負担限度額を低くする仕組み)についても一定の見直しを行ってはどうか―。

12月15日に開かれた「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(以下、専門委員会)で、こうした基本的な考え方が取りまとめられました。今後、社会保障審議会・医療保険部会に報告されるとともに、2026年度予算案の編成過程で具体的な「自己負担上限額の見直し」などが決まっていきます。

「外来特例」(自己負担限度額を低くする仕組み)についても一定の見直しを

Gem Medで報じているとおり、「高額療養費制度の見直し」論議が進められています。

我が国の公的医療保険制度(健康保険制度)では、患者は医療機関等の窓口で医療費の1-3割を負担します(残りの7-9割が保険から給付される)。しかし、入院して手術を受けたり、高額な医薬品を使用するなどして医療費が高額になることがあります。例えば2024年度の健保組合加入者では、1か月当たり医療費最高額は1億6871万3210円でした。約1億7000万円の3割は5100万円ですが、これを「自分自身で毎月負担できる」患者はごくごく稀でしょう。

このため、我が国の医療保険制度では「毎月の医療費自己負担を一定程度に抑える」(患者自身が支払える額に抑える)ための【高額療養費制度】が設けられています。

高額療養費の概要1(社保審・医療保険部会2 241121)

高額療養費の概要2(社保審・医療保険部会3 241121)



高額療養費制度は「安心して保険医療を受けられる」ための非常に重要な意味(セーフティネット機能)を持っており、「堅持すべき」との意見が大勢を示しています。一方で「医療保険財政が厳しい中で制度を見直してく必要性がある」との意見も強く、専門委員会で見直し論議が進められてきました(これまでの議論に関する記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

12月15日の会合では、厚生労働省保険局保険課の佐藤康弘課長から、これまでの議論を踏まえた「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」案が提示されました(前回会合での議論を踏まえた修正版)。そこでは、次のような考え方が示されています。

【高齢化の進展や医療の高度化等により増大する医療費への対応】
▽医療保険制度はもとより、高額な医療を必要とする状態になった場合における極めて重要なセーフティネット機能である高額療養費制度を将来にわたって堅持していくためには制度改革に取り組んでいかなければならず、その際、「医療保険制度全体の改革」を進めつつ、その中で高額療養費の在り方を検討していくことが必要である

▽高額療養費制度を取り巻く課題や将来への制度の継承を確かなものとするためには、近年の高額療養費の伸び等に一定程度対応した形での自己負担限度額(以下、限度額)の見直しを行っていくことの必要性は理解する

▽限度額見直しに当たっては、「長期療養者の経済的負担の在り方」に十分配慮し、「短期療養者を中心に限度額を見直す場合」でも、低所得者への適切な配慮を行うことが必要である

高額療養費制度の見直しイメージ(全体像)(高額療養費専門委員会4 251215)



【年齢にかかわらない応能負担に基づく制度の在り方】
●所得区分の細分化
▽現行の高額療養費制度の所得区分はあまりに大括りであり、「応能負担」の考え方を踏まえた制度設計という観点から、所得区分を細分化(住民税非課税区分を除き、1つ1つの現行所得区分を、さらに3区分に細分化)し、所得区分の変更に応じて限度額ができる限り急増・急減しないようにすることが適当である

高額療養費制度の見直しイメージ(所得区分)(高額療養費専門委員会5 251215)



●外来特例
▽70歳以上高齢者のみに設けられている「外来特例」については、その必要性は理解できるが、現役世代の保険料負担軽減という観点から「制度の見直し自体は避けられない」という方向性で概ね一致し、月額上限・年額上限のそれぞれについて応能負担という視点を踏まえた限度額の見直し(引き上げ)を行う

▽高齢者の健康寿命延伸、受療率低下などに鑑みて、医療保険部会における高齢者の負担の在り方の議論の状況を踏まえた上で「対象年齢(現在70歳以上)の引き上げ」も視野に入れて検討すべき

▽この点、「段階的な見直しなどの丁寧な対応が必要、高齢者の負担の在り方の議論の動向を見極めた上で慎重な議論が必要」との意見や、「現役世代との公平性の観点から、将来的な廃止を含めて検討すべき」との意見がある前回会合での議論を踏まえた追加が行われている)

高額療養費制度の見直しイメージ(外来特例)(高額療養費専門委員会6 251215)



【セーフティネット機能としての高額療養費制度の機能強化】
●多数回該当
▽長期療養者に配慮し、「多数回該当の限度額」は現行水準を維持するべき

▽仮に多数回該当以外の限度額を見直した場合、「限度額に到達しなくなり、長期療養が必要だが多数回該当から外れてしまう」者が発生するため、新たに患者負担に「年間上限」を設けることも考えられ、「高額療養費の限度額に該当しない者」も含めて制度の対象とすることも検討すべき(前回会合での議論を踏まえた修正が行われている)

▽実務的な面でも精査が必要となるが、保険者におけるシステム面での対応が制約条件にならないよう「患者本人からの申出を前提とした運用」で開始することも含め、実現に向けた制度設計の詳細や課題を早急に整理すべき

▽例えば、年収200万円未満で「仕事と治療を両立している長期療養者」の経済的負担は非常に重いため、所得区分を細分化する際には、こうした者への経済的負担に「特に配慮」すべきとの意見もある

【その他】
▽高額療養費制度への意識を改めて喚起し、制度への理解を更に深めるため「高額療養費制度を利用した場合に、全体としてどの程度の医療費がかかっているのか、高額療養費としてどの程度の金額が還付されているのか」などの全体像の見える化を進めていくことが重要であり、実務的な対応も含めた検討を深めていくべき

▽現行では「加入する保険者が変わる際に、多数回該当のカウントがリセットされる」が、実務的な課題もあるものの「カウントが引き継がれる仕組み」の実現に向けた検討を進めていくべき(前回会合での議論を踏まえた追加)

▽高額療養費の在り方は、高額薬剤の開発・普及等を背景に「増大する医療費負担を全体としてどう考えていくか」という大きな視点で、今後とも継続的に検討していくべき課題である(前回会合での議論を踏まえた修正)

【まとめ】
▽具体的な金額(限度額)等については、医療保険制度改革全体の議論を踏まえて設定すべき

▽施行時期については、国民・医療関係者への周知、保険者・自治体の準備(システム改修等)などを考慮すると「一定の期間」が必要であり、「来夏(2026年夏)以降、順次施行できる」ように丁寧な周知等を求める

高額療養費制度の見直しの基本的な考え方(案)



こうした内容に異論・反論は出ていませんが、委員からは▼年間上限額を設定する際には「多数回該当の額」を念頭において検討してほしい。月額上限等の引き上げを行う場合でも、相当程度「抑制」的に検討してほしい(天野慎介委員:全国がん患者団体連合会理事長)▼今後も「能力に応じた負担」の在り方を継続検討してほしい(井上隆委員:日本経済団体連合会専務理事)▼保険者が変更になった際(転職・退職等)に高額療養費の該当月数がリセットされてしまう問題は、保険者サイドも課題と認識している。保険者間の情報連携が円滑に進むよう丁寧に検討してほしい(北川博康委員:全国健康保険協会理事長、佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)▼疾病構造の変化を踏まえ「特定疾病」(例えば人工透析、血友病、HIVなど)の取り扱いを今後の重要検討課題に据えるべき(北川委員)▼高齢者の健康状態は向上しているが、生産年齢人口世代に比べれば受診率は高く、外来特例の仕組みは継続することが妥当である。対象年齢(現在70歳以上)の引き上げを求める声もあるが、仮に実施する場合でも「健康寿命の延伸」の範囲内に抑えるべきで、本体は高齢者の特性に鑑みて引き上げは好ましくない(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼外来特例該当者の対象疾患を見ると、高額療養費の趣旨に合致しないものも混在しており、見直しは不可避である。高額薬剤の開発は今後も続くと考えられ、定期的な高額療養費制度の見直し、さらに見直しにあたっての基本的なルール作りも進めるべき(佐野委員)▼高額薬剤の開発は今後も続くと考えられ、現役世代の負担を考慮すれば「公費の拡充」を積極的に検討すべき(島弘志委員:日本病院会副会長)▼いわゆる無価値・低価値医療(効果のないことが科学的に実証されている医療)の取り扱いを、エビデンスベースで検討していくべき。外来特例該当者の対象疾患を見ると生活習慣病も少なくなく、高齢者自身の予防に向けた自助努力も重要である(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)▼高額療養費制度の見直しにあたっては、保険者サイドのシステム改修に必要な準備期間の設定、財政支援、国民への丁寧な広報などを十分に行ってほしい(原勝則委員:国民健康保険中央会理事長)—などの注文がついています。

外来特例該当者の疾患(75歳以上、低所得者)(高額療養費専委員会1 251215)

外来特例該当者の疾患(75歳以上、低所得者)(高額療養費専門委員会2 251215)

外来特例該当者の疾患(70-74歳)(高額療養費専門委員会3 251215)



今後、社会保障審議会・医療保険部会にこうした内容が報告され、2026年度予算案の編成過程で具体的な「自己負担上限額の見直し」などが決まっていきます。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

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