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2016年度国民医療費、前年度から0.5%減少し42兆1381億円に―厚労省

2018.9.25.(火)

 2016年度の国民医療費は、前年度に比べて2263億円・0.5%増加し42兆1381億円となった―。

 厚生労働省が9月21日に公表した2016年度の「国民医療費の概況」からこうした状況が明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(2016年度の概算医療費(国民医療費の98%)に関する記事はこちら、前年度(2015年度)の国民医療費に関する記事はこちら)。前年度(2015年度)には、画期的なC型肝炎治療薬のハーボニーやソバルディが登場したため、医療費が3.8%増となりましたが、その反動で医療費がマイナスに動いたものと言えます。

2015年度の「超高額薬剤」出現の反動で、2006年度以来10年ぶりに医療費がマイナス

 国民医療費は「1年度内に保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用」を推計したもので、保険診療の対象とならない評価療養、選定療養、生殖補助医療、正常な妊娠・分娩に要する費用、健康診断・予防接種等の費用は含まれません。

 2016年度の国民医療費は42兆1381億円で、前年度に比べて2263億円・0.5%の減少となりました。医療費の減少は、2006年度(平成18年度)以来のことです。

 1人当たりの国民医療費は33万2000円で、前年度に比べて1300円・0.4%減少しました。こちらも2006年度以来のマイナスです。

 また、GDP(国内総生産)に対する国民医療費の比率は7.81%で、前年度に比べて1.2ポイント低下、NI(国民所得)に対する比率は10.76%で、同じく0.09ポイントの低下となっています。
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 医療費が増加する要因としては、大きく「人口の高齢化」「医療技術の高度化」などがあります。後者の「医療技術の高度化」に関しては、2015年度後半に超高額薬剤(画期的なC型肝炎治療薬のハーボニーやソバルディ、新たな作用機序を持つ抗がん剤のオプジーボなど)が出現し、医療費を大きく増加させました(2015年度には対前年度比3.8%増、関r根記事はこちら)。

しかし、2016年度には薬価改正が行われて、これら超高額薬剤の薬価が引き下げられるとともに、C型肝炎治療のピークが過ぎた(ハーボニー錠では完治が見込める)ことなどが複合的に影響し、2016年度には「薬剤料の減少」→「国民医療費の減少」となったと考えられます(関連記事はこちら)。

高齢者医療費、医療費適正化の効果で「伸び率」は低水準

 次に、医療費を「誰がどの程度負担しているのか」を見てみると、国がおよそ4分の1(25.4%、前年度から0.3ポイント減)、地方自治体が8分の1(13.2%、同増減なし)、事業主が2割(20.8%、同0.2ポイント増)、被保険者(国民)が3割弱(28.3%、同0.1ポイント増)、患者が1割強(11.5%、同0.1ポイント減)となっています。

患者負担は年齢に応じて1-3割となっていますが、暦月1か月の自己負担が一定額(所得に応じて設定、例えば70歳未満で標準報酬月額が28-50万円の場合には8万100円+(医療費-26万7000円)の1%が上限となる)を超える場合には、超過分が高額療養費として医療保険から給付されるため、患者全体で見た場合の実際の自己負担(実効負担率)は1割強に抑えられているのです。

 
 また制度区分別に国民医療費のシェアを見てみると、▽被用者保険(健保組合や協会けんぽなど)が23.1%(前年度から0.4ポイント増)▽国民健康保険が22.6%(同0.8ポイント減)▽後期高齢者医療(75歳以上)が33.6%(同0.5ポイント増)▽患者等負担が12.2%(同0.1ポイント減)―などとなっています。高齢化の進展に伴い、後期高齢者医療給付分のシェアが必然的に増加していきますが、医療費そのものの伸び率は、若人よりも低い水準にとどまっています。この背景には医療費適正化方策(重複受診などの適正化「受診率の低下」、在院日数の短縮「1件当たり日数の低下」)の推進が大きく影響していると言えます。
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2015年度(超高額薬剤登場)の反動で、調剤医療費は前年度から5.0%減少

 次に診療種類別に国民医療費のシェアを見てみると、▼医科が71.6%(同0.7ポイント増、うち入院が37.5%で同0.7ポイント増、入院外が34.2%で同増減なし)▼歯科が6.8%(同0.1ポイント増)▽調剤が18.0%(同0.8ポイント増)▼訪問看護が0.4%(同増減なし)―などとなりました。

このうち調剤医療費が、前年度に比べて3964億円・5.0%と大きく減少している点が目を引きます。この背景には、上述したように、「2015年度に画期的なC型肝炎治療薬のハーボニーやソバルディの登場」したことの反動があると言えます。

また、訪問看護は、医療費に対するシェアこそ小さいものの、医療費そのものは前年度に比べて257億円・17.3%と大きく増加しており、事業所(訪問看護ステーション)の整備や利用者の増加などが進んでいることが再確認できます。
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65歳以上、医療費そのもの65歳未満の4倍だが、伸び率は65歳未満よりも低水準

 次に、年齢階級別に1人当たり国民医療費を見てみると、65歳未満では18万3900円(同1000円・0.5%減)、65歳以上では72万7300円(同1万4600円・2.0%減)となっています。65歳以上の高齢者では、65歳未満の若人に比べて医療費そのものは4.0倍(3.95倍)と大きいのですが、前述したとおり、伸び率は65歳以上高齢者のほうが小さいことが分かります。

 
 また、診療種類別・年齢階級別の1人当たり医療費は次のようになっています。やはり前年度(2015年度)の反動で、調剤医療費が減少しています。

▽医科:65歳未満は12万5000円(同100円・0.1%減)、65歳以上は53万8800円(同3900円・0.7%減)で、高齢者が若人の4.3倍

▽歯科:65歳未満は1万8700円(同200円・1.1%増)、65歳以上は3万2600円(同100円・0.3%減)で、高齢者が若人の1.7倍

▽調剤:65歳未満は3万4300円(同1200円・3.4%減)、65歳以上は12万7700円(同1万300円・7.5%減)で、高齢者が若人の3.7倍
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 医療費の適正化を考えるとき、「高齢者医療費」の伸びをいかに抑えていくかが重要であることが再認識できます。ところで、医療費は、「人口」と「1人当たり医療費」に分解でき、高齢者についても同様に「高齢者人口」と「高齢者の1人当たり医療費」に分解することができます。高齢化によって、高齢者人口は増えていくため、前者を抑えることはできません。

一方、後者の「高齢者の1人当たり医療費」については、その伸び率自体は前述のとおり「若人よりも低く」抑えられているものの、絶対額が、若人に比べて大きいことは、やはり医療保険制度の維持を考えたときに無視することはできません。

ここで、1人当たり医療費を▼受診率(どれだけの頻度で医療機関にかかるか)▼1件当たり日数(在院日数や外来受診回数)▼1日当たり医療費―に分解してみると、高齢者では、主に「1件当たり日数が長い」ことが分かっています。つまり、高齢者の1人当たり医療費が高い原因は、主に「外来受診回数が多く、入院日数も長い」ことにあると言えるのです。

この点、「高齢者の1人当たり医療費の伸び」が若人に比べて小さくなってきている背景には、「在院期間の短縮」(例えば入院料の逓減制や退院支援の評価など)や「重複受診・重複投薬、頻回受診・投薬の是正」(例えば2014年度改定で導入された外来の包括報酬である地域包括診療料など)などによって、「1件当たり日数」の伸びを抑えてきているところにあると考えられそうです。

若人では新生物、高齢者では循環器系疾患の医療費のシェアが最も大きい

 さらに、傷病分類別に国民医療費のシェアを見てみましょう。もっとも大きいのは、依然として「循環器系」で19.7%(前年度から0.2ポイント減)。次いで、▼新生物14.1%(同0.4ポイント増)▼筋骨格系及び結合組織7.7%(同増減なし)▼損傷、中毒及びその他の外因の影響7.6%(同0.2ポイント増)▼呼吸器系7.5%(同0.1ポイント増)―などとなりました。新生物、つまりがんの医療費が大きく伸びていることが分かります。

 また、傷病による医療費のシェアを年齢別に見ると、次のような状況です。

▽65歳未満:「新生物」のシェアが最も高く(13.2%)、次いで「循環器系」10.9%、「呼吸器系」10.3%、「精神及び行動の障害」9.1%、「腎尿路生殖器系」7.1%と続く

▽65歳以上:「循環器系」のシェアが最も高く(25.1%)、次いで「新生物」14.6%、「筋骨格系及び結合組織」8.5%、「損傷、中毒及びその他の外因の影響」8.0%、「腎尿路生殖器系」7.2%と続く

 傾向は前年度までと変わっておらず、高齢者医療費の4分の1を占める「循環器系」疾患、および増加傾向にある「新生物」をターゲットにした医療費適正化対策が重要であることが再認識できるでしょう。
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1人当たり医療費、最高は高知の44万200円、最低は埼玉の29万1500円

最後に、都道府県別に医療費を見てみましょう。人口規模の差を除去するために「1人当たり医療費」を見てみると、最も高いのは高知県で44万200円(前年度に比べて3800円・0.9%減)、次いで長崎県41万200円(同900円・0.2%減)、鹿児島県40万4500円(同2400円・0.6%減)となっています。

逆に最も低いのは埼玉県で29万1500円(同600円・0.2%増)、次いで千葉県29万35
1000円(同2500円・0.9%増)、神奈川県29万7100円(同800円・0.3%減)という状況です。改めて「西高東低」の状況が浮き彫りとなっている結果と言えます。

最高の高知県と最低の埼玉県との間には14万8700円・1.5倍(前年度は15万3100円・1.5倍)の格差があります。この背景には「ベッド数」の差がある(稼働率を高めるために在院日数が長くなり、医療費が高くなる)と指摘されており、介護保険の施設や居住系サービスなども含めた「病床数の適正化」を真剣に検討していく時期に来ていると言えるでしょう(関連記事はこちら)。
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