2020年度改定に向け医療経済実態調査の内容を確定、回答率アップが課題―中医協
2018.12.14.(金)
12月12日には、中央社会保険医療協議会の「調査実施小委員会」と「総会」が相次いで開催され、2020年度の次期診療報酬改定に向けた「医療経済実態調査」の内容を固めました(関連記事はこちら)。
診療報酬は保険医療機関にとって収益の中心となることから、診療報酬改定にあたっては医療機関等の経営状況の把握が必要不可欠です。そこで、改定前後の経営状況を把握するために医療経済実態調査が行われ、その結果が改定に向けた重要な基礎資料となります。
医療経済実態調査は、医療機関や薬局などの経営状況を調べる「医療機関等調査」と、保険者の財政状況を調べる「保険者調査」の2つで構成されます。
前者の「医療機関等調査」は、全国の医療機関等から対象施設を抽出しアンケート方式で実施されます。中医協では従前より「医療経済実態調査の信頼性確保」が重要な検討課題となっていました。例えば「経営的に余裕のある医療機関等が回答に協力的で、厳しい医療機関等はそうでない」ような事態があれば、結果に大きなバイアスがかかってしまうからです。
そこで、2020年度の次期改定に向けた今般の調査では、有効回答率の向上に向けて▼前回調査(2018年度改定に向けた調査)結果概要を、今回の調査票等と併せて送付する▼診療側関係団体(医師会や病院団体など)への協力依頼を引き続き実施する▼回答施設に対し「当該施設の経営状況を分かりやすくフィードバック」する▼電子調査票の利用を促進する▼調査項目を整理・縮減する―といった見直しを行うことになりました。
このうち、「回答施設に対する経営状況のフィードバック」が注目され、厚生労働省は、例えば「医療機関等の損益率分布を示し、『貴院はどの位置にある』といった点を示す」ことなどを検討しています。もっともどういったフィードバックがなされるのかが示されていなければ(遅くとも、院内で資料をまとめる段階までに)、回答意欲は向上しません。診療側の安部好弘委員(日本薬剤師会副会長)もこの点を指摘しており、厚労省保険局医療課保険医療企画調査室の樋口俊宏室長は、「工夫する」考えを明確にしています。
また、メディ・ウォッチでもお伝えしているように「消費税率引き上げに対する診療報酬による補填において、過不足・バラつきがある」ことが分かっています。中医協委員からは、「診療報酬改定の都度に補填状況を調査すれば、過不足・バラつきが生じた際に迅速に対応できる」といった指摘が出ており、今般の調査では、▼材料費について「薬剤費」と「特定保険医療材料費」を分けて調査できるようにする▼設備関係費・経費のうちの「消費税課税対象費用」を把握可能とする▼その他の医業・介護費用のうちの「消費税課税対象費用」を把握可能とする—といった見直しを行います。もっとも、医療機関等の負担にも考慮し、これら項目に未回答であっても、回答全体は無効とはしない見込みです(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
さらに、保険薬局について、「同一グループ保険薬局の店舗数別」に経営状況を把握することになりました。従前、「同一法人の保険調剤を行っている店舗数」別の調査を行っていましたが、より広範に「同一グループの保険調剤を行っている店舗数」別へと見直すものです。中医協では「大規模な保険薬局チェーンについては、利益率が非常に高い。こうした薬局については、調剤報酬等を引き下げるべき」との指摘が診療側内部からも出されています。2020年度改定においても、この方針が維持・強化される可能性が高いと言えるでしょう。
なお、病院については入院基本料別に経営状況を把握しますが、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)から「地域包括ケア病棟で利益率が高く、急性期病棟(従前の7対1・10対1、現在の急性期一般)から地域包括ケア病棟への転換が増えていると聞く。入院基本料別だけでなく、地域包括ケア病棟の種類別などでも、経営状況を把握すべきではないか」との提案がなされました。もっとも、特定入院料は種類も多く(地域包括ケア病棟のほかにも、ICU、緩和ケア、回復期リハなどなど)、「どの特定入院料に注目した分類を行うべきか」は、十分に中医協(とくに調査実施小委員会)で議論しなければなりません。樋口保険医療企画調査室長は「次回調査以降の課題」と位置付けています。
来年(2019年)5月末には医療機関等へ調査票を配布し、調査票への記入・回答を待ちます(2019年7月末を一応の期限とするが、柔軟に対応する)。その後、厚労省でデータのクリーニング・分析を行い、2019年11月頃には中医協へ回答結果が報告される見込みです。
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