治療抵抗性の前立腺がん、新治療法として「RNA分解酵素を標的とする薬剤」に期待—都健康長寿医療センター
2022.8.17.(水)
治療抵抗性の前立腺について、がん細胞の増殖を抑えるために「RNA分解酵素(RNASEH2A)の働きを阻害する薬剤」が有効と考えられる—。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が8月10日に、こうした「RNA分解酵素を標的とした新しいがんの治療法の開発」について公表しました(研究所のサイトはこちら)。
前立腺がん、治療抵抗性→再発・難治化→死亡という流れを抑えたい
前立腺がんは、欧米・我が国において「男性が罹患するがん種」として最も患者数が多く、国内では死亡者数が年間1万人を超えます。
前立腺がんの治療には、▼男性ホルモン作用を抑えるホルモン療法▼抗がん剤を用いた化学療法—が行われますが、やがて薬剤が効かなくなり(治療抵抗性)、「再発・難治化」→「死亡」に至るという課題があります。
今般、都健康長寿医療センター老化機構研究チームシステム加齢医学研究の井上聡研究部長、高山賢一専門副部長と東京大学医学部附属病院泌尿器科との共同研究により「治療抵抗性になったがん組織では、DNAに結合したRNAのみを除去する『RNASEH2A』という酵素(RNA分解酵素)が特に上昇する」ことを発見。あわせて、治療抵抗性になった前立腺がん組織では、「DNAへのRNA結合(Rループ)が蓄積される一方で、RNASEH2を活性化し DNAヘの損傷を回避することで治療抵抗性を獲得している」ことも分かりました。
このため「RNA分解酵素(RNASEH2A)の働きを阻害できれば、治療抵抗性となった前立腺がんの増殖を抑えることができる」と考えられ、研究チームでは、RNASEH2を阻害する小分子を2つ抽出。この小分子をがん治療薬として新たに応用する(RNA分解酵素を標的とした薬剤)ことで「RNASEH2が活性化し、ホルモン療法の効かないがん細胞の増殖を抑える」ことが可能であることも突き止めています(すでにマウスを用いた実験で効果を確認する段階まで到達)。
今後のがんの治療法の開発に大きく貢献するものと期待されます
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