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勤務医の労働時間短縮にも医療介護総合確保基金の活用を、2024年度からの新医療計画等に向け総合確保方針を改正―医療介護総合確保促進会議

2021.10.12.(火)

2024年度からの医師働き方改革に向けて、勤務医の労働時間短縮を進める必要がある。この点、地域医療介護総合確保基金を活用して、勤務医の労働時間短縮体制整備(例えば、勤怠管理システムの導入やICTシステムの導入、タスク・シフティングのための研修経費など)にも活用することができる―。

2024年度から新たな医療計画・介護保険事業(支援)計画がスタートすることを踏まえ、その上位概念(医療・介護連携を進める)となる総合確保方針についても改正を行う―。

10月11日に開催された「医療介護総合確保促進会議」(以下、促進会議)で、こうした議論が行われました。

10月11日に開催された「第15回 医療介護総合確保促進会議」

医療介護総合確保基金、「勤務医の時短体制整備」にも活用可能

来年度(2022年度)から、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025度年には、すべて75歳以上の後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが飛躍的に増加していきます。あわせて医療・介護双方の複合的なニーズを抱える高齢者の増加が予想されます。

こうした状況に対応できる医療・介護提供体制を構築することが求められ(例えば医療機能の分化・連携の強化、地域包括ケアシステムの構築、医療・介護人材の確保など)、2014年度から各都道府県に「地域医療介護総合確保基金」(以下、総合確保基金)が設置されています。

国から都道府県に資金を提供し、各都道府県で基金を創設。その基金を活用して、(1)地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設・設備整備(2)居宅等における医療提供(3)介護施設等の整備(地域密着型サービス等)(4)医療従事者の確保(5)介護従事者の確保(6)勤務医の労働時間短縮に向けた体制の確保—の6事業を活性化させていくことが求められています。

10月11日の促進会議には、基金の執行状況・交付状況などが報告されました。医療分(上記の(1)(2)(4)(6)事業)については、2014-2019年度に全体で5372億4000万円(うち国費は3518億6000万円)が交付され、うち4613億5000万円(同3075億7000万円)が執行(実際に活用)されています。執行率は全体(国負担+都道府県負担)で85.9%ですが、都道府県によってバラつきがあります。例えば秋田県や兵庫県など100%に達している自治体がある一方で、東京都(50.7%)、青森県(54.5%)のように執行率の低い自治体もあります。

医療分の基金執行状況(医療介護総合確保促進会議1 211011)



基金を活用した上記事業(医療機関の施設整備など)を行う際には、同時に都道府県の負担も発生する(国が3分の2、都道府県が3分の1)ため、計画通りに進まない部分があると考えられます。

また、事業別のシェアを見ると、例えば2020年度交付額ベースでは、国全体で▼(1)の医療機関の 施設・設備整備:39.6%▼(2)居宅等における医療提供:5.6%▼(3)医療従事者の確保・養成:51.5%▼勤務医の労働時間短縮体制整備:3.4%―となっています。ただし、医療提供体制の状況・課題は地域地域で異なるため、シェアは区々になります。

医療分の基金配分状況(医療介護総合確保促進会議2 211011)



この点、佐保昌一構成員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)や今村聡構成員(日本医師会副会長)は「(6)の勤務医労働時間短縮体制整備がゼロ%の自治体がある」ことを気にかけています。

2024年4月から、すべての勤務医について新たな時間外労働上限規制が適用され、「原則として960時間以内、救急医療など特殊事情がある場合には1860時間以内」に時間外労働を抑える必要があります。すべての医療機関で「労務管理の徹底」「労働時間の短縮」に急ぎ取り組むべき状況に鑑みれば、「大丈夫なのか」という不安も生じます(取り組みが不十分であれば、例えば救急医療の縮小などをしなければならず、地域の医療提供体制が確保できなくなってしまう)。

しかし、(6)の時短体制整備事業は2020年度にスタートした新事業であること、財務省との調整に時間を要し、都道府県への案内が遅くなったこと、新型コロナウイルス感染症の影響で調整に時間がかかっていることなどから、「2022年度には間に合わず、23年度以降に申請が多数出てくる」ことも期待できます。厚生労働省医政局医事課の山本英紀課長は「個別都道府県の事情もあると思う。状況を精査するとともに、都道府県への働きかけを強化していく」考えを示しています。

医師働き方改革の全体像(中医協総会1 210721)



また、仙賀裕構成員(日本病院会副会長)は「基金の公的医療機関と民間医療機関への配分比率を見ると、(1)(2)(4)の事業では民間医療機関に5-8割が配分されているが、(6)事業では6割が公的医療機関に配分されている。公立・公的医療機関に優先配分しているのか」と質問。これに対し山本維持課長は「(6)の時短体制整備事業は『ベッド数×単価』で補助額を計算するため、規模の大きな公的医療機関で交付額が大きくなると考えられる。公民での差別などはしていない」と説明しました。

医療分の公民配分状況(医療介護総合確保促進会議3 211011)



また、労働時間短縮が早急に必要となる「救急医療など高度急性期・急性期医療を提供する地域の基幹病院」は、地方では公的医療機関が担うケースが多いことも関係している可能性がありそうです。



さらに加納繁照構成員(日本医療法人協会会長)は「(6)の時短体制整備事業には、どういった取り組みが対象となるのか、具体例を明示してほしい」と要望しています。労働時間短縮を進めるためには、例えば「業務内容の整理」「医師から他職種へのタスク・シフティング」などがまず思い浮かびますが、ほかにも「位置情報を確認できるビーコンを勤務医に配付し、医師の勤務状況を確認する」などの取り組みもあるようです。山本医事課長は「勤怠管理システムの導入やICTシステムの導入、タスク・シフティングのための研修経費など多岐にわたる取り組みが各医療機関で行われており、好事例は厚労省ホームページなどで共有しており、今後も情報共有を進めていく」考えを明確にしています。



なお、加納構成員は、前年の促進会議と同じく「兵庫県において、大規模な公立病院の設置に基金が活用されている。病床規模など、適正性を確認すべき」と改めて要請(公立の「姫路循環器病センター」と民間の「製鉄記念広畑病院」とを再編・統合した新病院「県立はりま姫路総合医療センター」の設置)。これに対しては、厚労省医政局地域医療計画課の鷲見学課長が「各都道府県において、基金が公平・公正に活用されるよう、幅広い関係者間で調整され、その結果をもとに申請が行われている。国でも執行状況・内容を検証していく」考えを説明し、理解を求めています。

コロナ禍でも、我が国の医療提供体制には「資源が散在してしまっている」という大きな課題のあることが判明しました。また、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンと米国メイヨークリニックとの共同研究では「症例数(病院の規模と大きく関係する)と医療の質とは相関する」ことが分かっています。この視点に立てば「医療機関の集約化を進めていくべき」という考え方が導かれます。

ただし、国民皆保険体制を敷いている我が国では「医療へのアクセス」も極めて重要な視点の1つと言えます。加納委員の指摘の背景には、「超大規模な公立病院が多数整備され、民間病院の経営を圧迫すれば医療へのアクセスに問題が生じかねない」との危惧があると考えられます。

人工膝関節置換術における症例数と術後合併症の関係

介護人材の確保に財源配分が割かれてきているが、さらなる推進を

また、介護分(上記(3)(5)事業)については、2015-2019年度に全体で3158億4000万円(うち国費は2105億6000万円)が交付され、うち2525億4000万円(同1683億6000万円)が執行(実際に活用)されています。執行率は全体(国負担+都道府県負担)で80.0%ですが、やはり都道府県によってバラつきがあります。

(3)施設整備事業と(5)人材確保事業との比率を見ても、都道府県によって大きくことなっています。この点、東憲太郎構成員(全国老人保健施設協会会長)は「従前に比べて(5)の人材確保事業の比率が増加しているが、まだまだ十分とは言えない。また自治体によっては、基金の使い勝手が良くないところもあると聞く。国でも改善に向けて都道府県等の指導を行ってほしい」と要請しています。

介護分の基金執行状況(医療介護総合確保促進会議4 211011)

介護分の基金配分状況(医療介護総合確保促進会議5 211011)

オンライン資格確認等システムの推進に向け、システムベンダーも含めた関係者で邁進

我が国では、公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されていることから、「質の高い、かつ人口のほぼすべてをカバーする量の健康・医療・介護データ」が蓄積されています。例えば、医療・介護のレセプトデータ、特定健康診査のデータなどです。

これらのデータを有機的に結合し、分析することで、健康・医療・介護サービスの質を高めるとともに、かつ効率的な提供も可能になると考えられます。例えば、「Xという遺伝子に変異のあるがん患者にはA抗がん剤は効果的だが、B抗がん剤は効果が低い」という情報が広範に分かってくれば、患者の遺伝子変異に応じた効果の高い抗がん剤のみを投与することが可能になります。効果の低い抗がん剤投与による患者の身体的・経済的負担をなくすことができるとともに、保険財政の健全化にも役立ちます。

医療分野については、例えば▼EHR(全国の医療機関で、患者個々人の薬剤、手術・移植、透析―などの情報を確認できる仕組み)を構築し、2022年夏から運用する▼PHR(国民1人1人が、自分自身の薬剤・健診情報を確認できる仕組み)―などの整備が進み、一部がこの10月(2021年10月)から稼働します。例えば、救急搬送された患者の薬剤情報を医療機関が確認し、「禁忌薬を避けて、安全・安心な検査・処置を行う」ことなどに活用できます。

また、こうした仕組みの基盤を活用したオンライン資格確認等システム」が、この10月(2021年)20日から本格稼働「します。詳細は別稿に譲りますが、「健康保険被保険者証(保険証)としての利用を可能とするマイナンバーカードを用いて、医療機関窓口-審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金、各国民健康保険団体連合会)との間で、当該受診患者の医療保険加入状況を瞬時に確認する」ものです。

この仕組みが全国に普及すれば、例えば「以前に勤めていた会社から交付された保険証を、退職後も返還せずに使い続ける」「他人から保険証の貸与を受けて保険診療を受ける」とった不適切事例のほとんどを解消することが可能となります。

しかし、医療機関サイド、患者・国民サイドの準備は万全とは言えません。オンライン資格確認等システムの準備が完了した医療機関等は、直近では7%程度にとどまっているようです。厚労省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長は「システムベンダーを含めて、すべての関係者の協力を得て、体制整備を進めていく」考えを強調しています。

2024年度からの新医療計画・介護計画スタートを見据え、総合確保方針も改定へ

ところで、2024年度からは新たな医療計画(第8次医療計画)と新たな介護保険事業(支援)計画)(市町村による第9期介護保険事業計画と、都道府県による第9期介護保険事業支援計画)がスタートします。

冒頭に述べたとおり、2025年度、さらに2040年度(2025年度から40年度にかけて、高齢者数の増加は鈍化するが、支え手となる現役世代人口が急速に減少していく)を見据えて、医療・介護連携が極めて重要となります。このため、医療計画と介護保険事業(支援)計画との上位概念となる「総合確保方針」が策定されています。例えば、各計画を策定する際には、都道府県の医療所管部門と介護所管部門とで、密接な連携をとるべきことなどが記載されています。

2024年度から新たな計画がスタートすることを踏まえ、促進会議では「総合確保方針の改正」を行う考えも固めています。各計画の策定スケジュールを踏まえて「2022年末までに総合確保方針の改正案をまとめる」ことになります(その後、2022年度末までに医療計画や介護保険事業(支援)計画の策定指針を国で定め、23年度に各都道府県・市町村で計画作成、24年度から実行という流れになる)。

2024年度の新医療計画等に向けて、総合確保方針も改正へ(医療介護総合確保促進会議6 211011)



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